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【特集】勝手にジャズ・ヴィブラフォン特集

世間で話題の隔月刊『ジャズ批評 2022年5月号』のジャズ・ヴァイビスト120人(海外100名 国内20名)特集にならって珍しくヴィブラフォンを特集。こんな機会は滅多になかったよ。

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巷では海外100名はともかく国内20名の選出については様々な反応があるらしく、公の場での選出については僕も興味があったので関係者に聞いた(僕も発売の前々日に初めて知って現物を見せてもらった)ら、予めわかる範囲で80数名の国内ヴァイブ奏者のリストが編集部に送られて、その中から掲載の20名に絞られたそうだ。余談ながら最初は海外50名、国内10名でと言われて猛反発したらしい。もしもそうなっていたとしたらいつものように僕ら10名だけが残り若手は誰一人紹介出来ない事になるところだった。たったコレだけの事でも裏では大変な攻防があったのは想像に難くない。

いろんな反応があるのは正常な証拠で、皆が「いいね」で済むなら目に見えない努力や苦労はない。肝心なのは「ジャズ批評」という雑誌は聴き手が中心となって構成・編集される雑誌である点。他のジャズのメジャーな月刊誌はどちらかと言えば「送り手や専門側」からの情報誌であるのに対して、この本は熱心な「リスナーやファン側」からの情報誌である点が何よりも重要。ネットの時代になってコミュニティーが細分化され、さらに誰でもCDを作る事が出来る時代を迎え、少しばかり「公」というものが見えにくくなっていたところに、この特集が登場した事には敬意を表したい。

CDといっても流通しているものか否か、店頭で買えるものか否か、不特定多数の集まる場にあるものか否か、、、、はてはジャズと冠できるヴィブラフォン専門奏者(打楽器全盤ではなく)であるか否か、公共の紙面(誌面)で紹介されているものか否か、、、といろんなハードルがあるのは御存知の事と思うので、そういう点から「ジャズ批評」という聴き手側が選んだものという、我々送り手とは全く別の場所から届いたジャズ・ヴィブラフォン特集は、世界でも例のない21世紀のジャズ・ヴィブラフォン・バイブル。たぶん他の楽器だとこんな特集が今の時代に成立するかどうかは難しいと思う。少数精鋭の所帯だから出来た事かもしれない。

■我が心のGary Burton - Best One 2022/5/5掲載

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【Dreams So Real/Gary Burton】(ecm/1976年)

1.Dreams So Real
2.Ictus / Syndrome
3.Jesus Maria
4.Vox Humana
5.Doctor
6.Intermission Music

All compositions by Carla Bley

Gary Burton – vibraphone
Mick Goodrick – guitar
Pat Metheny – electric 12-string guitar
Steve Swallow – bass guitar
Bob Moses – drums

Rec December 1975 @ Studio Bauer, Ludwigsburg.

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初めて聴いた時、一曲目から完全に他のアルバムとは違う幻想ともいえる世界が展開されてスピーカーの前で動けなくなりました。録音も素晴らしく、ヴァイブのクリアーでクリスタルな響きなのに、とても温度感のあるゲイリー・バートンならではの世界が明確に記録されていて当時のエフェクターによる音像が楽曲や演奏と見事にブレンドしているアルバム。ツインギターをバックに静と動を行き来するこのアルバムはカーラ・ブレイの作品集という明確なコンセプトの上で、それが一つの壮大なスケールの世界を描いているようでグイグイ惹き込まれる。また、特にドラムのボブ・モーゼスの絶妙な反応が随所にみられ、この天才ドラマーじゃなければこの世界は描けなかっただろうと思い知る。それもあってか、ゲイリー・バートン自身もいつもにも増して熱い演奏を随所で繰り広げる。
演奏、楽曲、録音の三拍子が見事に時代と一致して今でも新鮮に聴ける師匠の最高傑作。
ちなみに、このアルバムのレコーディングの三日目からは、同じスタジオでパット・メセニーのデビュー・アルバム『Bright Size Life』のレコーディングが始まり、ボブ・モーゼス(ds)はそのまま、フロリダからジャコ・パストリアス(b)が加わった。ゲイリー・バートンが現場でプロデューサーを努めたが、アルバムのクレジットにはECMのマンフレッド・アイヒャーの名前しか載っていなかった、というエピソードがある。そりゃ怒るよね。僕なら怒鳴り込む(笑)


■我が心のGary Burton - My favorite album 2022/5/5掲載

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【Lofty Fake Anagram/Gary Burton】(rca/1967年)

1.June the 15, 1967 (Mike Gibbs)
2.Feelings and Things (Gibbs)
3.Fleurette Africaine (Duke Ellington)
4.I'm Your Pal (Steve Swallow)
5.Lines (Burton)
6.The Beach (Burton)
7.Mother of the Dead Man (Carla Bley)
8.Good Citizen Swallow (Burton)
9.General Mojo Cuts Up (Swallow)

Gary Burton — vibraphone
Larry Coryell — guitar
Steve Swallow — bass
Bob Moses — drums

Rec: RCA Victor's Music Center Of The World, Hollywood, CA on August 15–17, 1967.

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RCA時代のチャレンジの中で最もロック・スビリッツを、しかも、前作『Duster』がアメリカン・ロックやフォーキーな香りがするの対して、こちらはグッとコンパクトにスタイリッシュでUK的な香りがする。本人もビートルズに大きく影響されていたと言っていたので、初めて聞いた時はアメリカのバンドという印象がしなかった小僧(僕)の耳はまんざら捨てたものでもなかった気がする。
続くカーネギーでのライブ盤と合わせて、新感覚の楽曲を武器に保守的なジャズの世界へと切り込んで行く様が勇気を与えてくれたアルバム。ベンド奏法を初めて耳にして驚いたのもこのアルバムだった。ちなみにこのレコードを買った時には邦題に「サイケデリック・ワールド」と付けられてレコード店に並んでいた。最後の曲とかテープを切り貼りした実験的なものだったし、本人達もヒッピー的なファッションに身を包んでいたから、あながち的外れでもなかった気はする。楽曲が物を言うのをこの頃から身に沁みて育った。



■我が心の Gary Burton - Best 3 2022/5/12掲載

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『Gary Burton & Keith Jarrett』(atlantic/1970年)

1. Grow Your Own (Keith Jarrett)
2. Moonchild/In Your Quiet Place (Jarrett)
3. Como en Vietnam (Steve Swallow)
4. Fortune Smiles (Jarrett)
5. The Raven Speaks (Jarrett)

Gary Burton - vibraphone
Keith Jarrett – piano, electric piano, soprano saxophone
Sam Brown - guitar
Steve Swallow - bass
Bill Goodwin - drums

recorded at A&R Studios, New York on July 23, 1970.

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1970年のニューポート・ジャズフェスティバルで話題となったゲイリー・バートンとキース・ジャレットのステージ。それがそのままその直後にスタジオで録音されたもので、わずか一日で収録しているところからも、このユニットがどれだけ面白くやりがいのある試みを展開していたかを伺い知れる。前々年にゲイリー・バートンはギターのラリー・コリエルの退団と同時にピアニスト、チック・コリアを自身のクァルテットに迎え入れていた。けれど、当時のバートン・クァルテットのサウンドはヴァイブとギターを軸としたレパートリーで占められていたのでピアノの入り込む余地がなかったようで二ヶ月余りでジェリー・ハーン(g)に交代する事になった。その過去の反省からか、ここではキース・ジャレットの曲が大半を占める構成で、それが功を奏している。なによりもジャズ界でユニークさでは右に出るものがいないキース・ジャレットの曲がこんなにゲイリー・バートン達を鼓舞するとは誰も想像していなかった。事実ゲイリー・バートン自身も並々ならぬ覚悟でキース・ジャレットとの共演に望んでいた。
1970年の始まりを告げる,正にピースフルで、フォーキーでメロウで、ロック、ジャズ。さらに一瞬のクリスタルも含んだ大傑作。
ピアノとヴァイブのデュオのシーンがこんなに緊張感と幸福感に満ち溢れるのを初めて知ったアルバム。
ちなみに、レーベルからはキース・ジャレットとの共演は避けろ、と警告されていたらしい。我がままでやっかいで必ず面倒を起こすから君の為にもよくない、と。しかし、音楽で出会った二人にはそんな話しはまったく関係なく見事な調和が生まれた。キース・ジャレットも「本当に個性のある人間は少ない。そうだ、ゲイリー・バートンは違った。彼の音は個性で溢れているよ」と後日語っていた。



■我が心の Gary Burton - Best 4 2022/5/12掲載

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『Times Square/Gary Burton』(ecm/1978年)

1. Semblance (Keith Jarrett)
2. Coral (Jarrett)
4. Peau Douce (Steve Swallow)
3. Careful (Jim Hall)
5. Midnight (Swallow)
6. Radio (Swallow)
7. True Or False (Swallow, Roy Haynes)
8. Como En Vietnam (Swallow)

Gary Burton – vibraphone
Steve Swallow – bass guitar
Roy Haynes – drums
Tiger Okoshi – trumpet

rec:Generation Sound Studio, New York City, January 1978.

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いきなりドデタガタガドカドカドカドンドコ・・・というロイ・ヘインズの弾丸ドラムで始まる急速調の“センブランス”が、あのキース・ジャレットのソロアルバムの最高峰『Facing You』(ecm/1971年)の最終曲のイントロだと想像した人はたぶんいないだろう。でも、それは妙に説得力のあるイントロに変身するファスト・スイングとなればゴキゲンなスイングが気持いい。ヴァイブ+トランペット+ベース+ドラムと言う編成はこのアルバムで初めて聴いてシビレた。トランペットが休みのヴァイブ・トリオもある。つまりピアノトリオと何一つ劣る事無くヴァイブトリオが存在する事を強烈に頭に叩き込まれたアルバムだった。シャープでソリッドてかつクリスタル。後年自分もウァイブトリオ+トランペット(市原ひかり)という編成を作って挑戦するほどワンホーン+ヴァイブトリオというのはチャレンジし甲斐があるそのお手本。聞くとそれなりに聞こえるけどなかなか出来るもんじゃない。
ゲイリー・バートン自身はこの挑戦をまだ20歳になった頃からスタン・ゲッツのクァルテットで実験していた。ギターが抜けた時に最近ニューヨークに出て来たヴァイブで4本マレットの奏者がいるから、とベースのチャック・イスラエルに紹介してもらってオーディション。その後カナダのツアーから加入が決まった。ヴィブラフォンの可能性をいつの時代でもチャレンジして広げて行ったゲイリー・バートンの真骨頂がここにある。
ちなみに、このアルバムの曲目のクレジット。3曲目と4曲目が実際には入れ替わっているのにCDの時代になってもそのままミスプリントのまま。(ここでは並びは音源順に替えてますが・・・・)
そういうところはあまり細かくないECMという個人的なブランド・レーベルの良くも悪くも、、、、な。
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この時期、このアルバムも含めてECMのレコーディングが米国のスタジオで行われるようになった。その後、大挙してアメリカのジャズメンがアメリカのレーベルに離れて行く前兆だったのかもしれない。


■我が心の Gary Burton - Best 5 2022/5/12掲載

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『In Concert, Zürich, October 28, 1979/Chick Corea & Gary Burton』(ecm/1980年)

1. Señor Mouse
2. Bud Powell
3. Crystal Silence
4. Tweak
5. I'm Your Pal / Hullo, Bolinas (Burton solo)- comp by Steve Swallow
6. Love Castle (Corea solo)
7. Falling Grace - comp bt S.Swallow
8. Mirror, Mirror
9. Song to Gayle
10.Endless Trouble, Endless Pleasure - comp by S.Swallow

Gary Burton (vib)
Chick Corea (p)

Rec: October 28, 1979 @ Limmathaus, Zürich, Switzerland.

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今やゲイリー・バートンを知る人の大半はチック・コリアとの共演が切っ掛けにあると思うので、なぜ『Crystal Silence』(ecm/1973年)が出て来ないのか不思議に思っていたかもしれないでしょうね。もちろんこの二人のデュオは果てしなく広がる世界を今でも放っています。ただ、その前にキース・ジャレットとの一触即発とも言える並々ならぬテンションを放つ世界を知っていると、なかなかそこから離れられないのです。
もちろん好きだし最高なんだけど。それをキッパリと区分けしてくれたのがこのアルバム。
遊び心に満ちた“Señor Mouse”もいいし、名人芸の域を超えたゲイリーのソロ“I'm Your Pal / Hullo, Bolinas”もシビレるし、チック・コリア感溢れる“Tweak”や“Mirror, Mirror”もゴキゲン。
でも、区分けというか、驚いて腰を抜かしそうになったのが、このアルバムの中の“Bud Powell”でした。
80年当時の東京で何度演奏したかわからないほど、この曲には刺激を受けました。
だってコンテンポラリーの先駆者達が古典とも言えるバップ・ニアンスの曲を演奏するなんて、想像が付きませんでした。もっとも、ゲイリー・バートンを長年聞いていればスタン・ゲッツのところのレパートリーしかり、ステファン・グラッペリー(vl)との共演しかり、でスタンダード・チューンは耳馴染んでいたものの、チック・コリアの新曲がバド・パウエルへのリスペクトという意外性が面白かったのです。しかもうまく描写していて。

さて、ジャズ・ヴィブラフォン祭り。他にも『タイムマシーン』や『イン・ザ・パブリック・インタレスト』など語り切れないほど紹介したいアルバムはあるのですが、師匠のベスト5を御紹介したところで、次回は師匠以外のジャズ・ヴィブラフォン特集に踏み出してみましょうか。


今回は恩師以外のヴァイビストのお気に入りアルバムを紹介。ちなみにこの木曜ブログでヴィブラフォンをこんなに紹介するのはブログ開設16年で初めての事です。

■Roy Ayers 2022/5/19掲載

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『Live at the Montreux Jazz Festival/Roy Ayers Ubiquity』(verve/2009年)

1.Daddy Bug
2.In a Silent Way
3.Move to Groove
4.Ayers Monologue
5.Thoughts
6.Sketch in Red, Yellow, Brown, Black, and White
7.He Gives Us All His Love
8.Your Cup of Tea
9.Raindrops Keep Fallin' on My Head

Roy Ayers(vib, vo)
Harry Whitaker(el-p, vo)
Clint Houston(b)
David Lee(ds,perc)

Rec:June 20 1972 @ the Montreux Jazz Festival.

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ロイ・エアーズはジャズを意識して聴き始めた時の最初に耳にしていたヴァイビスト。フルートのハービー・マンのバンドにソニー・シャーロック(g)やミロスラフ・ヴィトウス(b)らと在籍していた。僕はギターのラリー・コリエルを追いかけて「メンフィス・アンダーグラウンド」にたどり着き、そのままコリエルを追ってゲイリー・バートンに行き着くのだけど、ロイ・エアーズのヴァイブは自分の目指すスタイルではなかったけど深く心の中に残っている。後年はソウル、アシッドジャズ界での大スターとなってヴァイブの演奏は減ったけど、初期のバップスタイル(本人談)よりも、この中期と呼ぶべき時代の演奏は鬼気迫るものがあって大好きだ。ノンビブラートだったり、4マレットだったりと、サウンドはシーンに応じて変化するが、この人の2マレットによるスピード感あふれる演奏は誰も真似できない。このアルバムは一部がレコードで発売されていたけど、全容はこのCDで初めて触れられた。71年にゲイリー・バートン&ロイ・エアーズというツイン・ヴァイブでの興行で来日した時、NHKのテレビ「世界の音楽」に二つのヴァイブ・グループが出演するという、それも日本では前代未聞の番組を見たときは、ゲイリーのバンドはサム・ブラウン(g)トニー・レヴィン(b)!! ビル・グッドウィン(ds)というクァルテットだったのに対して、ロイ・エアーズのユビキティはドラマーの入国監査が通らずにドラムレスのトリオだった。“Daddy Bug”はその時も演奏していて、懐かしい。歌が二曲だけ入るが他は演奏に集中。僕らはそのコンセントレイトしたロイ・エアーズが大好きなんだが、世間はどうやら違うようだ。


■Bobby Hutcherson 2022/5/19掲載

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『Knucklebean/Bobby Hutcherson』(blue note/1977年)

1.Why Not – (George Cables)
2.Sundance Knows – (Eddie Marshall)
3.So Far, So Good – (James Leary)
4.Little B's Poem – (Bobby Hutcherson)
5.'Til Then – (Hutcherson)
6.Knucklebean – (Marshall)

Bobby Hutcherson – vibraphone, marimba
Freddie Hubbard – trumpet
George Cables – acoustic and electric piano
Manny Boyd – flute, soprano and tenor saxophone
Hadley Caliman – flute and tenor saxophone
James Leary – bass
Eddie Marshall – drums

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周りのマリンバ奏者に全く人気がないのがハッチャーソンの弾くマリンバ。今に始まったことではなくこのアルバムが出た頃も興味を示すマリンバ専門者はいなかった。取り上げる曲に興味を示す人はいたのだが。。。それは何となくマリンバとの関わりもある僕でもわかる。オーソドックス過ぎたのだ。マリンバの世界の進化は70年代には始まっていて、それまでの2マレットによる細かいトレモロを基準とした演奏から4マレットを基調としたサウンド指向に。なのでそういう感覚で聞くと何とも言えないのだけど、このアルバム、B面(4曲め以降)のハッチャーソンが恐ろしくいい! もちろんヴァイブによる演奏なのだけど、多分それはマリンバという楽器の音のレスポンスの良さに刺激されて、さらにヴァイブの演奏が研ぎ澄まされた感じがする。面白いもので、本人はどう思っていたのかわからないけど、マリンバの音が伸びない世界が、ますますクロマチックな表現に火をつけたんじゃないかな、と。とにかくB面にシビレまくったアルバム。



■Lem Winchester 2022/5/19掲載

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『Winchester Special/Lem Winchester』(new jazz/1959年)

1.Down Fuzz (Lem Winchester)
2.If I Were a Bell (Frank Loesser)
3.Will You Still Be Mine? (Tom Adair, Matt Dennis)
4.Mysticism (Len Foster)
5.How Are Things in Glocca Morra? (Burton Lane, Yip Harburg)
6.The Dude" (Winchester)

Lem Winchester – vibraphone
Benny Golson – tenor saxophone (tracks 1 & 3-6)
Tommy Flanagan – piano
Wendell Marshall – bass
Art Taylor – drums

rec: September 25, 1959 @ Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey.

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硬めの軽く短いマレットで高速演奏をするイメージが残るレム・ウェインチェスター。楽器もナロー・バー(鍵盤が細めの楽器)で低音になると倍音がキツくなる。人によってはビブラートがあっさりと表現しているのを見掛けるけど、硬めの軽いマレットで叩くと音圧がないのでそう聞こえる楽器。
もしも、この後、楽器ももう少し低音が鳴る楽器で、マレットも少し変わったらどんなにモダンなプレーヤーになっていただろうか、と。このアルバムの3年後の1月13日の金曜日、楽屋でロシアン・ルーレットで命を落としてしまっては元も子もない。しかも、前職は警察官。
これだけ細かく演奏しているのは信じられないほどの脱力か、全くその逆かのどちらかで、そのためにはマレットの抵抗を最大限減らす必要があったのは想像できる。
当時はこの硬さがヴィブラフォンという楽器の録音で標準だったのかもしれない。
そう思って同時代の他のプレーヤーの演奏と聴き比べると、信じられないほどモダンな楽想に満ちている。彗星の如く登場して、消えていった幻のヴァイブ奏者。返す返すも惜しい存在。



■Mike Mainieri 2022/5/19掲載

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『Love Play/Mike Mainieri』(arista/1977年)

1. High Life
2.Magic Carpet
3.Latin Lover
4.I'mSorry
5.SilkWarm
6.Easy To Please
7.Sara Smile
8.Love Play

Mike Mainieri - vibe, marimba,syn,vo,etc.
Michael Brecker - tenor sax
David Sanborn - alt sax
Warren Bernhardt - keyboards
Don Grolnick - keyboards
Tony Levin, Will Lee - bass
Steve Gadd, Rick Marotta - drums
David Spinozza, John Troper - guitar

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地方で育った僕にとってマイク・マイニエリの情報はほとんど無くて、中学の時にフルートのジェレミー・スタイグとの共演盤にその名前を見た記憶くらいしかなかった。もちろんレコード店のジャズコーナーのパーテーションにはミルト・ジャクソン、ゲイリー・バートン、ボビー・ハッチャーソンくらいでロイ・エアーズですら「その他のヴァイブ」。それでも1970年代後半のジャズライフ誌の記事に「エレクトリック・ヴァイブ」の話としてマイク・マイニエリの名前を見つけた直後にこのアルバムを輸入盤で見つけて買った。
圧巻は“I'm Sorry”。ピッチペンドも含めて、当時ノンビブラートで表現する中でエレクトリック化して試してみたいもの全てがこの曲の演奏の中にあった。
東京にやって来ると、皆、マイク・マイニエリを知っていて、当時僕らの世代はクロスオーバー、またはフュージョンと呼ばれる世代だったのでその中のSTEPS信者がたくさんいたのもある。
それもそのはずで1980年12月に六本木ピットインで録音された『Smokin' in the Pit』(Better Days/1981年)が当時のトーキョーのジャズシーンに与えた影響の大きさを窺い知るものだった。



■Fats Sadi 2022/5/19掲載

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『Ensadinado/Mr. Fats Sadi, His Vibes and His Friends』(mps/1966年)

1.Night Lady 4:20
2.Ensadinado 4:45
3.Goodbye 3:15
4.The Same 5:10
5.All Of You 3:25
6.Blue Sunrise 6:50
7.Gamal Sadyin 'Em 3:40
8.Ridin' High

Fats Sadi (vib)
Francy Boland (p)
Jimmy Woode Jr. (b)
Kenny Clarke (ds)

Rec : Germany, March 21st, 1966.

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ファッツ・サディはフランシー・ボーラン=ケニー・クラーク・ジャズオーケストラで先に耳にして高校の時にこのアルバムを見つけて買った。僕はこの人のビブラートのあるヴィブラフォンの演奏は好きで、何よりも軽快で、重くならないのがたまらなく良い。しかも明るい。ベルギー生まれのサディは、最初はサーカスで演奏していたというから、今とは全然違う世界で育ったんだろうなぁ。ファッツ・サディは1927年生まれだから既にこの録音の時は40歳前。昔の人だから今の人と比べると老けているが、演奏はフレッシュそのもの。1曲めでは何とベンド奏法も披露するという驚きのミドル。アルバムのサウンド全体がしゃれているのはやはりフランシー・ボーランによるところが大きいと思うけど、この軽量感、アメリカのヴァイビストの演奏ではなかなか無い。しかもビブラート付きで。編成も同じで、しかも同じバラードを演奏しても、アメリカの誰かとは何かが違う。
僕はこちらがいいや。


■Milt Jakson 2022/5/26掲載

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『at the Montreux Jazz Festival in 1975 featuring pianist Oscar Peterson/Milt Jakson』(pablo/1975年)

1. Fuji Mama (Blue Mitchell) - 6:34
2. Everything Must Change (Bernard Ighner) - 6:21
3. Speedball (Lee Morgan) - 7:54
4. Nature Boy (eden ahbez) - 4:30
5. Stella by Starlight (Ned Washington, Victor Young) - 7:20
6. Like Someone in Love (Johnny Burke, Jimmy van Heusen) - 5:56
7. Night Mist Blues (Ahmad Jamal) - 6:36
8. Mack the Knife (Bertolt Brecht, Kurt Weill) - 6:31

Milt Jackson – vibes
Oscar Peterson - piano
Niels-Henning Ørsted Pedersen - bass
Mickey Roker - drums

Recorded at the Montreux Jazz Festival at the Casino de Montreux in Switzerland on July 17, 1975.

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ミルト・ジャクソンの演奏はほとんど聞かずに通っていました。理由は雑誌のインタビューでゲイリー・バートンをこきおろしていたから(笑)。それには理由があってゲイリー・バートンが新人ヴァイブのヤングスターとしてダウンビート誌のインタビューでミルト・ジャクソンのことを「楽器の使い方を知らない」、とかいろいろ批評しちゃったわけです。まぁ、若気の至りと本人は言っていましたが、その後一緒にツアーを回るほどになるまでの間、ミルト・ジャクソンとは楽屋などでもいつもピリピリした空気が漂っていたそうです。まぁ、二人とも大人げないと言われればそれまでですが、そこまで自分のプライドを貫き通したのは立派だと思いました。今みたいにみんな仲良し「いいね」なんて時代と比べれば。
ビブラート付きのヴァイブの音が嫌いとは言え、やはり敵を知らずして己は語れまい、と18歳の頃にいろいろ買い集めた中の一枚です。僕は古い録音もそんなに好きではなかったので、ちょうどその時代の標準の音が聞こえるこのアルバムはとても受け入れ易い質感を持っていました。
一枚となると、最後まで『Plenty, Plenty Soul』(atlantic/1957年)も迷ったのですが、やはり音像が納得のこちらに決めました。MJQの作品群のミルト・ジャクソンはまるで絵に描いたようなモダンジャズに聞こえるのに対して、ワクワクの神のようなオスカー・ピーターソンを相手にした、このラフとも言えるセッションのミルト・ジャクソンはエネルギー放出がMAX。これなら、ビブラート嫌いの僕でもワクワクさせてくれました。短いヴァイブの歴史の中で、大きなスタイルを築き上げた人だと今では納得しています。



■Red Norvo 2022/5/26掲載

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 『Red & Ross/Red Norvo』(concord/1979年)

1. Whisper Not
2. The One I Love Belongs To Somebody Else
3. How About You?
4. It Might As Well Be Spring
5. All Of Me
6. Everything Happens To Me

Vibraphone – Red Norvo
Piano – Ross Tompkins
Bass – John Williams
Drums – Jake Hanna

Recorded live at Donte's in Hollywood, California in January 1979.

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レッド・ノーヴォの名前はヴィブラフォンを弾き始めた頃から目にしていましたが、実際に音を聞いたのは人気のある『Move!』(savoy/1950年)でした。ドラムレスの、しかもベースがチャールズ・ミンガスという少しジャズを齧った中学生には興味深い顔ぶれでした。当時、チャーリー・パーカーらの「ジャズ・アット・マッシーホール」がLP化されたばかりで、酩酊状態のステージに怒ってチャールズ・ミンガスは演奏途中で帰ってしまった(あとからベースをオーバーダブ)という気性の激しい人という印象があったので、どんなことになっているのかと。でも聞こえてきたのはスイングしたベースだったので個人的には(その頃のですよ!)期待はずれ。で、レッド・ノーヴォのレコードも、ほとんど見当たらないままに高校、大学と進んでいた時に、突然このアルバムが出てきました。ジャズでいう、4本マレット(撥)の祖、とされる人の演奏をじっくり聞いてみたいという願望を満たしてくれたものでした。録音も70年代なので心配無し。
可愛い演奏、と形容できるような、古き良き時代の香りがする演奏と思いつつも、なぜソロの最初に調の主音やコードの根音からの演奏が多いのかずーっと気になっていたのですが、ゲイリー・バートンによれば、ノーヴォの耳はほとんど聴覚を失っていたのだそうです。一つは趣味の銃が耳元で暴発したことによるらしく、バンドスタンドでも他の楽器の側にいないと聞こえていなかったそうです。可愛く聞こえたのは、そんな彼が一音を出してそれが周りと合っているのかを常に確認していたのでしょうね。この録音はジャズクラブでのライブ盤。



■Dave Pike 2022/5/26掲載

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『Album/The Dave Pike Set』(mps/1971年)

1. Big Schlepp
2. Country Shit
3. King of the Tumbas
4. Papa Joy
5. Toys
6. Hongkong Woman
7. Times Out of Mind
8. Inside Crime
9. Greasy Spoon Blues

Dave Pike - vibes
Volker Kriegel - guit
J.A.Rettenbacher - bass
Peter Baumeister - drums

MPS Studio, Villingen, Germany, March 16, 1971.

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デイブ・パイクといえばビル・エバンスが入った1961年の『Pike's Peak』(columbia)が有名ですが、この人の演奏はもう少し他のアルバムに真骨頂があるように思います。ボビー・ハッチャーソンの師匠でもあるデイブ・パイク。大御所の仲間入りに異論があるかもしれませんが、ヴァイビストとしてこの人の底力を感じたのが意外や意外、デイブ・パイク・セットを率いていた時代のこのアルバム。その中の“King of the Tumbas”を聞いた瞬間に、あ、この人凄い、と。デイブ・パイク・セットは当時世界中で流行っていた新世代のジャズメンが率いるジャズとロックを融合した音楽のムーブメントに属していました。その代表が同じヴィブラフォンのゲイリー・バートン・クァルテットだったのですが、年齢的には5歳ぐらい年上のパイクが果敢に新しい領域に挑戦している姿は時々スイング・ジャーナルなどでも見かけていました。
このデイブ・パイク・セットはパイク以外はドイツを中心とした若者で固められたユニットで、このアルバムが最後で分解してしまったようです。ドイツを軸にヨーロッパ全域で活躍していたようで、その後パイクもアメリカに戻るのですが、デイブ・パイク・セットとしてのアルバムとしては最高の仕上がり。最後の曲までスリリングです。その後帰国したデイブ・パイクはハードバップ・スタイルの音楽へと戻ってゆくのですが、やはりこうしたチャレンジャーな姿は聞き逃せません。アルト・サックスのフィル・ウッズもアメリカを飛び出してヨーロッパで息を吹き返したプレーヤーですが、ウッズのビリー・ジョエルのスタジオワークのように大きな話題となるような機会はなかったようです。



■Victor Feldman 2022/5/26掲載

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『Your Smile/Victor Feldman』(candid/1974年)

1. Your Smile
2. Rockavibabe
3. Quietly
4. I Love Lucy Theme
5. Brazilian Fire
6. Minor Catastrophe
7. Crazy Chicken
8. Seven Steps To Heaven

Victor Feldman - Piano, Vibraphone, Percussion
Tom Scott - Flute, Flute [Alto], Alto Saxophone, Tenor Saxophone
Chuck Domanico - Bass
John Guerin - Drums

Recorded live in Los Angeles, California.July 1973.

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ヴィクター・フェルドマンはマルチ・インストルメンツ・ブレーヤーとして子供の頃からイギリスで神童として育っています。ドラムから始まり、もちろんジャズもマスターし、ヴィブラフォンは14歳から始めた。ジャズの本拠地アメリカへと渡ったのが1955年、渡米前から彼の噂はアメリカに届いており、ボス、ウディー・ハーマンの元へ。アメリカでも瞬く間に噂が広まり、『The Arrival of Victor Feldman』(contemporary/1958年)はスコット・ラファロ(b)との貴重なトラックとしても有名。マイルス・デイビスもぞっこんでフェルドマンの曲(例えば“Seven Steps To Heaven”)をレパートリーに取り入れるほど。フェルドマンはマイルス・デイビスからの誘いを断った数少ないミュージシャンとしても有名で、理由は当時のマイルス・バンドはツアーばかりでそのギャラでは自分のベースとなっていたハリウッドを含む西海岸での報酬に見合わなかった、とのこと。
ヴィクター・フェルドマンを最初に意識したのは日本のテレビ。80年代前半、毎朝テレビ(TBS)のお天気カメラのBGMで流れる曲が当時の『Fiesta』という彼のアルバムからの選曲で、そのポップなバラードがまさかフェルドマンとは思わずに聴いていた。それから目覚めたわけです。
ただし、演奏はピアノ、キーボードでその曲にはヴァイブの出番はなかった(アルバムには少し使われていたけれど)。
この『Your Smile』も大半はピアノによる演奏なのだけど、やはりジャズファンとしては彼の“Seven Steps To Heaven”は押さえておきたい。嬉しいことに、これはヴァイブによる演奏。さすが自分の曲だね。


そんな感じで「ジャズ批評5月号」のジャズ・ヴィブラフォン特集に倣って今月はヴィブラフォン月間としました。普段はあまり触れない自分が演奏する楽器のことを書くのもなんだか不思議ですが、せっかくスポットが当たったのだから、これぐらいはいいでしょう。
少しでも興味を持ってヴィブラフォンという楽器に耳を澄ませてくれたら嬉しい限りです。

(おしまい)