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  • 【演奏講座】カンピング(コード伴奏)とヴォイシングのこと

ハーモニーの面白さを知る四度軸音程 2014/12/19掲載

ハーモニーの勉強は、メロディーやリズムの勉強と比べるとかなり地味なもの。
でも、実は曲というものの根幹を生み出す源になっている。
曲が次に進む、あるいは繰り返すのは、そこにハーモニーの持つエネルギーが存在しているからで、いくら気に入ったメロディーでも三回も繰り返すと「くどい」と思われてしまうが、ハーモニーの魔術を使えば何度繰り返しても飽きないメロディーに仕立て上げられるのだ。
リズムとて同じで、どんなにカッコいいリズムがあっても三分もすれば飽きてしまう。そこでハーモニーの流れの中に閉じ込めると何コーラスやっても飽きられる事はない。

実は曲を、演奏者を、作曲者を操縦しているのはハーモニーなのだ。

ハーモニーを縦に積み上げて見るとそれはとてもミニマムな世界だ。
この音は響くがこの音は響かないとか、この位置でこの音はおかしい、とか、縦積みが故に細かいルールがある。

これを「え~い、面倒だ!」と投げ打ってしまうと、結局いつも同じところをグルグル回るだけ。
そうなるとどうなるか?
それこそ変拍子に改造してみたり、メロディーを何度も書き替えたり・・・・
つまり小手先で何とかしようとするのだけど、まぁ、本体はそんなにら変わらない(笑)

今日の前節とピタリだ。

先週(非公開)のマイルス・デイビスの“All Blues”でちょっとヒントを掴みかけた。
そう思う人は多いのではないかと。

その前に音楽のスタイルのお話し。
あの“All Blues”が演奏されていた時代のジャズはモード・ジャズと呼ばれていた。

モードって何?

答えを得るには、ほんの少し音楽のスタイルを遡ればいい。

1940年代のジャズが生み出した独創的なスタイルは“BeBop(ビーバップ)”と呼ばれた。
スイング・ジャズに飽き足らないジャズメンがスイング・ジャズで演奏していた曲のコード進行だけを借りて自分たちでもっとスリリングに演奏出来るように手を加えたものが主流で、よく知られた曲のコード進行にありとあらゆる装飾を施しソロを演奏するためのレパートリーへと変身させた。
ダンス音楽の一部分に属していたスイング・ジャズを観賞用の音楽に変えて行った。
今日のジャズのスタイルの原型。

1950年代半ばのジャズが生んだスタイルがハードバップとされ、ビーバップの反省点が盛り込まれたイースト・コーストのスタイル。
主な改良点は、曲そのものが最初から純粋に演奏用として作られているところにある。
それ故に、制御される箇所も多く、ビーバップのような自由さはなくなり、制約された中で火花を散らすような演奏が求められた。コードスケールの概念がすでに出来上がっており、各コードに対しては一つの限定されたスケールが適用され、事情通でなければ演奏に手も足も出ないというストイックな面もあった。

この二つの音楽のスタイルを経た後に、モード・ジャズというスタイルが登場した。

音楽の流れを大きく捉える、という事が定義で、コード進行の複雑さから演奏者を開放するスタイルになった。
このスタイルに於いては、機能和声で非和声音とされた音が無くなり、サウンドをより自由に組み合わす事が可能となった。

言葉で書くと、難しいように見えますが、実際に譜例を挙げながら音感的に理解すれば、そんなに「難しい」ものではないでしょう。

■モードへの入口

All Bluesを使って説明しますね。
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このベースラインとオスティナート、それとコードネームを照らし合わせると妙な事に気付くでしょう。

そう、C7の時に、ベースラインにも、オスティナートにも、本来アヴォイド・ノートとなる11th(=F)の音が堂々と入っているところです。

アヴォイドじゃねーの。
ダメじゃん!

でも、何度もこのベースラインとオスティナートを弾いて耳でコードの変化を追ってみてください。
やっぱり変? それとも、ちょっぴり許せる?

何度も繰り返していると、この部分のコードの変化をBとBbのたった一音の違いで見事に表していると思いませんか?

これまで長三和音を含むコードの4番目、つまり11thはアヴォイド・ノートとして嫌われていました。
しかしこのように和音を横の動きの中に含めると、意外と気にならなくなります。
もちろんその音事態は単独ではいい響きには聞こえませんが、前後に連なる音の動きの中ではごく自然な響きに感じられます。

このマイルスの“All Blues”がモード・ジャズのお手本となったのも、実はこの横の流れのオスティナートがあったからなんです。

「あれ、ちょっとカッコいい」

誰かがこのオスティナートをそう感じたとすると、それに同感する人達がこれと似たようなオスティナートを使った曲を各所で演奏した事でしょう。

たくさん聞こえて来ると、昨日までは「間違い」だったものが一夜にして「カッコいい」となるのが音楽の世界。

さぁ、その部分をじゃあ、何て呼びましょうか。
いつまでもアヴォイドノートじゃ済まされそうにありませんから(笑)

3 way of 4th Interval BuildでC7のところを作ってみましょう。

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トップに三度上の音を重ねて四声にするとC7らしい響きが出て来ますね。コードスケール上のコードのエッヂが聞こえる部分だからです(5th-13th-b7th)

当時はこの表記でモードの時は11thも使えるみたいな解釈でしたが、その後コード理論が整理された時に、このサウンドの事を次のように書き表わすようになりました。

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そう、つまりこれがsus4という事。

視覚的にもアヴォイドノートとは無縁になりました。


■モードと3 way of 4th Interval Buildの蜜月

モードの感覚が入ってからのジャズはそれまでの制御されたハーモニーのサウンドからどんどん変化して行きました。
その変化にはヴォイシングによるコードの新たなサウンドが原動力に。

例えば、簡単な曲で実践してみましょう。

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Key of C。
コードには特に特徴のあるサウンド指定はありません。

まず、これまでの基礎的なヴォイシングの考え方はこうでした。

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ヴィブラフォンやマリンバでのコード・ヴォイシングの基礎。
まずこれがコードネームを見て瞬時に弾けなければ何も始まりません。

絶対的にこの形がパッと譜面を見て楽器で弾けるようになってから、次に進んでください。
何度も弾いてポジションを覚えてからじゃないと弾けない場合は、他のキーに移調して何回でも初見の挑戦をしてください。
そこをクリアーしたと仮定して次に進みます。

右手のパートからコードのrootの音を無くします。置き換えるテンションは9th。
するとこんな具合に・・・

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さぁ、こうなると、当然ながら右手からコードトーンを無くしましょう。
残るは5thですから、これを置き替えるのは13thです。

ところが・・・・

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ああ! 惜しい!!
後は全部出来たのに、二つ目のコード、Am7のところだけ13thがb13thとなって綺麗に響きません。つまり、この音だけアヴォイドノートなんですね。

さて、どうしましょう・・・・・?





四度軸音程の伴奏・ここでの助け船は? 2014/12/26掲載

先週はモード・ジャズと伴奏の関係について説明が及びましたが、今回もその続編です。

モードという考え方は、それまでのハードバップ・スタイルのジャズがかなりコード進行に頼っていた部分からいつくかの制約を解き放つ方向へとシフトしたところに大きな変り目がありました。

ハードバップ・スタイルではメロディーとコードの関係は綿密となり、コードにはそれぞれのメロディーに対して固有のスケール(コードスケール)が適用され、それによって曖昧な音を出す演奏者を一掃しつつあったわけです。
このメロディーとコードの整合性は今日のジャズに大きく影響し、現在ではその部分が大半のジャズ理論のベースとなっています。

アベイラブル・ノートスケール(Available Note Scale)の観念もハードバップに端を発するのですが、その直後に世界中に普及したモード・ジャズの観念も取り込んでいるのです。

■アヴォイドノートの置き換え

アヴェイラブルノートスケールで最もチェックするのが「コードの響きを阻害する音」、つまりアヴォイドノートの処理の仕方。

それは伴奏に於いて最も重要なコードサウンドを明確にする為の選別能力と直結。

先週、アヴォイドノートのあるコードが並んだ場合の四度軸による伴奏のやり方について説明していると、案の定、アヴォイドノートが伴奏に紛れこみそうになりました。

こんなメロディーとコードを見ながら伴奏を考える時のお話し。

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右手のパートからコードトーンを無くしてテンションに置き換えていた途中。

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一小節めのAm7のところだけ5thを13thに置き換えようとすると、この曲のAm7のコードスケール上には13th(F#)が無く、b13th(F)となってしまうのでヴォイシングがストップしてしまったのです。

そこでこういう場合はどうするか?

答えは11thです。マイナー・セブンスコードの場合は「困った時は11th」と記憶するとよいでしょう。
なぜ?
あんなに長三和音を含むコードでは11thはアヴォイドと何度も言っているのに?

それはとっても簡単な理由ですよ。

なぜなら、長三和音の時のコードスケールの四番目の音は三番目の音の半音上になりますね。
コードがDMaj7でもD7でも、コードトーンの3rdはF#。
当然ながら四番目の音はGで11th。

この場合、D7がリディアンフラットセブンスケールやコンビネーションオブディミニッシュスケールであれば四番目の音がコレよりも半音高いスケールになるのでアヴォイドにはならないのですが、特に普通の場合は全て四度は三度の半音上になりますからアヴォイドノートに。

対してマイナーセブンスコードの場合は、三度の音がコードの根音から見て短三度の位置に。
Dm7ならF。そして四番目の音は迷わずGになるので三番目のb3rdがFでその隣の音は全音上の11thでGとなり、コードトーンとの関係がアヴォイドノートではなくなるのです。

同じ事をb13thでも当てはめてみましょう。
もしも(マイナーセブンスコードの)コードスケール上に9thはあるが13thが無く、アヴォイドノートのb13thがある場合。
rootの代わりに9th、5thの代わりに11th。

もしも(マイナーセブンスコードの)コードスケール上に9thも13thも無い時。
rootはそのまま使い、5thの代わりに11th。

どうしてrootの代わりに11thではないのか?
実際に弾くとわかりますよ。

Am7とすると・・・
以下のように積み上げた音程に。( )は実音

(E)5th
(D)11th
(C)b3rd
(G)b7th

b3rdの上は、スケールのように音が並んでしまいます。。。

では、置き換えのテンションにマイナーセブンスコードの時の11thを加えて実践してみましょう。

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解決!

これは伴奏の時ばかりではなく、ソロ(インプロ)を行う切っ掛けの音の意識の中に組み込むとアヴォイドノートで制御されていたマイナーセブンスコードにグッと親近感が増します。


さて、伴奏の原則は何でしょう?
掟といいますか・・・

まずはソリストの邪魔にならない事。
これは絶対ですね。

邪魔にならない、とはどういう事でしょう?

ソロよりも目立つな?(笑)
まぁ、そりゃそうなんですが、「目立つ」というのは音楽で言うとどんな状態でしょう?

派手?

うん、確かに。派手な伴奏はソリストとしてはゴメンですね。

それだけでしょうか?

目立つ音を弾く?

確かに、ソリストが出そうといているような音を伴奏で先に示されたらやりにくいですよね。
これもあり。

まだないですか?

???

「目立つ」というのは、まずは音数が多い、というのが先決。
音数の多い伴奏は嫌ですよね。

これは「伴奏がうるさい」と表現出来ます。(笑)
もちろん、音数もですが、音量もですよね。
ソリストの演奏が聞こえないような音量で伴奏してはならないのです。

なぜかって?

それはジャズのコード伴奏は、単なる伴奏ではなく Comping(カンピング、コンピング)と言って、ソリストの演奏を聴きながら、的確なリズムを伴うクッションのようなハーモニーを臨機応変に奏でる、という事なのです。だからリズムパターンが決められていたり、ヴォイシングの位置が固定されていたりするものとは全然別物なのです。

また、リズムを感じさせるという点では、本当にアクセントを伴ったリズムパターンを演奏するのではなく、コードのヴォイシングの位置を上げたり下げたりするだけでもリズム(つまり刻みではなく躍動)を感じさせる事が出来る事を知っておきましょう。

そりゃそうですね、ソリストが気持ちよくリズミックなソロを取っている時に、おなじようにリズムをかぶせたら、ソリストは「うるさい!」って思うでしょう。

ソリストと伴奏はある意味でのコントラストで成立するものなのです。

とは言え、どのようにハーモニーの背景をソリストのバックに作ればよいのか?

新年明けてからは、その事を説明して行きますね。




ヴォイシング基礎から応用基本へ 2015/1/9掲載

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昨夜はごく内輪の「叩き屋」でのプチ新春談義でした。
(左から)北関東一円を股にかけて活躍しているヴィブラフォンの小林啓一(通称コバケー)、御存知ドラマーの小山太郎、御存知わたくし赤松敏弘、こちらも御存知マリンバの松島美紀。
たまに息抜きも必要ですね。

さて、前回は楽器でコードを奏でる場合のヴォイシングの基本の中で、四度軸の音程を配置する時にアヴォイドノートが入る時の「助け舟」の話しからコード・ヴォイシングをソリストの背景として応用するComping(カンピング、コンピング)へと話しを進めました。

どんなものにも「基本」があるもので、いつまでも「基本」に頼っていてはダメですが、かと言っていつまでも「基本」に気付かないのも問題です。

音楽ですから、入口はどこでもいいんです。
最初から順を追って聞かなければわからない、なんて事はまったくありません。
自分の好きな音、好きな音楽から入れば良く、それに飽きる前に次の好きな音楽や音が聞こえて来たら自然に移ればいいだけです。

そうやって自分の耳を育ててゆくのが音楽での「何よりも基本」になります。
決してそこに誰かの入れ知恵や盗み見を混ぜてはいけません。

ただ、そろそろ「基本」を知っていいんじゃないの? という時期が来ます。

楽器に手を伸ばした人なら、人と一緒に演奏する機会が訪れた時、そこが「基本を味わう」チャンスになるからです。

例えば、どんなに素晴らしいドラミングが出来ても、どんなに素晴らしい音の組合せによるソロが出来たとしても、それらがその場にいる人と同じテンポの中で出来なければ「無用の長物」になります。

簡単な事です、凝ったドラミングを分析する時、凝った音程の組合せによるソロを演奏する時に、メトロノームと一緒に出来るかどうかを試すだけでいいのです。

面白い事に音楽のジャンルを問わずクリックやメトロノームを否定する人がいますが、それは「相手を聞く」という余裕が無い人の発言と思ってまず間違いないでしょう。
ただ単に機械に牛耳られたくない、という願望なのかもしれませんが、とても俗っぽい意見だと思います。

あくまでも練習の時に、そういう自分以外の物と同じ時間を共有する訓練が出来る・出来ない、で自分に対する客観性が持てる・持てない、という所に及びます。

練習の時こそ「客観性」が必要で、本番中にはもっと「耳を澄まさなければならない事」がいっぱいあるのです。

さて、練習の時こそ「客観性」が必要、という事の典型を書きましょう。

コード・ヴォイシングはメロディーに対して適正なコードのサウンドを添える事ですが、それにはまずコードスケール・ヴォイシングという基礎があり、これを飛ばしては語れないのです。

その基礎はキーボード類であればほぼ共通で、幸いな事に殆どのジャズ理論の本でその基礎について書かれてあるので、それらを読んで熟知してください。

ここでは、それを各々の楽器に反映させるところから入ります。

基礎的に知っておくべき知識としては・・・・

・コードスケール
・クローズドヴォイシング
・オープンヴォイシング(Drp2&4辺りまで)

これらのヴォイシングの基本は、メロディーの下にコードの和音を配置するという場合の基本です。
この段階で、この「メロディー」が何者であるのかに気が付いている人は意外と少ないようで、僕のヴィブラフォンの弟子達の演奏を見ていても、最初の頃はどこかで聞き覚えのあるヴォイシングを拾って来て無理矢理繋ぎ合わせたような不自然な感じが殆どで、自分からソリストに向けて発せられている伴奏には聞こえないのですね。伴奏の為の伴奏・・・みたいな。。(笑)

たぶん、そんな風に誰かが演奏したのを耳で覚えて弾いているのだろう、と察知するのですが、その殆どの理由がコード理論の初歩も初歩のオープン・ヴォイシングを「客観的」に消化出来ていないのだ、とわかりました。

オープン・ヴォイシングのDrp2&4を上から書くとこんな感じですね。

例えばキーがFメイジャー、メロディーがCの時のC7

一番嫌なメロディーですね(笑)

Top=C(メロディー)
2nd=G(5th)
3rd=Bb(b7th)
4th=E(3rd)

これがなぜオープン・ヴォイシングになるのかがわからない人、いませんか?
おさらいしておきましょう。

基本はメロディーの直下にコードトーンを並べるところから始まります。

Top=C
2nd=Bb
3rd=G
4th=E

この左側の2nd、とか3rdというのはヴォイスの順位を表すもので、上からTop Voicing、2nd Voicing、3rd Voicing、4th Voicing、と名称されます。

要注意なのはコードのコードトーンやテンションとは順位の付け方が逆な点(コードトーンやテンションの順位はコードの根音から上に向かって順位が付けられる)です。

実は、コード理論書を斜め読みした人の中にはこの辺りで混乱が始まっている人が意外とおおいのです。

混乱を避ける為に、Voicingの声部は単純に数値で表す事にします。

改めて。。。

各声部は、
Top=C(メロディー)
G(5th)
Bb(b7th)
E(3rd)

なぜこれがオープン・ヴォイシングのDrp2&4になるのかと言えば・・・・

Top=C
2=Bb
3=G
4=E

これをクローズド・ヴォイシングと呼びますね。
日本語では密集和音。
これをオープン・ヴォイシング(開離和音)に替えるには・・・

第二声部と第四声部をオクターブ下げる(ドロップ2アンド4)、というのがオープン・ヴォイシングの「基本」なのです。

すると・・

Top=C
G
Bb
E

この時に声部の呼び方はこの位置での上からの順位に呼び替えられてしまいますから、念のためにドロップする前の順位を横に補足しておきましょう。

Top=C
G・・・・(元3rd voice)
Bb・・・(元2nd voice)
E・・・・(元4th voice)

まぁ、ざっとですがこのような「基本」を土台におのおのの楽器に反映されているのがコード・ヴォイシングです。

さて、これをそのままヴィブラフォンやマリンバに応用する所で、多くの人は先に僕が指摘したTop=メロディーというものの正体を見失いがちです。

特に音域的にも狭いヴィブラフォンの場合は、このDrop2&4をそのまま応用するわけには行かない事にこの時点で気付かざるを得ません。
低音になればなるほど余韻が伸びるマリンバだって同じです。消えてほしい音が鳴っている内に次の音を弾かざるを得ない事になりますから。

そこで、まず、オープン・ヴォイシングそのものの定義を替えたのです。

コード伴奏の基本は、「左手でコードの3rdと7th」、「右手でコードのrootと5th」を弾く。

言い方は違えど、これはオープン・ヴォイシングと同じヴォイシングのスタイルになります。
楽器のレンジの都合、余韻の都合によって基準から各々の楽器の「基本」へと表現は変わるのです。


■コードスケール・ヴォイシングからカンピングへ

コード・ヴォイシングのやり方をおさらいした所で、実際にソリストの演奏を伴奏する時のカンピングについて書きましょう。
カンピング(Comping)とは、ソリストの背景をコード・サウンドによって作りだす事で、コード・ヴォイシングと非パターン的なリズミック・オスティナートを組み合わせるもの。また、ボサノヴァのように何となく決まったパターンが存在する音楽もある。

それらは主に装飾的な意味合いを持ち、コードのチェンジ、セクションの変り目、タイムキープのパリエーションなどを示す役割もある。

注意的は、ヴォリュームはソリストよりも小さくするのが鉄則である事と、ソリストの先周りをしない事(主にリズム的なアイデアで)。

コード・ヴォイシングのところで僕が指摘したのは「Top=メロディー」とは一体何者か?(何物?)という事。
その答えがカンピングにあったのです。

コードスケール・ヴォイシングではあらかた決められたメロディーの下にコードサウンドを付けていましたが、カンピングにはメロディーはありません。
従って自分でソリストのクッションとなるような音を描くところから始めます。

まず、次のようなコードの流れに対して、それを横に繋ぐヴォイス・ラインを想定しましょう。
ソロの邪魔にならないように、かといって“ありきたり”のコードサウンドを連呼しないものを想定する必要があります。

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そのラインに四度軸の音程による3声のヴォイシングを施します。
どうです? 綺麗に響くでしょ?

もう一つ別のラインを想定してみましょう。

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同じように四度軸による3声のヴォイシングを施します。

なかなかいいでしょ?

ほら! この時点で何か気付きませんか?
今までヴォイシングで大きく誤解していた事に・・・・





ヴォイシングは2+2ではなく3+1が基本 2015/1/16掲載

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市原ひかり(tp) 赤松敏弘(vib) DUO
某国営放送局に於いてヴィブラフォンとトランペットのDUOの収録があります。こんな事をやるのは、もちろん世界でも私達だけです!
もちろん、一番ワクワクしているのも私達二人かもしれません。

ヴィブラフォンという楽器をやっていると視覚的なアピール度はかなり高い。“やる側”に立つまでは当たり前ながら“みる側”の位置からこの楽器や演奏者を見ている。そう、そうなんです。でもそれは“やる側”に立つと全て逆、逆さまになる。“みる側”の右手は“やる側”の左手、“みる側”の低音は右側だが“やる側”になると低音は左側になる。上下の動きはともかく、“やる側”になったその日から左右の動きや形は全て逆さまの世界で生きて行く事になるわけだ。
当たり前過ぎて意識するのもついつい忘れてしまいそうなほど無意識な“みる側”と“やる側”のこのとても大きな違い。
時々、自分を客観的に見つめてみる時に、全てを逆さまにしてリセットすると違った自分の存在に気が付くかもしれませんよ。

さて、それと少し似たような事でヴィブラフォンを演奏している人に「錯覚」として写っているのがヴォイシング。
いえいえ、視覚的に“みる側”から左右が逆転している事ではなく、持っているマレットの役割配分のお話し。

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4本のマレットを持つ場合、当然ながら左右に二本ずつ持つのがバランス的にも普通でしょう。

メロディーを弾く時は、

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左右の手に持ったそれぞれ右側のマレットを通常の二本マレットと同じように使います。

もちろんその様子を鍵盤の向こう側から見ると

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まぁ、この通り左右の手のそれぞれ右側(つまり“みる側”の位置からするとその逆の左側)のマレットを使って忙しく鍵盤の上を駆けまわるのです。

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これを“やる側”の位置から見ると・・・

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ほらね、左右の手の右側のマレットを使っているでしょ?

まぁ、これは動きを追いながら立ち位置を反転さえ出来れば理解出来る事です。

しかし、同じマレットの使い方で、意外と多くの人が誤解しているのがカンピングに於けるマレットの使い方なんですね。

マレットはコードのヴォイシングと同じように高音から低音に向けて順位が付けられています。

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各マレットの名称:左(低音側)から上に 4th(左手), 3rd(左手), 2nd(右手), Top(右手)

さて、この視覚的配置に誤魔化されてはいけません。
実際にカンピングとしてコードのヴォイシングを配置するのは
左側の3本なのです。

以下のメロディーとコードの曲を伴奏する事を想定してください。

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メロディーとコードネームを見て、まず最初にコードスケールとアヴォイドノートを予測できたと仮定して次に進めます(この仮定が出来ない場合はコードスケール・アナライズからやり直し)。

まず右手のrootと5thを使えるテンションに置き換えるヴォイシングです。

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これはこれまでにコード弾きの基本とした左手で3rdと7th、右手でrootと5thをステップ・アップしたものです。
このヴォイシングが通常のオープン・ヴォイシングの形になります。
コードネームを見て、この形を一瞬の内にパッと弾けるようになるのが第一段階。
あくまでも、今ここで述べているのは、それを消化出来た人向けのお話しです。
それがまだ難しい人はこの金曜ブログを遡っていろいろ試してからチャレンジしてくださいね。

さて、普通にコードは弾けるようになったからと言って、それ以上の努力を惜しむとあなたの伴奏のボキャブラリーは「基礎段階」で成長を止めてしまいます。その先に踏み出しましょう。

カンピングでコードヴォイシングを行う場合は、ソリストに最良の音によるクッションを与える事が第一。
単に和音を奏でただけではソリストとのカンパゼーションに結び付くはずがありません。
和音という決まり切ったブロックがあるだけで反応する術がないからです。
例えテンションを入れたとしても、本当にそれをソリストが望んでいるという確証はないでしょう。
なぜなら、あなたはあなたが知っているテンションのサウンドを並べているに過ぎず、ソリストに最良のクッションを提供するというには、音のブロックの「形」に「形」を重ねて並べているだけでシステマチック過ぎるからです。

もっと流動的なのですね、音楽は。

そこでコードの流れの中で、まずソリストに好まれるサウンドのトップノートのラインを連想してみます。
鼻歌のようなものです。コードの流れの音程的な跳躍をスムースに滑らかに繋ぐ鼻歌。

すると・・・

例えば、単純ながらラインがコード進行とともに次のように階段を降りるように結ばれた場合・・・・

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9th/CMaj7-b3rd/Am7-13th/Dm7-9th/G7 という具合に綺麗に並びました。
ならば、そのラインの下に3 Way of 4th Interval Buildを付けてみるとこうなります。
響きも先の例よりもクッションらしくなったのではないでしょうか。

さらに、自分がパッと頭の中で閃いた別のラインを想定し・・・・
同じように3 Way of 4th Interval Buildを付けてみるとこんな感じに変化します。

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つまり、このヴォイシングはTopのラインの下にそれぞれ四度軸による三声のヴォイシングを配しているわけで、四声の和音の固まりとは違うのです。

2+2=4ではなく、3+1=4という発想。見た目が2+2でも、役割は3+1。
もしも2+2でコードを弾いていたとしたら・・・独奏でメロディーを弾きながらコードなんてとても弾けませんよね。もう一本マレットがあるか、もう一つの腕でも無い限り・・・
4th Interval Buildをピアノの左手で弾くとしたら、四度で三声以上のレンジを片手で弾けるでしょうか? 無理ですよね。指が届きません。
なので和音としてのサウンドのベーシックは三声による四度軸の和音、それを導くのがTopに並ぶ横のライン、という事に。

ただ、これだと一つのコードに対して一つのヴォイシングを配置しただけで、リズム感もなにもありません。カンピングは和音の響きを出すだけでなく、動きも演出してソリストの最良のクッションを作らねばなりません。
そこでそれぞれのコードにもう一つヴォイシングする箇所を設けてみましょう。

三拍子系なので、それぞれのコードの一番後ろの拍に「動き」を付けてみます。

するとこんな具合の動きが出て来ます。

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↓の位置にアプローチ・ラインを作る。

何も考えなければこのトップヴォイスのラインは右のように3 Way of 4th Intervald Build でヴォイシングするわけですが、考えてみてください、同じ音を連打するというのはかなり強調する事になりませんか?
メロディーですら同じ音を何度も連打するのは気分の高揚はあれど冷静になるとちょっとセンスを疑う(ある意味では打楽器的ではあるが・・・)わけですから、まして和音となると本当に強調したい場合を除けば音程的な連打はなるべく避けるべきですね。

これはヴィブラフォンに限った事ではなく和音を奏でる楽器全てに言える事です。

取りあえず・・・的に同じ音、音程を二度弾きしているアカンパニストは意外と多いのです。
ならば、その二度目を抜くか、動かすか、です。

抜くと淋しいと思う人が多いのですが、それくらいじゃないとソリストは心置きなくソロを取れません。
伴奏しているあなたが満足しているようでは、完全に弾き過ぎ、埋め過ぎなのです。
抜く、というのはとても大きな自信が無ければできません。

動くのを選んだ時は抜く時よりも音量や密度に気を付けましょう。自分がソリストの音量を上回るような音の出し方は耳とセンスを疑われます。背景としてソリストとのバランスをその場で即興的に決められるセンスが求められます。

まずここでは音を動かす選択で、なるべく同じ音は使わないトップのラインを考えてみましょう。

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こんなトップヴォイスのラインを想定中・・・・

さて、これならどんなヴォイシングが出来ますかねぇ?




鼻歌のラインは伴奏のセンサー役 2015/1/23掲載

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市原ひかり(トランペット)赤松敏弘(ヴィブラフォン)DUO @ NHK放送センター504スタジオ

コード楽器のある意味での主要課題、いや、本来コード楽器はその為にバンドの中にいるわけですが、ソリストに対して最良のクッションとなるコンピング(Comping/カンピング)がジャズの演奏では不可欠。
ホント、ある意味ではソロよりもコンピング、なのです。

先週の続きです。

こんな曲でコンピングを行う時に、何をどうすれば良いか・・・というお話し。

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コード伴奏、と括ってしまえばコードネームを見ながらコードの音を奏でる、という点ではジャズに限った話では無く、ポップスであれ、ロックであれ、歌謡曲であれ、コードを弾くという行為事態には変わりはありません。

ただ、これがジャズの特殊性でもあるのですが、演奏としての醍醐味がインプロヴィゼーションによるソロにあるように、そのソロのバックで奏でるコード伴奏もソロを包むように常時変化しなければなりません。

バッキング、という言葉をジャズでは用いずにコンピングと言うのも、その伴奏の仕組みにちょっと大きな違いがあるからです。

バッキングと言うと、先程のコードネームを見ながらコードの音を弾く、あるいはコードの音にさらに素敵な音をプラスして弾く、という意味です。

なんだ、ジャズと一緒じゃないか、、そう思います?

ジャズに一番近いエリアの音楽として浸透しているボサノヴァを一つの例にしましょうか。

ボサノヴァはある意味でジャズからさらに洗練されたメロディー、お洒落なテンション、しみじみと落ち着きのあるリズムによって奏でられます。メロディーはこの上なくテンションを絶妙に取り込み、コードの上澄みのさらに上のラインを辿ります。
そんなですから、ボサノヴァを演奏(伴奏)する時はハーモニーというものを永続的に横に繋ぎながらメロディー・ラインを浮かび上がらせる必要があります。常にハーモニーの中でサウンドとしてのテンション度を維持する必要があるからです。

楽器、コード楽器の中で音が減衰しないのはオルガンくらいのもので、ギターにしてもピアノにしても、ヴィブラフォンにしても必ず一度弾いた音はそんなに長くない時間内に減衰して行きます。
メロディー・ラインとのテンション感を常に維持しなければ、テンション・ノートを大胆に使ったメロディーは「スットンキョウ」なものになってしまいます。

そこで減衰が始まる前にもう一度弾きます。

ボサノヴァではそのタイミングをシンコペイトした特徴的なリズムパターンにする事で維持しているのです。
あの、ボサノヴァのリズムは、実はリズムの為のリズムではなく、ハーモニーの為のリズムなのです。
だからボサノヴァとサンバは別物なのですね。

ボサノヴァのようにハーモニーを継続させる目的でリズムパターンを含むパッキングは、後にポップスの世界に浸透し、ロックやファンクなど、リズミックなパッキングを欲する音楽へと受け継がれました。

で、

ジャズの場合、この部分に大きな違いがうまれました。
初期のジャズ・スタイルではリズムを刻む事とコードを奏でる事が一つのパターンのように形成されていたのですが(デキシーランド、又はスイング・ジャズなど)、インプロヴィゼーションの比重がうんと増えたバップ辺りから既製のリズムパターンでは補えないソロが飛び出すようになりました。

すると、伴奏もソロと一緒にインプロヴィゼーションしなければワークしなくなったのです。

ソロと一緒に伴奏を作るとはどういう事か?

一つには従来も今も変わらず、的確なコードサウンドをクッションとしてソリストをフォローする事。
これにはハーモニーの知識と相手を聴き取る耳があればOKです。

もう一つには臨機応変なリズム的なアイデアによるソリストのフォローです。
ソロにベッタリと寄り添うのではなく、一定の距離を置いてソリストのメロディー・ラインを邪魔しないように間を開ける、つまりそれがリズムになる、というものです。

さぁ、大変!

決まり切ったパターンの無い、相手が何を始めるのかもわからない、それでいてハーモニーでソリストを補え、なんて注文が・・・

何から手を付けて良いかわからない人もいますが、このような[臨機応変さ」を何か一つの練習で総合的に身につける事なんて不可能です。
いろんなものが複合的に絡み合って、初めて形成されるものだ、と思ってください。

そこで、僕はまず、ハーモニーの中で“鼻歌”を唄え、と言います。

ハナウタ?

人が演奏している最中にハナウタとはけしからん!!

まぁ、まあ、そんなに目くじら立てないでくださいな。
ハーモニーの中で一つ横に流れるラインを描くと言う意味に解釈してくれるとありがたい。

先週、こんなラインを描きました。

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このラインでそれぞれのコードの最後の拍のところが同じ音にならないように想像してみましょう。
このラインが“鼻歌”になるのです。

もしも、この鼻歌が全部違う音程であったなら、とてもスムースなラインを形成しますね。

そしてなによりも「次」の音の予測が容易くなります。
re~do、と下がったら、次はti~la、と来るような・・・
sol~fa、と下がったら、次はmi~reとなるような・・・
そんな“予感”!

インプロヴィゼーションの難しいところは「次」の音が予測不能である事、と言われたり思ったりしている人がいるかもしれませんが、優れたインプロヴィゼーションは「歌」そのものです。なので誰もが「次」の音の予測が出来るレベルにまでなっているものなのですね。

さて、その中で、このラインのようにこちらも予測の立つものがあるとすれば、ソリストが歌うラインに対して、自分がこれから奏でるライン(鼻歌)が合うか、合わないか、なんて事が見えてくるのです。

するとそれがまるでセンサーのように働き、的確なコードサウンドを導くラインに転身するのです。

先程の例にヴォイシングを加えてみましょう。

すると・・・

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ほらね。

次にこんな“鼻歌”を浮かべてみました。

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ここまでに説明した事を踏まえると、どのようなコンピングが生れるでしょうか・・・・




鼻歌は伴奏のセンサー役になる 2015/1/30掲載

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収録完了後の記念ショット。左から児山紀芳、市原ひかり、赤松敏弘 (NHK放送センター505スタジオ)

音色というと楽器本体から発せられるトーンの事と解釈するのが一般的。大まかに二通りの意味があって、音として表現した場合は音程の高低ではなく、色彩と同じ明度や彩度という色調という意味合いに近い。音色という言葉で認識しているがサウンド(sound)も音色だ。
たぶん最も一般的なのはサウンドで、日本語ではこれに響きを付けて音響と表現する。
面白いと思うのがこのトーン(Tone)という表現。
日常的に気軽に音楽で使われているClear tone とか、Miss toneとかと言った表現も、その意味合いと照合させながら使うとちょっと特別な意味に聞こえそうだ。ところが、音楽の表現にはもう一つノート(note)というのがある。ノートブックのノートではない、noteだ。これは「音符」という意味合いで使う。
Sound=響き全般、Tone=音質・高低など主に表情、Note=音、だ。

クラシックの教育システムで学ぶのはサウンドではなくトーンなような気がする。一つの楽器の音色を極める、そんな感じだ。では、クラシックの教育システムではサウンドを何処で学んでいるのだろうか? 実は僕も経験があるが、その部分は殆ど認識が無く、ちょっと飛躍しすぎた「音響学」くらいにしか科目として見出せない。いや、本当に。
でも、実は、サウンドを学ぶ本当のところは「聴音」だったり「ソルフェージュ」だったり、「和声学」だったりするのだが、この辺りがきちんとリングしている学校をあまり見た事がない。
学生の質によるのかもしれないが、あんなに楽器のレッスンには一生懸命なのにサウンドの勉強(むしろこれらは訓練と呼ぶ)にはからきし無頓着な場合が多い。
無頓着というのは無知という事に直結する。
これでは一つの楽器で如何に素晴らしい音色を奏でられたとしても、それを何処でどの様に発揮すれば良いのかがわからないままに終わってしまいかねない。

では、ジャズの教育システムはどうなのか?
ジャズの教育システムで学ぶのはサウンドとノートの事が主だ。響きの勉強はハーモニーとして叩きこまれ、それを実践する段階に於いて及第ラインの「ノート」を使い分ける訓練をする。ソルフェージュも聴音も和声も全て連動している場合が多く、このバランスが整わない所では実践的な教育は無理だ。では、トーンに対する勉強はどうなのだろうか?
ここにジャズの場合のシステマチックな教育の難しさがある。
個人の持つ音、個人の感覚と音色はイコールで、それに関しては余程目に余る問題がない限り寛容に対処される。つまり、サウンドやノートと比べてトーンに対する学習的な比重が低いのだ。一つには定型句のような形を用いれば誰でも喚問を通過出来てしまう部分がある事。クラシックではたった一音に命を賭けるような教育をするのに、何となくそれが奏でられたら通過させてしまうという誠に緩い限りだ。

サウンドの知識も必要、トーンの勉強も必要、ノートの訓練も必要。

単なる音の勉強と言っても、言葉でもこのようにクリアーしなければならない喚問がいくつもあるものだ。
でも、学び手は、そのどれから着手してもいい。
ただし、学び手を終える時には、それら三つの言葉をちゃんと楽器で使い分けられるようになっていなければ、だめだ。

音楽を学ぶのは、「好きな物から食べてもいいが、食べ残しちゃダメよ」というのと同じだ。

もっとも、音楽の世界は学校を出てから学ぶものの方が多い世界。学校を出たくらいでは海のものとも山のものともわからない状態、というのが音楽学校や音大を卒業したごく当たり前の姿と思ったほうがいい。夢は学校を卒業してから叶えるものだ。それに必要な音の知識も蓄えた上で。


鼻歌が伴奏のガイドラインになる。
なんだか気楽な題目だけど、そのくらい気楽にコードネームを読みながら周りのサウンドに耳を澄ませてコンピング(Comping/即興的なリズムとハーモニーの組合せによるコード伴奏)はやらなければならない。
決して自分が知ってるパターンやノート(特にテンションなどね)をソリストに押し付けてはいけない。

この例題の曲を伴奏する時の方法について

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コード・ヴォイシングの基本形はこんな感じになる

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右手のコードトーンをそれぞれのコードスケール上にある「使える」テンションに置き換えるとサウンドは少し良くなる

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まずここまでコードネームを見て楽器でパッと演奏出来るようになるのがコンピングの初心者としての必須項目。ここまでに説明している「仕組み」を楽器の上で実践する訓練をいろんな曲(コードネームのある譜面)で自主トレーニング出来ます。チャレンジあるのみ!

さて、ここから先は一段階音感レベルを引き上げて読んでください。

これらは四つの音を伴奏として弾いているのであまり意識が無いかもしれませんが、コード伴奏の形を右手2個、左手2個の合計四個の音の固まりと解釈すると、これ以上サウンドの進展はありません。

少し前から述べているように、これまでのこの方法にプラスして新たな発想による伴奏システムを自分に持つ必要があるのです。

それは3+1。つまり音程の低い側の三つのサウンドでコードの響きの要点を鳴らし、それをさらに補う形の音をトップに配置する、という発想転換です。

ここで基礎となるのが3 way of 4th Interval Build、三声部による四度音程の和音なのです。

この解説は二回前の『【演奏講座】ヴィブラフォン、マリンバ、今さら聞けないコードの秘密/鼻歌のラインは伴奏のセンサー役』http://sun.ap.teacup.com/vibstation/2490.html にありますからシステムを熟知した上で読んでください。

ここではハーモニーの流れの中でひとつ鼻歌のようなコードを横に繋ぐラインを頭に描き、それに沿ってヴォイシングを考えるようにしました。

先週最後には、このような“鼻歌”のラインを描いてみました。

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これでどのようなコンピングが生れるか、想像するのが宿題でしたね。

僕はこんなコンピングを想定しました。

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まず最初に“鼻歌”がこのコード進行の中のコードスケールを壊さないで成立しているかどうかを確認した上で、その“鼻歌”を除いた3 way of 4th Interval Buildを配置したのが譜例の左側の二小節になります。
これはコードを見ただけで浮かべられませんが、“鼻歌”ラインを想定すると自動的に配置できるわけです。“鼻歌”がヴォイシングの切っ掛けになっているわけですね。

次にその“鼻歌”を合体させたもの、つまり3+1の状態のヴォイシングが右側の二小節です。
この譜例は3+1によるヴォイシングをわかりやすくする為に3つのヴォイシング+1つのラインに分けて書きましたが、

通常は・・・

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このように見えます。
そう、演奏していても、右手がト音記号、左手がヘ音記号ですから、一見すると2+2で演奏しているように見えますね。
でも、実際はこの状態で3+1という頭脳が働いて演奏しているのです。

見る、と聞く、、、、いや、見る、と演る、では大違いなのですね。
常に聴き手側とは正反対の事をやっているのが演奏者というものですから・・・(笑)
そのくらい客観的でいいんです。





コンピングのガイドラインを詠む 2015/2/6

先週のこの金曜ブログを読んで“冷や汗”の出たコード弾きのみなさん(笑)、あなた達はもっと自信を持って大丈夫ですよ。
だって、たぶんソロにしてもコンピングにしても見よう見真似でどこか自分でモヤモヤしたものを抱えながらやって来たわけですから、そこにあなた自身の個性が生れる大きな可能性を秘めているのです。

通り一般の決まり切った「形」を知るよりも、もっと大切なものを自分で見つけつつあるのですから。音楽で、ジャズで一番大切なのはそこです。他人はどうであれ、自分には自分なりの方程式を持ち、日々様々な問題や課題を解決しながら「自分の居場所」を見つける事。これを見失ったらやる意味なんかありません。

そんな、何が正解なのか、皆目見当もつかない状態の中で、少なくとも僕のような一人のヴァイビストの提言に自分の謎を解き明かすヒントを見つけてくれるなら、ここにこうして公開している事の意義があります。
細部まではとても書けませんが、大きな謎の入口はこうして提示する事が出来ます。ここに書いている事は、教育ではなく、音楽家として生きる時に最低必要な音楽に対する興味です。
なので必要の無い用語は極力使いません。それを使うと殆どが通り一般の説明で済んでしまいます。今、こうして、ここを読んでいるのもその「通り一般」の説明では納得しないからですよね。

例えば、人名はそんなに言葉としての意味を考える必要はないのですが、時々どうしてその名前が付いたのか知りたくなるお名前ってありますよね。
近年、一番お名前で印象的だったのが「波音(なみね)」さんという方と出会った時でした。ついつい何処で育った方なのだろう、と興味を持ってしまいました。
音楽用語も一緒です。普段は気にせず使っている用語であっても、それが本当に自分が誰にでも「こうして、こう呼ばれるようになった」って説明出来るものが全てとは言えないと思うのですね。
どうして音階はAから始まらずにCから始まるのか? とか(笑)
用語と用語を繋ぎ合わせているような説明って、案外多く見掛けませんか?
もっと知りたいよねぇ、「そこんとこ」が(笑)。

多くの初心者がジャズの説明がわかりにくい、というのは音楽用語がポンポン飛び出してくるせいです。ただし、その音楽用語の成り立ちをちゃんと説明する機会があると自然に納得してくれます。つまり「わかりにくい」と言って彼等は音楽用語の意味の部分に「引っ掛かって」いるのです。

通り一般の説明では受け流せる事でも、自分の中で「なぜか引っ掛かって」興味が湧いたなら、他人事であったとしても人名のように由来を聞いてみたり、調べてみたりしたくなるじゃないですか。
ここに書いている事は全て僕がそんな気持ちから「通り一般」の音楽用語で片付けられてしまいそうなところを掘り起こして検証した結果を述べているわけで、ちっとも教育なんかじゃありません。
音楽に興味があるなら、あなたはどんなところを掘り起こして来たの? ああ、そうか、そこをそんな風に掘り起こして音を出しているんだねぇ。僕はこんな風に掘り起こして、そしてこんな音楽を現在も続けていますって事。

それが全て。

物事「形」じゃ何も解決してくれません。
こんな曲が目の前にあります。

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あなたはこれからこの曲の伴奏、つまりコンピングを行わなければなりません。
まず、この「譜面」という情報から、あなたは何をキャッチしなければならないでしょうか。

ポイントは以下の二つ。

・調号の確認 → キーの確認
・メロディーとコードの整合性 → コードスケールの割り出し

どんな曲でも、情報には優先順位があります。

メロディーは何よりも最優先ではありますが、実はメロディーには装飾も含まれるので実は最優先になるのは「コード・トーン」なのです。

それぞれのコードネームが示す四つの和音。これが何よりも最優先されます。

その為にも曲のコードの並びに、本来の調に存在するコードと、本来は存在しないコードの二種類がある事を割り出さなければなりません。また、曲は転調している場合もあります。そのような変化を察知する為にも、まずは調(キー)の確認が最優先になります。

キーとコードトーンの確認が済んだら、今度はメロディーとの整合性を測ります。

それによって、おおよその各メロディーとコードの関係から、以下のようなコードスケールの予測が立ちます。

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ここで二通りの見解が生れる部分があります。5~6小節目のCm7のコードスケールです。
ここでは独立性の高いドリアン・スケールを想定しましたが、トニックのVIm7と考える場合もあります。
最初からフラット三つの調で6小節目まで安定と考えるのであればVIm7、段階的にステップを踏むように転調している過程とするならドリアン・スケール。つまりアヴォイド・ノートを含むか、含まないか、という一点に結論は絞られます。
そうなるのはメロディーに具体性が無いからです。
僕は、この場合はメロディーが具体性を持たないので転調のステップの途中と仮定しました。

なぜ「安定」という風に考えないか?

それは3小節目のコード、D7altにあります。
もしもフラット三つの調の中での「安定」したコード進行であるのなら、この部分はVIIm7(b5)のDm7(b5)でよいわけですが、わざわざオルタード・ドミナントコードに置き換えているのは「安定」を求めていない、という証しになります。

音楽家は常に耳を鍛えろ、といいます。
もちろん聴いて何の音だかを当てるゲームのような聴音の事を言っているのではありません。それは単に音が聞こえただけで、それなら犬だって聞こえてます。要は聞こえた音がどんなハーモニーの中の音であるのか、聞こえている音と音の隙間にはどんな音が隠れているのか、そしてそれらの予測が立つようになれば、その先で演奏者や作曲者の心理まで「音」からキャッチ出来るようになります。いや、そうなるまで聴き続けて耳は常にオープンにしておかなければなりません。

理論は常に後追いですから、ちょっとした「変化」を理論的というファインダーに当てはめ過ぎて見過ごす事だってあります。理論の一番危険なところは耳の訓練が成されていないままに理論を過信しがちなところです。「理論の前に音ありき」なのですね。

この場合のオルタードはAb7の代理、つまりAb7(#11)、リディアン・フラットセブス・スケールを導入して変化を求めているのですね。

もちろんCm7でトニックに回帰してVIm7としても問題はありません。
完璧な答えは「作曲者のみぞ知る」です。

ただし、少しでもメロディーが固有のコードスケール音を示したり、明らかに小節単位で転調の兆しがみられる場合等は、必ずそれに沿います。この場合は僕が作曲者なので、ここはドリアンにします!(笑)
いや、そんなものなのですよ。作曲というものの特権ですね。

で、

それぞれのコードに“鼻歌”ラインを描いてみます。
唯一約束事として「同じコードの中で動く場合はコードトーンを連続させない」という事です。
同じコードの中では、どちらかがコードトーン、どちらかがテンション、という直近の音の中を動きましょう。

こんな“鼻歌”ラインが描けました。

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さあ、じゃあそれに、このところ何度も解説している3 way of 4th interval build (四度音程の三声の和音)を着けてみましょう。

ただし、これまでと少し異なるのは、ここで弾く四つの和音の内の三つが四度の音程となるように組み合わせるのです。

これまでは“鼻歌”ラインの下に3 way of 4th interval buildを添える形にしていましたが、ここからは“鼻歌”ラインも交えた四つの和音の内の三つが3 way of 4th interval buildとなるように配置します。

さぁ、大変!

じゃ、どんな具合になるのか、試してみましょう。

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譜例ではどちらの声部に3 way of 4th interval buildが出来ているのかを示したので少し読み辛いかもしれません。

この方法によって、これまでは3 way of 4th interval buildの配置が難しかったドミナント・コードでも容易くサウンドの中に3 way of 4th interval buildを組み込む事が出来るようになりました。

なぜそのようになるのか・・・・

その辺りを少し掘り下げてみましょう。




コンピングの前にドミナントの分析を 2015/2/13掲載

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CD『マジェスティック・カラーズ/赤松敏弘』Band team 25-25
赤松敏弘(vib)
ハクエイ・キム(p)
生沼邦夫(b)
小山太郎(ds)


ジャズの演奏の中で一番厄介なのがドミナント・コードでしょう。
トニック・コードもサブドミナント・コードも、それぞれに固有の音階を持ち合わせているので知らない曲でもそれらのコードスケールを連想するのはそう難しい事ではありません。
それはコンピングでヴォイシングを行う時にも言えるわけで、固有の音階であれば何の迷いもなく「使える音」と「使えない音」の分別が付きます。つまりアヴォイドノートさえ踏まなければ、自分のセンスに応じたヴォイシングを作って伴奏するのも容易いわけですね。
アヴォイドノートの位置さえ意識にあれば4th interval buildによる3 wayのヴォイシングを何処に作るかも慣れると難しくはないのです。

ところが、曲によって、あるいは前後のコードやキーとの関係によって様々な受け口として変化するドミナント・コード。これだけは正確なコードスケールの把握にある程度の時間と経験が必要になるかもしれません。
まず、そこにあるドミナント・コードがどのような形をしているのかを演奏しながら予測する能力が必要です。
もっと大きな事を言えば、「そのコードが、本当に正確なコードネームで表記されているのか」という所にまで遡って譜面を解釈しなければなりません。

クラシックと違ってジャズはある意味で譜面に対してとても無頓着な面があるのがこういう所に現れるのです。
ただ、それが「悪い」と言っているのではありません。プレーヤーとしてやって行くのなら、もしもソコに正確ではないコードネームやコードシンボルが書かれてあったとしても、それを自分の中の知識で正確に補修・理解する能力を持たなければならないという事です。

譜面は(ジャズやポピュラーでは)直感的な表記を沢山見掛けます。
あんまり深く考えずに「この音を弾いて」という感じでコードネームを選んでいる譜面がたくさんあると思っていいでしょう。古くからのスタンダードの曲などは「誰々がこんなコードで演奏していてカッコ良かった」という事で元のコードとはまったく別のコードネームが表記されている事だって多いのです。それが良くて、ジャズなのです。
演奏する我々は、その譜面に本当にある「姿」を見抜いて演奏しなければならないわけです。

アントニオ・カルロス・ジョビンの名曲からひとつ例を。

「白と黒の肖像」という邦題の情熱的な美しい曲の一部(途中)です。

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注目すべきはこの最初の二小節。曲としては途中の部分ですが、この曲のピークの部分。ここではソロもコンピングもミスは許されませんね。

F#7(13)のところは、これまでのコードスケールの解説からコンデミである事が判明します。
コードネームに13thというテンション指定があり、メロディーにb9th(G)、#9th(A)があるので、この判定はそう難しくないでしょう。

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問題は次の小節のF#7(b13)。
さぁ、情報を集めましょう。

まずコードネームでb13thのテンション指定、メロディーにはG(b9th)があるので、これまでの通例からすればハーモニック・マイナースケール・パーフェクトフィフス・ビロウか・・・?
しかしメロディーにはもう一つA(#9th)もある・・・・

すると、これまでに出た例から考えると、スパニッシュ・フリージアン・スケールが連想される。

じゃ、ここは、スパニッシュ・フリージアン・スケールでいいのか?

同じF#7というコードを母体とした中での変化。
これには大きな変化と小さな変化があると思う。

メロディーをみると使われている音は殆ど同じだ。
こういう場合、大きな変化を求めるか、小さな変化を求めるかはある意味でセンス。一概に「コレ」とは言えない(作曲者にしかわからない)部分を含む。
しかし、音楽の受け止め方はある程度共通するのでここまでのメロディーとコードの微妙な変化を照らし合わせると、やはり「小さな変化」で「最大限の効果」を求めていると思える。同じメロディーを繰り返しながら背景の変化をゆったりと楽しみながら曲が進行して行くところにポイントがあるからだ。

では、なにを「変化」の基準にするのか・・・?

単純に考えればコードスケールの音の変化だ。

コンデミの音名に揃えて比較してみよう。

・F#-G-A-Bb-C-C#-D#-E

スパニッシュ・フリージアンだと・・

・F#-G-A-Bb-Cb-C#-D-E

この変化だとD(b13th)は指示通り、それ以外の変化はCbだ。

ただ、音程ではなくスケールの形を見た場合には第一音から第四音までの形が揃ってそれ以上はb7thの音まで違った音が並ぶ。
つまりこの二つだとコードスケールの上半分が変化すると言ってもいいだろう。
こうなると「ちょっとの変化」と言うよりも、結構大きな変化に見える。

他に、該当するものはないのだろうか・・・・?

ちょっと譜面から離れて、全体を見てみよう。

もう一つあった。
オルタード・スケールだ。

・F#-G-A-Bb-C-D-E

これだと音階の音数は減るが、音の変化はD(b13th)だけだ。

そして、ここで何度も説明していたオルタード・スケールには完全音程が存在しないので、オルタード・スケールとはあるコードスケールの転回形である、という事。

このままF#7というコードを描きながらソロやコンピングを考えると、二小節目でオルタード・スケールが入ると仮定すると完全五度(P5)の無い和音はとても不安定な響きを出してしまう。

でも、オルタード・スケールが、あるコードスケールの転回形であるとするならば、その元のコードを割り出せば安定したサウンドを描きながらソロやコンピングを行う事が出来る。自分が出す音に責任を持つなら不安材料をかかえたままソロやコンピングに挑まない事だ。物事には必ず解決への糸口がある。この場合は「とあるコードスケールの途中」から始まった音階(つまりオルタード・スケール)を過信しない事が解決へと導く。

そう、ここはCのリディアン・フラットセブン・スケール。

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1小節目をF#7(13)でコンデミ、二小節目をF#7(b13)でオルタードなのでC7(#11)のリディアン・フラットセブン、そのまま次のBMaj7に進むと、このC7(#11)はkey of B のbII7 という解釈が成立する。

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だからこの二小節目のF#7(b13)は、正確に記すと

C7(#11)/F#

となる。

完全音程のあるC7(#11)でこの部分を演奏すると、オルタードで不安定だった部分がクリアーになり、ソロもコンピングも何の迷いもなく音をセレクト出来るわけですね。




装飾音符も飾りを取れば素顔が見える 2015/2/20掲載


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日本では「ゲッツ=ジルベルト・アゲイン」なんて邦題でリリースしていましたが、正確には『The Best of Two Worlds/Stan Getz』(columbia/1976年)


「テーマが終わったらソロに入ってね」。
「はい」。
では参りましょう・・・・

ある弟子のヴィブラフォンのレッスンの時の事。テーマが終わりソロに入った。さぁ、これから、という時に、あらら・・・・何だか妙な音がしているゾ。。。? ははぁ~、さては・・・
「ちょっと止まろうか。そこのところのコードスケールを弾いてみてくれないか?」。
「はい」。
Eマイナーの曲でEm7のトニックところだ。

音大を卒業した人に多く見られる間違いがここで起こっている場合がある。
マイナースケールを弾くように言うと和声的短音階を弾くのだ。単にスケールを弾くなら自然的短音階だ。調号と一致しないスケールを短音階のスケールとして弾いて何も疑問に思わないところに和声の授業に対する無関心さが現れていて嘆かわしい。
和声的短音階は和声の為に用意された音階で調性を有するものではない(故意に設定しなければ)。普段聴いている短調の曲が和声的短音階で出来ているだろうか? あれはドミナント機能の為に造られた音階だ。調性(トニック)とは何の関連もないと思ったほうがいい。

でも、弟子は思った通りこれはちゃんと弾けている。・・・やっぱり!

「じゃあ、さっき弾いていたソロに出て来たBbの音ってなぁに?」
「 !@@! 」、うん、どうやら気が付いたようだ。

「だよね!」
「はい!」。

コード・インプロヴィゼーションは読んで字の如く、コードネームで指示されたハーモニーの流れに沿って即興演奏する事だ。あまりに当たり前過ぎて今さら何ょ!って? まぁまぁ、(笑)

でも、インプロヴィゼーション(即興演奏)と言うのはこれだけではない。
メロディー・ラインからインスピレーションを得て展開・発展して行くタイプの即興演奏もある。このタイプの場合ハーモニーという観念は薄い。音は単なる音として存在し、絡みながら反応し合う事で即興演奏が進んで行く。
大まかに分けるとこの二種だ。

通常ジャズやポピュラーでやっている即興演奏というのはコード・インプロヴィゼーションで、コードをガイドとした即興演奏。従って車を運転する時のように標識や信号機に該当する、コードネームやテンション表記の意味を知識として要する世界だ。

なのに、なぜさっきEm7というコードの中で弟子はBbの音を弾いてしまったのだろう?

答えは簡単、それはメロディーとして存在する「音」の中にBbがあったからだ。
うん! その考え方は「即興演奏」としては正しいが、コード・インプロヴゼーションとしてはエラーになってしまう。

■化粧も装飾音符も飾りを取れば素顔が見える

曲というのはある意味で「よそ行き」の顔と思っていいだろう。
もちろんソロ(コード・インプロ)を演奏する為に用意された曲なのだから、テーマよりもソロに聴きどころが置かれた曲である事を大前提とするので、クラシックの曲と比べると遥かに「薄化粧」だ。

いや、クラシックの曲を「厚化粧」と言っているのではない。が、メロディーにしてもハーモニーにしてもかなり飾り付けが施されているのは事実だ。だって、そこに書かれた旋律を何度も何度も演奏者に演奏してもらおうとするなら、少しでも魅力的に「お化粧」しないと飽きられてしまう。どう転んでも音程的な変化は12個しかないのだ。
なので本来なら単純な旋律で済むところをたくさん飾り立てて演奏者やリスナーを誘う、いや、そこに個性が宿るものなんだけどね。

それと比べればジャズの曲というのは演奏の本命がソロ(インプロ)にあるので、曲の旋律というのはクラシックのそれと比べるとかなり「薄化粧」。
かと言って「素顔」かと言うと、それでは味も素っ気も無さ過ぎるので飽きない程度にうっすら飾り付けしてあるわけだ。

で、

コード・インプロヴィゼーションでは便利な事にその「素顔」をわかりやすく説明してくれるものがあるので我々は曲の「素顔」にいつでも触れる事が出来る。
そう、それこそがコードネーム。便利な「素顔」のガイドです。
これによって、我々は作曲者の意図を汲み取ったり、演奏者の心理まで分析出来てしまうのですね。

でも、その為には「装飾」と「素顔」を分別出来る音感的なセンサーが必要。コード・セオリーでは、その辺りの事を「アプローチ」として様々に解読しています。

アントニオ・カルロス・ジョビンの美しく感傷的な名曲「白と黒のポートレイト」には、そのヒミツが沢山盛り込まれているので解読しながら音感的なセンサーを磨きましょう。

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この曲を初めて聴いたのは76年の秋の深まる時でした。まだ学生だった僕は大学祭の後片付けが終わり、とっぷりと日が暮れた山の中の丘の上にある校舎に横付けした車の中で一休み。その時にカーステレオのFMから流れて来たのがこのスタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトが10年振りに共演したというアルバムでした。

かつてのボサノヴァからMPBへと変貌を遂げるブラジリアン・ミュージックを最初に僕がキャッチしたアルバムで、後にMPBのスタンダードとなる曲がぎっしり詰まったアルバム。かつてのボサノヴァがどのように変貌を遂げていたのかを知りたい人は必聴の作品。

さて、さすがはアントニオ・カルロス・ジョビンです。
この曲のメロディーの主題は、こんな単純なメロディーの繰り返しで出来ているのですね。

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このメロディーのヒミツを解き明かさない事には、この曲でインプロをする時に、使える音と使えない音、或いは「薄化粧の音」と「素顔の音」の分別が出来ず、さっきの弟子のようにエラーを起こしてしまいます。

コード・インプロヴィゼーションの世界であっても、曲のテーマとして使われている「音」は全て理解しておく必要があるからです。それを演奏に使う、使わないは別の話しとして。

まずEマイナーの音階が基準となる曲なので、その音階を並べてメロディーを検証してみましょう。

すると・・・

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音階の中には一つのアヴォイド・ノートが存在します。それがb13thのCの音。
アヴォイド・ノートですから、通常はEm7のコードの中では使いません。

リズムを除いて、この曲のメロディーとして登場する音程をひとつにまとめてみました(譜例真ん中)。
メロディーとして存在する音は、この曲を演奏する度に、何百回、何千回、何万回と鳴らされる運命を背負っています。
そうなると、それがEm7というコード、及びコードスケールにとって普段は不要なアヴォイドノートであれ、まったくコードスケールとは無関係なノン・コードトーンであれ、この曲を印象付ける意味で重要な音程である事がわかります。そして、それらがこのメロディーにおける「薄化粧」である事にも気付きましょう。

それは一体どういう「薄化粧」になっているのか?

メロディーには出発点と終着点があります。
始まったら必ずどこかで終わるわけですね。
そこで、まず、何処が終わりなのかを見つけましょう。
すると、このメロディーが最後に放つBが短いメロディーの終着点である事になります。
何度も繰り返されるのはBから始まって「薄化粧」を経由してBに終わる、こういう構成になっています。

では、その最後の部分に対して、さっき分析されたアヴォイドノートやノン・コードトーンがどんな役割を果たしているのかをアナライズしてみましょう。

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ここに矢印(↑ or ↓)で示した音は本来はEマイナーの調では存在しなかったりEm7というコードではアヴォイドされたりする音です。
これをわざわざ使っているのは、紛れもなく「装飾」を施す為に引っ張り出された、と考えていいでしょう。

最終点となるBに対して音階の上、又は下にある音を前に置いて予見させる(浮かび上がらせる)手法をアプローチと呼びます。この最初の小節の二つの音は最終音Bに対する「薄化粧」(アプローチノート)です。
さらにノン・コードトーンA#は最終音Bの半音下の音、つまりこの二つはクロマチック・アプローチを起こしているわけで、A#をすぐBにアプローチ(この場合は解決の意)せずに、先の二つの「薄化粧」を経由して「やや厚化粧」なメロディーとして完成させています。

そうなると、この部分のメロディーの「素顔」は譜例四小節目のようにB-C-Bという単純なもので、C→Bという一つの半音のアプローチの動きが元、[素顔」となるのです。

その「素顔」の隙間に、さらなるアプローチ・ノートを挟んだ、というのが作曲者の心理に繋がるわけですね。

それが「素顔」なら、このB-C-Bというメロディーが全てのコード進行の中でワークするはずです。
検証してみましょう。

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予想通り、この部分の全てのコードの中でこの「素顔」はワークしました。

ある時はコードトーン、ある時はテンション、ある時はアプローチノート。
このたった二つの音がそれぞれのコードの中で様々な効能を生んでいます。

でも、ちょっと待ってくださいよ。
二つ目のEbdimって、これ、本当にディミニッシュ・スケールなんでしょうか?

調性のある曲で本当にディミニッシュ・スケールが想定されている箇所は無い、と言っても過言ではない事を過去のこの金曜ブログで述べていますね。

そう、この部分は何かの代用です。

何の代用なのかが見つけられないと、この部分でコードに沿ったインプロヴィゼーションは暗礁に乗り上げてしまいます。

過去の説明は本文を探して読破してください。
ここでは先に進めます。

ディミニッシュ・コードの四つのコードトーンをヴィブラフォンのヴォイシングの基本に揃えると、左と右に二つのトライトーンが現れます。この増四度の音程をディミニッシュ・コードが持つ事から、ドミナントコードの代理として使われるわけですね。

すると、二つのトライトーンの組み合わせから四つのドミナント・コード、D7、Ab7、B7、F7 が割り出されます。すると、この中からEm7と関連のあるコードがここのディミニッシュ・コードの「正体」という事になりますね。

つまり・・・

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B7。

Eマイナーのドミナント・コードです。
ではこのB7のコードスケールはどのような根拠からどんな形をした音階が割り出されるでしょうか?






本日は装飾の続き 2015/2/27掲載

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2Days横浜→東京、二日目@東京・南青山Body & Soulにたくさんの御来場をいただきましてありがとうございました!

アントニオ・カルロス・ジョビンの美しく感傷的な名曲「白と黒のポートレイト」には「装飾」と「素顔」を分別しないと演奏中に“不安”に陥ってしまう箇所が何箇所もあります。美しい曲だからこそ、「不安材料」を自力で解決する分析力を身につけておくと自信に溢れたソロやコンピングで聴き手を魅了できます。

冒頭のEbdimという部分が「何かのコードの飾」である事を突き詰めているところで先週は終わりました。

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ディミニッシュ・コードはroot-b5th、b3rd-13th、という増四度の音程の組合せに分別出来る事からドミナント・セブンスコードのトライトーンと同じサウンドを二個持っていると見なされて、それぞれの代理を含む4つのドミナント・セブンスコードが隠されていると考えるわけです。

上の譜例のように、低音部譜表の音をトライトーンと考えれば、二種二個、合計四つのドミナントコードの代理が務まるわけです。

その中で前の小節のEm7(Im7)との関連から判断すると、この部分はB7というV7コードであると考えるのが一番自然な判断になるでしょう。

音階をディグリーで考えるとE=I、B=Vです。
Eマイナーの五度の和音はVm7、つまりBm7ですが、ジャズではお馴染みのマイナー・キーでのトライトーンの進行をこの部分の音階の半音程を上手に使って解決させる為に、Bm7をB7に置き換えていると考えるのでそのコードスケールを割り出す必要があります。
メロディーに特に自然な音階と異なる音が無い限りは、最小限の音の変化でコードスケールを成立させるのが自然です。

この部分のメロディーに使われている音とコード上の音程を示すと、

(低い順)
A=b7th
B=root
C=b9th

b9th(C)があるわけです。

この音階の中の半音程の位置とそれをトニックに解決する時に動く方向を示すと・・・

C → B (下行導音)
F# → G (上行導音)

すると、

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自然に現れたBm7の音階に、一つだけ音程をシャープさせる事でB7というコードの四つのコードトーンが生れますから、この部分のドミナント・セブンスコードのスケールはハーモニック・マイナースケール・パーフェクトフィフス・ビロウ(HMP5)という事が判明します。

つまり、この曲の二小節目はEbdimのコードトーンを弾くのには違いありませんが、実質上はB7(b9)/D#。
B7(b9)というHMP5のコードスケールを持つ和音の転回形でベースにD#を指定したコード、という事なのです。

ひとつ「飾り」が取れて[素顔」が見えましたね。

この部分にはまだまだ「飾り」が施されていて、このまま鵜呑みにすると「大事故」になる部分があります。

Em7-Ebdim(B7/D#)-Dm7-Db7-CMaj7

よくメロディーと照合してくださいな。
こんな大胆な音に今まで気付かずに演奏していたとしたら・・・・・

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四つ目のコード、Db7の時のメロディーを注視すると、おかしな事に気付くでしょう。

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そう!
この小節だけやたらとノン・コードトーンが多いのです。

さぁ、困った。

っえ? 何となく雰囲気で・・・って?(笑)
そんな事が通る世界じゃないですよね、世界中で演奏されるのですから。

これをどう解釈したものでしょうねぇ。。。。



和音を立体的に眺める事のススメ 2015/3/6掲載

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コードネームを使う音楽の中でも、ジャズの場合はそのコードネームの素性と常に対峙しているところが特殊かもしれません。他のコードネームを使う音楽の場合、「コード=決まった形の和音」を弾く事が全てで、そのコードがどんな素性をしていようと、あまり関係なく接しているかもしれません。
つまり、コードネームというものの本来の役割とは、「パッと見て和音を弾く」事にあるわけで、そこに書いてあるコードネームのコードトーンが弾ければまず問題なし。
なので、音符のようにコードネームを書く、というのはあながち「間違い」ではないのです。

たぶん、「このコードネームの書き方はいかがなものか・・」などと目くじらを立てるのはジャズメンくらいのもので、殆どのコードネームを使う音楽では和音の音符の代用としてコ―ドネームは存在する。

ただ唯一、「このコードネームの書き方はいかがなものか・・・」的にコードネームと向き合う時がある。
作曲だ。
このメロディーに・・・ううん。。。このコードで良いか悪いか。。。
この時ばかりはコードの素性まで立ち入って和音の隙間の検証も必要に駆られてやったりする。

この作曲の時の心理やジャズのインプロの時の心理を「立体」という言葉で言い表す事ができるかもしれない。

極端な譬えをすれば、コードネームを見てパッと定型の和音の形を連想するのを平面的、コードネームのコードトーンを骨組みに全体像を連想するのを立体的。
別に「平面的」だから音がペッチャンコという意味では無いし、「立体的」だから音像が起伏に富むという意味でも無い。あくまでも音楽の種類によってコードネームというものが果たす役割のようなものの譬えだ。

「平面的」であれば、ある一方向から眺めても、引っ繰り返して眺めても形に変化はない。
ところが「立体的」であれば、ある一方向からはそう見えても、別の角度から見ると別の形が存在する事が見えたりする。
不思議ですね。

だからコードネームを「平面的」に捉える音楽ではその「平面」を如何に起伏豊かに演奏するかにつてい考える事に徹するが、「立体的」に捉える音楽ではそれがどんな形をしているのかを炙り出さない事には音を出す根拠が得られない。

「立体的」に捉える術が、ジャズの場合はコードセオリーであると思えば言い表したい事が理解いただけるだろう。

先週はアントニオ・カルロス・ジョビンの美しく感傷的な名曲「白と黒のポートレイト」に隠されている「装飾」と「素顔」を分別しないと演奏中に“不安”に陥ってしまう箇所をチェックしました。
冒頭のEbdimという部分が「何かのコードの飾り」である事を突き詰めてみましたが、そのまま四つ目のコード、Db7の時のメロディーを注視すると、おかしな事に気付くでしょう。

白と黒のポートレイト
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そう、このDb7のコードの小節のみ、やたらとノン・コードトーン(コードのコードトーンに限らずスケールからも外れる音)が多いのです。

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これはこのまま鵜呑みにすると[大怪我」をしそうですよ。
何か裏にある、とコードを立体的に眺めると気付いてくるのです・・・・

Cの音(Db7にはあり得ないメイジャーセブンの音)はいわゆる先週も出ていた「装飾音」として納めるのがベターでしょう。
ここではAという音に注目します。

本来ならDb7というコード表記を信じれば、この音はテンションのb13thと解釈する事が出来ます。
一応おさらい的にDb7というコードのコードトーンを書くと、

Db(root)-F(3rd)-Ab(5th)-Cb(b7th)

5thとb7thの間にあるのがAという事になるので、本来のスケールの形であれば13thになるBbが半音下がったAになる、と考えるでしょう。

しかし、ここにひとつ疑問が生れます。

この曲のキーは何?

答えはEマイナーですね。

調号にはシャープが一つ。

曲の構造を見る時、余計な理論的様式に囚われないで全体を眺めると作曲者の心理に近づけます。
理論と作曲者の間には、意外と大きな「差異」があるものです。

シャープ一つの調号にDb7というコードのコードトーンを描くとどの音を変化させるでしょう。
臨時記号でコードトーンの成り立ちを見るのです。

Db(root)はDにフラットを付け、F(3rd)はそのまま。
Aにフラットを付けてAb(5th)、Cにフラットを付けてCb(b7th)。
一応役者は揃いました。
すると臨時記号以外の音は元に残っているはずなんですね。
それをコードトーンの隙間に入れると、このコードのコードスケールが連想され、和音が「立体的」に見えるはずです。

すると次のような根拠を頼りに、このDb7という箇所のコードスケールを割り出そうとします。

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*補足
理論的観念に囚われてしまうと、この部分の解釈にある種強引な音が持ち込まれます。

Dm7-Db7-CMaj7

簡単だよ、Db7はV7(=G7)の代理コードでbII7じゃないか・・・

これがコードネームだけで物事を考えると危険、という例になります。

コードスケールとして予想できるテンション・ノートはともかくとして、コードトーンの確証が得られるのは、調号(Eマイナーの曲)よりも優先的に存在するDb(←コードの根音は絶対)、F、Cb=B。
この状態でAbが5thとして存在する、と思い込むと一つだけ矛盾する部分が出て来ます。

メロディーのAの音です。
Aにフラットを付けるのは簡単な事ですが、この譜例で示したように、b13th(またはb6th)とされるAの音を含むもう一つのコードスケール、オルタード・スケールとの比較を行う必要があります。

何の為の比較か?

視覚的に比べて下さい。
どちらのコードスケールのほうが臨時記号が少ないですか?

HMP5が5つ、オルタードが3つ。

つまり、調性に従って音を選択して行くと、元々の調に「負荷をかけない」ほうが自然、という選択になります。
この場合の負荷とは・・・・
もうお分かりですね、臨時記号を使う音です。

なるほど・・・

ハーモニックマイナースケール・パーフェクトフィフス・ビロウ(HMP5)の可能性よりも、あのメロディーのノンコード感を取り込むと、オルタード・スケールの可能性が見えてきました。

すると、ここにはP5(完全五度)の音程を持つ和音の梁が無い事になります。

ううん。。。

オルタード・スケールというのは、今日説明している「立体的」な和音と言うよりも、実は「平面的」な和音の表現に似ているのです。

それは、構造的に不完全である「P5の欠損」がもたらす曖昧さ、とでも申しましょうか。。。
不完全。
不安定。

でも、以前にも書きましたが、オルタード・スケールというものは本来は存在しない音階なのです。

それはあるコードの転回形、そのコードスケールを途中から並べているに過ぎないからなんです。

そう考えると、この部分のコードが「立体的」に何のコードであるのかが見えて来ますね。

そう。

そうなんです!

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ここには、前後のコードの並びからも察するように、G7という次のCMaj7に対する安定したドミナント・モーションが隠されているのです。
同じトライトーンを共有するDb7とG7がスイッチしたと考えると、メロディーのノンコード感に溢れたAの音の説明もつきます。

実際に演奏する場合、この部分でベースはrootだけを演奏します。
オルタード・コードが表記された箇所でベースが5thを弾くと、そのたった一音によってコードスケールがオルタードではなくなりHMP5になる、という事を知っておきましょう。

そして、逆を言えば、「オルタード」「オルタード」と何か言葉だけが独り歩きしている感じの「オルタード」も、ベースが5thを弾いている限りHMP5が正解で、この場合の「オルタード」という言葉が示すものはテンションのb13thである場合が多い、とう事なのですね。

たぶん過去に於いてオルタードと聞くとb13thを押さえる条件反射のようなものがあるのでしょう。

間違いではないが、正確では無い、という典型的な一つの例です。






6をめぐる攻防 2015/3/13掲載

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頭の中のキーをCにリセットしてください。
ここで、ドミナント・コードにどのような表記がそれぞれの固有のコードスケールを示しやすいかについてまとめておきます。

たぶん、この原則に従って表記する事で、ある程度のコードスケールの特定が出来るようになるでしょう。

・一番左の小節にヴォイシングと、特徴ある音を何と呼ぶべきかについて例を挙げた
・二小節めはコードトーンともしもテンションがあれば付け足して「大まかな形」を眺める
・三小節はは上の「眺め」から予想出来るコードスケールを特定
・四小節目はこのコードスケールを表現する場合の表記例

(1)b13thと呼べる場合
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実はドミナントコードに(alt)と表記されているコードの大半がこのHMP5である。次のコードがマイナー・コードであったりする場合はさらに確率が高くなる。
実際の演奏を聴いて、ベースが5thを弾いていたら100%このスケールと思って間違いない。

(2)b13thと呼べる場合で上記以外の場合
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完全五度の音程が聞こえて、かつb13thが特定できるものの、調性や前後のコードの関係からb9thの特定が難しい場合に使われている事が多い。

(3)どうやら5thの気配がしない場合
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#11thが聞こえ、b13thも聞こえる場合は、完全五度の音がスケールに存在しないと考える。
その為に、特殊性をアピールするために(b6)という、通常はアヴォイドノートとされる表記を使うと(b13)との差別化が成される。
また、オグメント・スケールの場合は従来から使われている増五度のマーク(+)を配してみるとよい。

(4)どうやら5thの気配がしないが、b9thや#9th、#11thなどの音が聞こえる場合
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ここで初めてオルタード・スケールが浮上する。
それまでは他のあらゆるドミナントスケールの可能性を探るのがベター。

(5)似た響きではありますが・・・・・・
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和音だけだとオグメントやホールトーン・スケールと非常に似ているので誤解されやすいが、上記のコードは全てドミナント・セブンスコードであるのに対して、こちらはメイジャー・セブンスコードの仲間である点が大きく異なる。
メイジャーのトニックの増五度的なオスティナートなどによく見られるコードだが、ドミナントコードではないのでセブンスがフラットしないのが特徴。

表記はG+ とだけ書く。オグメントとの差別化もそれで可能。

下がれば六度、上がれば五度のこのエリアの音の表記が、コードスケールを特定化する鍵になっているわけです。
些細な事ですが、この辺りの整理が進むと、もっと見やすくわかりやすいコード表記に統一されて行くでしょうね。





4th interval buildでお隣は? 2015/3/20掲載

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ドミナントコードの素性を“読む”、という事を少し続けて書きました。
トニックやサブドミナントのコードと比べると、バリエーションが多いドミナントコード。しかしそれだけいろんな事象を受け入れられるだけの寛容な機能を持ったコードという事としましょう。
たぶん、ドミナントコードがバラエティーに富んでいるから、音楽がドラマチックに流れるのでしょう。
いつも決まり切った事だけでは面白味もないわけで、音楽のハプニングの要素がドミナントコードに凝縮していると思ってください。
その代わり、前後や調との関係で異なってくるドミナントコードの素性を見抜かないと音楽的なアクシデントやトラブルに見舞われやすい面もある事を忘れないように。

さて、ドミナントコードのバリエーションの説明を続けましたから、本来の「コンピング」に戻ります。

■コンピングでダイアトニックなアプローチにチャレンジ

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それぞれのコードスケールは解明済み

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CDやライブを聴いていると、一つのコードのところで「何か」やってるのを耳にする事があるでしょう。
その「何か」がある、ない、で伴奏が全然違ってくるんですね。
でも譜面上のコードはそのまま。
みんな一体何をやっているんでしょう?

一言で言えば、それは“アクセント”。
音楽的な、バックグラウンドの響きの中でのアクセント。
コード同士なんだけど片方がアクセントになっている。

このコンピング(comping)としてのアクセントはいくつかあります。
既に気付いているかもしれませんが、コードの転回形も立派なアクセントの一つです。
第一転回、第二転回、第三転回・・・・
和音が四声なら基本形を含めて四つの形が浮かぶでしょう。
例えば、長く続くコードの部分に転回形を混ぜるだけでも伴奏としての「アクセント」が生れます。
高い位置、真ん中の位置、低い位置など自在に組み合わせて繋ぐだけでも。

小節を奇数と偶数にわけて、偶数の小節に転回形を導入し、奇数の小節に「何か」を設定するつもりで冒頭の4小節を考えてみると、こんな感じになります。
「何か」というところは「アプローチ」と記しておきます。

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ほら、CDやライブで「何か」やっている、あれですよ、あれ。
まずは偶数小節の転回形。
これは比較的簡単に想像出来ますね。

問題は「アプローチ」の部分。

では、ここに「何か」を入れてみます。
「何」を入れるか?

この「アプローチ」の前後は同じ4 way of 4th interval buildのヴォイシングです。
じゃあ、このヴォイシングの位置に一番近いこの曲のキー(Eb)のダイアトニックなスケール上にあるすぐ上の音を鳴らして、また元に戻ってみましょう。
二分音符で弾いてもいいですが、「何か」やらかすのだから、ちょっぴり強調する意を込めたシンコペーションにしてみます。

すると・・・

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EbMaj7のヴォイシングのすぐ上の音です。

おや?

この響きは・・・

コードネームで書けそうですよ。
そう、これは・・・

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Bb7。

EbMaj7がトニックで、4 way of 4th interval buildでヴォイシングすると、そのすぐ上にはこのキーのドミナントの音が並んでいるんですね。

おや?

すると・・・

ちょっとした事に気付きませんか?






お隣の内声を四度軸でアナライズ 2015/3/27掲載

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もっと自分の演奏に自信を持ちましょう!
こんな事を言われた事はありませんか。
ジャズのインプロとなると「答え」が目の前に無いので、どこに自分の自信の基準を見出すかがわからなくて、それで不安になっている場合があります。

この「自信」とは何でしょう?

たぶん「自信」の基準は人によって違っているでしょう。
自分の事を話すと、自分が音楽の「どこ」に強く惹かれているのかを知るのが一番です。

ある人はメロディーこそ命であっていいんです。
また、ある人はリズムこそ命であっても。

僕は、ハーモニーです。
それも、内声部。

まず音楽を聴いている時に、自分が何処に惹かれているのかを分析してみましょう。
自分が音楽を聴いて惹かれるものがなければ、音を出しても人がそれに惹かれないでしょう。
自分が「何を」音で表現したいのかのフォーカスが定まっていないからです。

綺麗なメロディーでもいいでしょう。
刺激的な音でもいいでしょう。
自分がどんな音に惹かれているのかが身体を通じて楽器からこぼれていなければ。
音楽はそれぞれの人(演奏者)の熱き願望であるべきです。
そして、それは必ず一つの大きな核であるべき。
たくさん持つ必要ありません。

よくジャズでは「フレーズ」なんて言葉を聞きますね。
譜面に書かない音で「何か」を伝えるところに重点があるジャズならではの表現かもしれませんが、そもそも「フレーズ」なんてものは音楽には存在しません。「何」を伝えているのかがわからない時に、他人の演奏から溢れてくる耳馴染みの良い短いキャッチフレーズ。それを取りあえず真似てみるのも一つのやり方です。
ただ、それがどんなコードのどんな時に出て来るのかをちゃんと理解しないと、ただ聞き覚えの音節を演奏しているだけで一向にその先には勧めません。音楽の模倣とはそんなものじゃないんです。
それが自分にとって唯一無二の大切な「フレーズ」なら別ですが・・・
そもそも「フレーズ」というのは聴き手の言葉であって演奏側の言葉ではありません。
「今のいいフレーズだねぇ」と他人は言っても「いいフレーズです」と自分では言わないだろう(笑)

時として内声は心の叫びに近く、情熱が迸るような感情の高まりを表している時があります。
そこには細かい動きなんかいらない、白玉(主に全音符や二分音符のような大きな流れを差す)が一つの音程を示すだけなのだが、これがどうして、心の中で大声で叫びたくなるほど興奮する音程になっていたりする。

メロディーに感動して胸が熱くなるという言葉はよく耳にするのだけど、僕は変かもしれないが、メロディーなんかよりも背景を演出している内声にこそ感情の高まりを覚えて、そこ(内声)に仕掛けられた熱い叫びを心の襞が敏感にキャッチして痛く共鳴する。
だから内声にいろんな仕掛けがあるギル・エバンスやジョージ・ラッセルの音楽を聞くと「ソコ」に耳が行ってしまって、ついついメロディーの事を忘れてしまったりもする。

これは楽器でも同じ。

自分のヴィブラフォンは言うに及ばず、ハーモニーの出る楽器の演奏を聴いている時は常に「ソコ」に何かあるかないかを聴いている自分がいる。
「何かある」プレーヤーが好きになり、次第にのめり込んで行く。
楽器の種類など関係ない。「何かある」のがたぶん心地よいのだ。

ハーモニーの出ない楽器でもそれは言える。
トランペットのマイルス・デイビスが好きだったのも、シンガーソングライターのマイケル・フランクスが好きなのも、全て「ソコ」に何かが聞こえているからだ。
たぶん、そういうサウンドを自分から決して外さない人達が好きなんだろう、と。
自分で奏でなくても周りに「ソレ」を奏でられ人間を集めて音を出している。

難しいフレーズが上手に弾けたとかはまったくの論外。ウワモノに興味が湧く人にはソレが堪えられないものだとわかってはいるが・・・僕のような「内声」小僧は内なる調べに興味が行く。

こんな例を。

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映画音楽“Anywhere I Wander”のブリッヂの部分だ。
このシンプルなメロディーとこのコードの組合せから、まず「内声」小僧は次のようなセカンド・ヴォイスを声に出して歌いたくなる。
まぁ、よく合唱なんかの人で、何でもハモる人っているでしょ。あれと似たようなもんだ(笑)

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ここで留まると“常識的”な範囲になるのだけど、どうにもこれだけでは「内声」小僧の虫が納まらない。。
例えば、最初のコード、Am7(b5)はロクリアンというコードスケールなのは理論を知っていれば「常識」なのだけど、「内声」小僧はどうしてもココに9th、つまりBの音を挟みたくて仕方がない。

ウズウズしながらそこに9thを強引に挟みこむ。

すると次のD7に向けたメロディーと並行して動くラインが、もう、たまらなくいいじゃないか! と言い出すのだ。

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どうしてソコに9thを持って来れるんだ?

理論的に説明しても仕方がない。

大いに自信を持ちながら言う。「この音が聞こえて来るのだ。」と。
それによって、たった三つの内声だけで、どれだけハーモニーの抑揚を表現出来る事か。

「自信」があれば、理論は後から着いて来る・・・・・そんな気持ちでいればいい。いや、冗談ではないよ。その「自信」を本当の「自信」に育てるのが理論というものの本来の役目なんだ。
ただの音程を難しそうに読み上げる事や、知った顔で博学的な方法論を述べる事じゃない。もちろん本来の意味もわからずに丸暗記した用語を並べる事も。

これと似たような事で先週は終わった。

シンプルなコード進行でコンピング(Comping)を考えていたところ。

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アプローチ・コードの部分はこの曲のキー(Eb)のスケール上にある「お隣りの音」(上)をちょっとクッションに鳴らしてすぐ元に戻した。

この部分をコードネームで書くと・・・

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ここでちょっと気が付く人はなかなか洞察力が鋭いかもしれませんよ。
何に気が付くのかと言うと・・・

4 way of 4th interval buildをこのキーのスケールで上行してみるとこんな感じに音が並びます。

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これらは単にこのキーのスケールを四度の音程による四声で上行しただけで、特にコードを意識して弾いているわけではありません。
が、
そこで聞こえたハーモニーをコードネームに置き換えてみるとちょっと興味深い事がわかるんです。

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形じゃないんです 2015/4/3掲載

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形で演奏しちゃダメですよ・・・

音が形になった楽器・・・均等(平均律)に音程が区切られている楽器と言いますか。
ヴィブラフォンやマリンバは言うに及ばず、この世界の親玉にはピアノ、オルガンなどのキーボードなど、つまり鍵盤楽器全般に言える事なんです。予備知識なしでも誰が弾いても音が出る楽器。

音が組合せで出る楽器・・・左右の手の役割が異なる、又は指使いの組合せによって音程が変化する楽器。つまり形ではなく“型”で演奏する楽器。例えば管楽器、弦楽器など。組み合わせを知らないと思うように音が出せない楽器です。

この二つには演奏するにあたって「基本動作」に大きな違いがあります。

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音が形になっている楽器は直感的。
音程を組合せで出す楽器は間接的。

楽器を修得する場合は、その楽器が持ち合わせた本来の性格・性質の“逆”を身につけるところにあると思うのです。

鍵盤が並んだ楽器は「間接的に全体がどのような響きがするのか」を聞き分ける耳を、音程を組み合わせで出す楽器はどれだけ困難な組み合わせであってもストレスなく「直観的に発声している」が如くのスムースさが要求されます。

インプロに於いても次のようなワードを乗り越える努力が必要になりますね。

「直観的」な楽器は、音を「形」で覚えない事。
視覚的な「形」が目に入ると、全体の響きを聴く耳が塞がれてしまいます。「形」が優先されて、バックとの整合性が疎かというか、無頓着になりがち。

「間接的」な楽器は、音を「組合せ」で結ばない事。
元々演奏する基本姿勢が組合せですから、形を繋ぎ合わせるのは得意なはずですが、それを頼りにしているといつまで経っても「形に頼らないもの」が出て来ません。

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それぞれ、「ポジション」とか「フレーズ」という言葉が示すものに潜んでいる落とし穴です。
インプロと関連したそれぞれの「形」の名称ですね。

最初に「何を、どのようにして描くのか」がわからない時のガイドにはなります。
もちろんそれが最初から必要ない人もいます。

どちらも目指すのは、「メロディー」。
テーマの流れと、コードの流れの中で浮かぶ、新たなメロディーなのです。

その為に、直観的な楽器は音を「形」で覚えない事、間接的な楽器は音を「組合せ」で結ばない事、と述べたのです。つまり大きな意味で「パターン」にハマらないように、という事なんですね。

「パターン」にハマると、ほんのちょっとした音の変化に鈍感になって、せっかくの新たな展開へのチャンスを見過ごしてしまうかもしれないのです。

「あ~あ、昨日と同じソロになっちゃった。。。」

そんな時、自分のインプロが「パターン」にハマっていないか、要チェックですね。
いつも同じ事をやってるところは・・・・・ありませんか?(笑)
それは何が同じなんでしょうね。

コードが同じだから?

いえいえ、
大半のこの問題のケースでは、その部分だけ、コードもコードスケールもすっ飛ばしているんですよ。。。この旋律って・・・・ソレ、パターンじゃないですか(笑)

その瞬間、頭の中に何も無いのですよ。自分が何てコードの部分でソロを演奏しているのか、という自覚すら・・・



4 way of 4th interval buildで長音階上を上行スライドさせると、ただそれだけなのに、その響きが機能和声のように響きます。

そもそも、カンピング(comping)を行うにあたってオープン・ヴォイシングに4 way of 4th interval buildを使ったところ、伴奏のアクセントとしてアプローチ・コードを置きたくなった場所で、そのヴォイシングの一音上(その調の音階上の隣り)の音を当ててみたら、なかなかよいクッションが生れた。

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あれ? この音は・・・・

と、

コードでアナライズしてみたら・・・・

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ドミナントコードだった。

じゃ、もう一つ上げてみたら・・・・

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サブ・ドミナントが出て来る・・・・

ちょっとこれは面白いかも・・・・

と、

音階に沿って4 way of 4th interval buildを上行させてみると・・・・

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カンピングで使われる常用音域はそんなに広くないのでこのまま4 way of 4th interval buildで上がり続けるとヴィブラフォンでは鍵盤が無くなってしまう(笑)
逆に下げても・・・・
このキーだと一つ下がれば鍵盤が無くなってしまう。

な~んだ、それじゃダメじゃんって?

とんでもない。

これが最小にして最大の効果に繋がるわけです。

4 way of 4th interval buildというのは、四度の音程を保ったヴォイシング。
つまり、この音程を保ったままであれば、音階を三つ上がったところで「音程の形」は終わり、四つ目は最初のヴォイシングの四度上の転回形になる。

つまり、基本の形は三つしかない、という事。

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ダイアトニックなトニック、ドミナント、サブドミナントなら、このヴォイシングをオープン・ヴォイシングの軸としてカンピングを考えられるんじゃないかな?

発想の転換に繋がりそうだ。

PS:ピアニストやキーボーディストが片手で弾けるのは3 way of 4th interval buildが限界。いくらなんでも10度ヴォイシングの連続は・・・・手が攣ってしまいます。。。。(笑)




形は逆から辿り着くもの 2015/4/17掲載

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人間は「形」に弱いです。
なぜ弱いかという理由は簡単です。

見たまま、何の理由もなくその存在を認識出来るからです。
「わあ、綺麗!」
「凄い!」
「美しい」
「かっこいい」
見たまま、その理由などよりも先に口から出る言葉です。
これに「なぜ」綺麗なのか、とか、「なぜ」凄いのか、とか、「なぜ」カッコいいのか・・・なんて説明は野暮です。
厄介な事に、この「なぜ」という部分を得意げに話すとそれが良い場合は博学者で納まりますが、「なぜ」を強調しすぎるとそれを人に押し付けてしまう場合があるので要注意なんですね。

造形物ならずとも、これが人間関係や地位のようなものにまで波及するともっと厄介。

でも、悲しいかなとってもわかりやすい。

そして、
「形」を代弁するものがあります。

「数」、つまり数字ですね。

「形」と「数字」が合体するところに人間は弱いのです。
「形」を「数字」が立証する、と思い込んでいるからでしょうか。

なぜこんな事を音楽の話しで触れるかと言うと、実はジャズの修得の中途では、この「形」と「数」が妙に出て来るのですね。

まず「形」は音楽で言えば、パターンです。
そんなに長くない、すぐに覚えられるサイズの「形」。

メロディーであればそれを「フレーズ」と呼んでもいいでしょう。

「すぐに使えるフレーズ集」とか、「誰でも出来るジャズ。鉄板のフレーズ集」なんてキャッチコピーな本を一度や二度は見掛けた事があるでしょう。
料理のレシピ本みたいですね。

100のフレーズを並べて、「さぁ、どうぞお好きなのをお持ち帰りください」みたいな。

これはビギナーだけでなく、指導する側の立場にいる人にもまことに都合がいいんです。

何となく、「これ、練習ね」といって、断片的なフレーズ集なんかを課題に出して、翌週チェックするわけ。
習う側は一生懸命練習してくる。練習するものがあれば無心に練習するものだ。
しかし、ちょっと待て!
今、そこにある断片的なメロディー(フレーズ)は、どんな時に使うんだい?
同じようなコード進行があっても、曲によってコードの中身は様々。
様々だから世の中に数え切れないほどの曲が存在するわけで、もしも一つしか答えがなかったら、同じコード進行の曲は全部同じに聞こえるはずだ。
でも、現実はちがうだろ?
その事を考えなきゃならない。

指導する側でも時々「形を丸暗記させておけばいいよ。その内にわかるから。」な~んて言ってたりする場合がある。

その内に・・・・

間違いではないが、これには大きな言葉が抜けている。

それは・・・
「ジャズが好きで聴き続けていれば」というワードだ。

僕らの世代と言うよりも、1990年代まではジャズなんてやるのは「よっぽど好きで聴いている人間」と相場が決まっていた。
そういう人にはこの言葉でいいんだ。
「その内にわかるから。」
で。
聴き続ける内に、勝手にいろんな発見をして自分の演奏にフィードバックさせるようになる、という読みだ。

でも、21世紀に入った頃から徐々にその辺りがおかしくなってきた。

「ジャズの即興やりたいです」

ほう、で、どんなジャズを聴いているんですか?

そう質問すると物凄く特定の、物凄く狭い範囲のものしか知らないのが判明する。
ま、それでも勉強する内にいろんなものを聴き始めるでしょう・・・・

甘いっ!パンチ

その間も全然増えないのだ。聴いているものが。
信じられないのだけど、というよりも、とにかくリスニングの楽しみを知らなさ過ぎる。
これが音楽の高等教育と呼ばれる音大生になればなるほど多いって、一体どーなってるの?
一般や普通大学のほうがまだ音楽を聴いている時間が長い。

音楽は好きで「やるもの」と勘違いしているのかもしれない。
音楽は好きで「聴くもの」だ。
聴く楽しみを知らない人の音には魅力が感じられない、といっても過言じゃない。

それ以前に、「ジャズじゃないんです」と言い始めたりする。
その殆どの場合が逃げ口上。
ジャズそのものにはなれないけどジャズっぽい雰囲気ではあるんです、みたいな(笑)

どこか「楽」して誤魔化してないかい?(笑)

なら、ちゃんとクラシックなり、ポップスなりを学びなさい。
でも、そうなると今度はこう言うのが見えている。

「クラシックじゃないんです」・・・

学ぶ中途でそれがジャズだ、クラシックだと教えるのは稀で、音楽の捉え方を「ジャズ的な方向から」、或いは「クラシック的な方向から」検証するのが修得の道だ。
そこで学んだものを自分が消化して発表するのはまだ先の話で、そうなった時に「ジャズであれ」とか「クラシックであれ」なんて教えた側は限定したりしない。しっかり学んで、たくさん聴いて吸収して、そして自分で作り上げなさい、という事だ。

たぶん、そのような傾向にある人は「形」に弱いのかもしれない。
自分が想い描く「形」と現実を照らし合わせようとするからだ。
自分がまだ「形」になっていないのだから、それは所詮無理というものですね。

「形」という観点を逆の位置から検証する一つの試みを先週行いました。

鍵盤の写真を載せた、アレです。

普段、楽器を演奏している時に、「この音色が素敵!」、「この音カッコいい」、「この和音好き!」な~んて思いながら演奏していませんか?

写真は「形」を写したものですから、じゃ、その写真で弾いたのは、「何てコードなの?」という単純な質問を出しました。

さっきの言葉の「この」音色、「この」音、「この」和音・・・・これらの「この」とは?

ここが肝心なのです。

「この」ではなく、「これ」と特定したコードを4way of 4th interval buildで弾いているのですから、いつも頭の中に「これ」という特定したコードネームが浮かんでいなきゃ嘘です。

さあ、コレ、わかりましたか?

答え合わせしましょう。

まずは・・・・

コレ!

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下からG#,C#,F#,B。

頭の中にあるコードは「これ」です。

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ドミナントコードとして用いる時はコードスケールに9thと13thを含むものに限定されます。

同様にチェックしましょう。

コレは・・・
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このコードを描いた時に弾きます。

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肝心なのは、この写真のような「形」が先にあるのではなく、譜面に記したコードから生れた和音の配置が結果としてこの「形」である事。
この順序が逆だと、いつまで経ってもコードネームを見てパッと演奏できないのです。

出来ていると思ってソロやカンピングを行っても、どこか不自然、アンバランスに陥るのですね。

ちなみに、以下の二つは平行移動なので省略しますが、ドミナントコードのようにコードスケールの形が何種類もある場合は、この4way of 4th interval build とopen voicingを使い分けながら近い位置でヴォイシングします。

Eをルートとした場合なら、

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ドミナントコードのコードスケールそれぞれのポイントとなるテンションノートをヴォイシングに反映させるわけです。
「形」じゃなく、そこにある「音」が先に浮かぶでしょ?