ヴォイシングは2+2ではなく3+1が基本 2015/1/16掲載
市原ひかり(tp) 赤松敏弘(vib) DUO
某国営放送局に於いてヴィブラフォンとトランペットのDUOの収録があります。こんな事をやるのは、もちろん世界でも私達だけです!
もちろん、一番ワクワクしているのも私達二人かもしれません。
ヴィブラフォンという楽器をやっていると視覚的なアピール度はかなり高い。“やる側”に立つまでは当たり前ながら“みる側”の位置からこの楽器や演奏者を見ている。そう、そうなんです。でもそれは“やる側”に立つと全て逆、逆さまになる。“みる側”の右手は“やる側”の左手、“みる側”の低音は右側だが“やる側”になると低音は左側になる。上下の動きはともかく、“やる側”になったその日から左右の動きや形は全て逆さまの世界で生きて行く事になるわけだ。
当たり前過ぎて意識するのもついつい忘れてしまいそうなほど無意識な“みる側”と“やる側”のこのとても大きな違い。
時々、自分を客観的に見つめてみる時に、全てを逆さまにしてリセットすると違った自分の存在に気が付くかもしれませんよ。
さて、それと少し似たような事でヴィブラフォンを演奏している人に「錯覚」として写っているのがヴォイシング。
いえいえ、視覚的に“みる側”から左右が逆転している事ではなく、持っているマレットの役割配分のお話し。
4本のマレットを持つ場合、当然ながら左右に二本ずつ持つのがバランス的にも普通でしょう。
メロディーを弾く時は、
左右の手に持ったそれぞれ右側のマレットを通常の二本マレットと同じように使います。
もちろんその様子を鍵盤の向こう側から見ると
まぁ、この通り左右の手のそれぞれ右側(つまり“みる側”の位置からするとその逆の左側)のマレットを使って忙しく鍵盤の上を駆けまわるのです。
これを“やる側”の位置から見ると・・・
ほらね、左右の手の右側のマレットを使っているでしょ?
まぁ、これは動きを追いながら立ち位置を反転さえ出来れば理解出来る事です。
しかし、同じマレットの使い方で、意外と多くの人が誤解しているのがカンピングに於けるマレットの使い方なんですね。
マレットはコードのヴォイシングと同じように高音から低音に向けて順位が付けられています。
各マレットの名称:左(低音側)から上に 4th(左手), 3rd(左手), 2nd(右手), Top(右手)
さて、この視覚的配置に誤魔化されてはいけません。
実際にカンピングとしてコードのヴォイシングを配置するのは
左側の3本なのです。
以下のメロディーとコードの曲を伴奏する事を想定してください。
メロディーとコードネームを見て、まず最初にコードスケールとアヴォイドノートを予測できたと仮定して次に進めます(この仮定が出来ない場合はコードスケール・アナライズからやり直し)。
まず右手のrootと5thを使えるテンションに置き換えるヴォイシングです。
これはこれまでにコード弾きの基本とした左手で3rdと7th、右手でrootと5thをステップ・アップしたものです。
このヴォイシングが通常のオープン・ヴォイシングの形になります。
コードネームを見て、この形を一瞬の内にパッと弾けるようになるのが第一段階。
あくまでも、今ここで述べているのは、それを消化出来た人向けのお話しです。
それがまだ難しい人はこの金曜ブログを遡っていろいろ試してからチャレンジしてくださいね。
さて、普通にコードは弾けるようになったからと言って、それ以上の努力を惜しむとあなたの伴奏のボキャブラリーは「基礎段階」で成長を止めてしまいます。その先に踏み出しましょう。
カンピングでコードヴォイシングを行う場合は、ソリストに最良の音によるクッションを与える事が第一。
単に和音を奏でただけではソリストとのカンパゼーションに結び付くはずがありません。
和音という決まり切ったブロックがあるだけで反応する術がないからです。
例えテンションを入れたとしても、本当にそれをソリストが望んでいるという確証はないでしょう。
なぜなら、あなたはあなたが知っているテンションのサウンドを並べているに過ぎず、ソリストに最良のクッションを提供するというには、音のブロックの「形」に「形」を重ねて並べているだけでシステマチック過ぎるからです。
もっと流動的なのですね、音楽は。
そこでコードの流れの中で、まずソリストに好まれるサウンドのトップノートのラインを連想してみます。
鼻歌のようなものです。コードの流れの音程的な跳躍をスムースに滑らかに繋ぐ鼻歌。
すると・・・
例えば、単純ながらラインがコード進行とともに次のように階段を降りるように結ばれた場合・・・・
9th/CMaj7-b3rd/Am7-13th/Dm7-9th/G7 という具合に綺麗に並びました。
ならば、そのラインの下に3 Way of 4th Interval Buildを付けてみるとこうなります。
響きも先の例よりもクッションらしくなったのではないでしょうか。
さらに、自分がパッと頭の中で閃いた別のラインを想定し・・・・
同じように3 Way of 4th Interval Buildを付けてみるとこんな感じに変化します。
つまり、このヴォイシングはTopのラインの下にそれぞれ四度軸による三声のヴォイシングを配しているわけで、四声の和音の固まりとは違うのです。
2+2=4ではなく、3+1=4という発想。見た目が2+2でも、役割は3+1。
もしも2+2でコードを弾いていたとしたら・・・独奏でメロディーを弾きながらコードなんてとても弾けませんよね。もう一本マレットがあるか、もう一つの腕でも無い限り・・・
4th Interval Buildをピアノの左手で弾くとしたら、四度で三声以上のレンジを片手で弾けるでしょうか? 無理ですよね。指が届きません。
なので和音としてのサウンドのベーシックは三声による四度軸の和音、それを導くのがTopに並ぶ横のライン、という事に。
ただ、これだと一つのコードに対して一つのヴォイシングを配置しただけで、リズム感もなにもありません。カンピングは和音の響きを出すだけでなく、動きも演出してソリストの最良のクッションを作らねばなりません。
そこでそれぞれのコードにもう一つヴォイシングする箇所を設けてみましょう。
三拍子系なので、それぞれのコードの一番後ろの拍に「動き」を付けてみます。
するとこんな具合の動きが出て来ます。
↓の位置にアプローチ・ラインを作る。
何も考えなければこのトップヴォイスのラインは右のように3 Way of 4th Intervald Build でヴォイシングするわけですが、考えてみてください、同じ音を連打するというのはかなり強調する事になりませんか?
メロディーですら同じ音を何度も連打するのは気分の高揚はあれど冷静になるとちょっとセンスを疑う(ある意味では打楽器的ではあるが・・・)わけですから、まして和音となると本当に強調したい場合を除けば音程的な連打はなるべく避けるべきですね。
これはヴィブラフォンに限った事ではなく和音を奏でる楽器全てに言える事です。
取りあえず・・・的に同じ音、音程を二度弾きしているアカンパニストは意外と多いのです。
ならば、その二度目を抜くか、動かすか、です。
抜くと淋しいと思う人が多いのですが、それくらいじゃないとソリストは心置きなくソロを取れません。
伴奏しているあなたが満足しているようでは、完全に弾き過ぎ、埋め過ぎなのです。
抜く、というのはとても大きな自信が無ければできません。
動くのを選んだ時は抜く時よりも音量や密度に気を付けましょう。自分がソリストの音量を上回るような音の出し方は耳とセンスを疑われます。背景としてソリストとのバランスをその場で即興的に決められるセンスが求められます。
まずここでは音を動かす選択で、なるべく同じ音は使わないトップのラインを考えてみましょう。
こんなトップヴォイスのラインを想定中・・・・
さて、これならどんなヴォイシングが出来ますかねぇ?
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