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【コード雑学】音楽理論エッセイ・ 3 のお話し

経験と年齢を重ねるごとに、自分の中で音楽はまるで生き物のように進化するのを知っておこう。
少し前にコードシンボルの書き方の話しが出ました。基本中の基本! と言うのは簡単。でも、本当に確信を持って自分が使っている表記で良いのかというとそこには長年の慣習と言うものが正確なジャッジを妨げている場合があります。いわば、“大人の話し”、“大人の事情”みたいなものが邪魔をする、よくある話しで曖昧にされてしまうのです。「そこまでしなくても意味が通じればいいじゃない」的な。何処かの国の花見の招待リストみたいなものかもしれません。

凄いな、と思ったのは、イリーガルな時代のリアルブックです。
この本はコードシンボルに関してはパーフェクトな表記を行なっていました。

全ては3から始まる 2019/12/6掲載

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■第三音の表記

長三和音には何も付けない。
例 : C と書けばそれだけで C を根音とした長三和音。もちろん F と書けば F を根音とした長三和音で、 G と書けば G を根音とした長三和音。以下略。

これに対して、短三和音には -(マイナス)を付ける。
例 : C-と書けば C を根音とした短三和音。当然 G- と書けば G を根音とした短三和音で、Bb- と書けば Bb を根音とした短三和音。以下略。

この二つはあくまでも 根音、第三音、第五音 に関したことで、第七音に関しては触れていません。

短三和音の表記に関して、僕は最初日本で使い慣れた小文字の m の方が良いと感じていました。
例 : Cm とすれば短3度の入った短三和音

しかし、その先を知ると、確かにリアルブックの表記が一番シンプルであることがわかりました。先がわかった上でのこと、なのです。
第三音に関してはこの二つ、何も付けないのが長三和音、-をつければ短三和音、と言う分類。

では、これに習えば第五音はどうするか、と言うことになりますね。

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■第五音の表記 -1

第五音が完全5度の場合は何も付けない。これは長三和音も短三和音も5度の音は完全5度で同一なので異論はないでしょう。
問題は変位した5度の場合です。

まず増音程の場合、つまり増5度の時には +(プラス)を付ける。
例 : C+ と書けば C を根音とした増5度入りの三和音。以下略。

次に減音程、つまり減五度の時には b5(フラット・フィフス)を付け、根音の音程表記と重ならないようにカッコ( )で括る。
例 : C(b5)、Cm(b5)、Bb(b5)、Bbm(b5)、 以下略。

さて、ここで問題となるのがそれらのコードの持つ固有のスケール(コードスケール)との整合性が出てくること。
つまりこの例で挙げた表記では根音から第五音までの三つの和音の音しか表示できていない。音階は7~8音によってオクターブある。つまり和音として考慮しなければならない第七音の存在を明確にしておく必要があるわけです。


■第七音の表記

長七度を含む和音には Maj7 を付ける。コードシンボルが重複する場合は第七音の表示をカッコ( )で括る
例 : CMaj7、 Cm(Maj7) 以下略。

これには世界的に例外があり、長七度を△7と書くケースも見られる。C△7、Cm△7等。

長七度に対して短七度の場合は何も付けない。
例 : C7、 Cm7 以下略。

これは、もしも短七度と言うことで b(フラット)7 を付けると Cb7となり、三和音側の表示と勘違いされてB7となったり、Ebb7などと意味不明なことで混乱する。-7の場合もC-7となり、Cマイナーセブンスコードと勘違いされるので避けられた。

では、五度に戻ろう。


■第五音の表記-2

コードスケールで七度の音程が特定されたら、先ほどの減五度の表記に当てはめる。

短七度の音程を持つ減五度の和音は、次の通り。
例 : C7(b5)、Cm7(b5)、以下略。

さらに減三度の和音が連続転回して出来上がっている音階には短七度の音程がないので、これはそのスケールの名称を記して短七度の音程をもつ音階との違いを表す。
例 : Cdim →Cを根音とした減三和音

単純な疑問が出て来やすい異名同音にもリアルブックの表記は明確だ。

■増四度と減五度の表記が持つ違い

増四度は♯11。
例 : CMaj7(#11)、C7(#11)

これは増四度とされる和音の中には完全五度が含まれると言う意味を示す。
逆に減五度の(b5)は完全五度が音階の中に存在しない、と言う意味を示し区別している。

ここまでの表記を駆使すると、次のような表記の意味を検証する必要が残る。

オグメント(aug) → C+ ホールトーンスケールの可能性もある。
オルタード(alt) → メロディーにb9thがあればC7(b5)と書かれた可能性もある
ホールトーンスケール → C+7 と書かれた可能性もある。

etc……

しかし、コードネームの横に、音程が変位したテンション音程を複数書かれるよりもこれだけの表記でここまで示すことができるのは見事。

普通に使われるコードスケールであれば、メロディーや調号との整合性を合わせれば、特に複雑な名称の特殊スケールを知らなくても演奏上支障のないところまでは割り出せる。

ただ、どうしても短三和音のことを - とは書けなくて小文字の m を使っている。他はリアルブックの表示に準じているのだが。

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でも、なぜリアルブックが小文字の m ではなく - を使っているのかはこれで理解できたと思う。

だから、リアルブックは知っていたのだろう。。。。とある国の音楽メーカーが、長三和音のコード表記を勘違いしていることを。

全ては 3 からもう一度整理すべきか、ううん。。。

大切なのは、そこに示されているメロディーの音とコード、調号や一時的な転調などの状況判定から、自分が演奏すべき音を見つけられることだ。難しい名前のコードスケール名称で固定観念的に考えないこと。経験と年齢を重ねるごとに、ハーモニーへの感覚も変化することがあるから面白い。音楽はまるで生き物のように進化するのを知っておこう。



続・全ては3から始まる 2019/12/13掲載

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緑色のシャツには右腕から手を通し、赤い靴下は左足から履き、駅の階段は右足からステップに足を掛け、透明の傘は左手で差す・・・・。
誰に教わったわけでもなく、日々自分で無意識に行っていること。でもそこには感情や抑揚といったものはありませんね。いちいち靴下を履きながら興奮するはずがないのです。子供の時に、初めて一人で履けたり、着れたりした時の記憶を除けば。
コード進行を眺めて音を出す行為もそれと同じようになると、音程的な表現から一歩抜け出せます。いつも右腕から通していたシャツを左腕から通してみたり、頭から突っ込んでみたりと、ちょっとしたバリエーションを“試して”みたり。でも、緑色のシャツを着る事には違いありません。コードも同じで、もしも緑色のシャツに“ドリアン”という名称があればどんな着方をしても“ドリアン”を着ているのに変わりはありません。ただ、着方に形はありませんがストーリーはあります。右腕から通す、左腕から通す、頭から突っ込む。そのどれをチョイスして緑色のシャツを着たかなんて事は誰も質問しないでしょう。着たシャツが似合ってる、似合っていない、どこで見つけた? いくらで買った? くらいでしょう。「見た目」というやつです。でも、知っているのです。僕は左腕から通すとちょっぴり気分が変わる事を。或は、シャツによっては頭から突っ込んだ方が着崩れしないことを。

ほらね、決まりきった事以外には何か意図するものや感情があるでしょ? 緑色の他に赤やブルー、ネイビー等、いろんなシャツの存在を知っている物知りでも、僕がどうやってシャツを着ているか、なんて事はわかりっこないのです。あなたが音として表現すべきものもそこにあるのです。

コードとして指定された四つ(又は三つ)の音だけでコードの全容を理解するのは無理で、その隙間にある音を知らないと演奏事故の元。コードスケールはその時のガイドになるものです。
全ては3から始まる、というのも、まずコードスケールの最初の三つの音がメロディーに沿ってきちんと選ばれているか? から始まるわけです。
例えば、コードの根音をFに固定して、それぞれのコードを想像してみましょう。

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長調の基本的な4タイプのコードで検証してみましょう。

FMaj7
もしもこれがIMaj7なら、F-G-A-Bb-C-D-E。 keyはF。
もしもこれがIVMaj7なら、F-G-A-B-C-D-E。 keyはC。

次にF7
もしもこれがV7なら、F-G-A-Bb-C-D-Eb。 KeyはBb。

次にFm7
もしもこれがIIm7なら、F-G-Ab-Bb-C-D-Eb。 keyはEb。
もしもこれがIIIm7なら、F-Gb-Ab-Bb-C-Db-Eb。 keyはDb。
もしもこれがVIm7なら、F-G-Ab-Bb-C-Db-Eb。 keyはAb。

次にFm7(b5)
もしもこれがVIIm7(b5)なら、F-Gb-Ab-Bb-Cb-Db-Eb。 keyはGb。

これらをダイアトニック・スケールコードとして習った場合、調号さえ最初にわかれば、調のI-II-III-IV-V-VI-VIIにある音を三度(長短)で三つ重ねるだけなので簡単すぎて何を今さら、と思いながら説明を聞いている事でしょう。練習するにしても、鍵盤楽器だと見た目通りにスライドして行くだけなので「頭よりも視覚」で覚えてしまいます。それが移動ド的感覚かといえば、実はそうではなく、今日のようにコードの根音を固定してコードスケールを連想する方が移動ド的な訓練になるのです。

つまり Am7一つ取っても、key of C のVIm7 なのか、Key of F のIIIm7 なのか、Key of G の IIm7 なのかによって後ろに広がるサウンドの世界は全然異なるわけですね。
基本中の基、を何を今さら・・・・?

これらは機能和声の一番最初に出てくるものですが、これら以外の表記のコードもいろんな譜面には書かれています。

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例えばFdim
もしもこれが本当にディミニッシュ・コードを表しているとすれば、減三和音のことになり長2度+短2度の組み合わせの短3度のブロックが積み重なって出来る音階になります。 これをオクターブ内で繰り返すの四つのブロックで構成され、「F-G-Ab」+「Ab-Bb-Cb」+「B-C#-D」+「D-E-F」という形を持つ、F-G-Ab-Bb-Cb-Db-D-E というスケールになります。特定の調には属さないコード。

特定の調には属さないはずなのに、ジャズでは時々出てきます。そこだけ無調? まさか。

Dm7 - D#dim - Em7。

こんな時に出てきますが、これをパッシング・ディミニッシュ・コードと呼んでいます。経過音的なディミニッシュ・コード? いえいえ、これは見せかけのコードで、本来は別のドミナント・セブンス・コードなのです。もしもEm7が Im7 であるなら、この D#dimというのは B7の代理として使われています。このD#dimのコードの根音は実は B7のコードの 3rd なのです。書き方を変えるとわかりやすいでしょう。

B7(b9)/D#

Em7に解決するマイナー・キーのドミナント・セブンス・コードの第一転回形、という事なんですね。

するとこの部分はコードスケールがB7(b9)の第三音から始まります。

D#-E-F#-G-A-B-C

ハーモニック・マイナースケール・パーフェクト・フィフス・ビロウ(HMP5)。

コードトーンだけはディミニッシュ・コードの形をしていますが、実はドミナントセブンスコードの代用だったのです。
これはドミナントセブンスコードのトライトーンと同じ増四度の音程をディミニッシュ・コードが持っているからなんですね。
ただし、使われるディミニッシュの位置によって代理されるドミナントセブンスコードのコードスケールは異なるので要注意。

で、終わりかといえば、もう一つあるのです。

Fハーフ・ディミニッシュ(丸に縦線の記号が機種依存文字も含めて見つかりませんでした。それだけ特殊か?)

これは僕も昔から見ていますが意味としては m7(b5) と同じです。
ただ、半分ディミニッシュというとコードスケールの意味がわからず、その内に使わなくなりました。
もしも m7(b5) と同じであるなら

根音-短二度-長二度-長二度-短二度-長二度-長二度

という音階になるので、コードトーンとの間に長二度-短二度という短三度のブロックが見られないのですね。

ダイアトニック、という部分を超えて拡大解釈すると、m7(b5)のスケールに9thを含むロクリアン・ナチュラル9という解釈だとハーフ・ディミニッシュという意味には近くなりますが、使われている箇所を見ると、どうもそうでは無さそうなので使わないようにしています。(読み取りとしてm7(b5)に置き換えています)

ただし、第三音から見ると、b3rd-長二度-短二度(b5th)、b5th-長二度-短二度(b7th)、と二つのディミニッシュ・ブロックがあり、これをしてハーフ・ディミニッシュと呼べなくもないけれど、そういう記述はどこにも見当たらないんです。。。。