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【楽器講座】決定版! マリンバとヴィブラフォンのちがい

ヴィブラフォンとマリンバは非常に似た形をしていますが、実はまったく別の物と言っていいほど構造上から来る演奏での違いがあります。これと同じような楽器としては、ピアノとオルガン、トランペットとフリューゲルホーン、アコースティックベースとエレクトリックベースなどがパッと浮かびます。それぞれに言えるのは、どちらも双方のプレーヤーがスイッチして演奏する事は可能。しかし、その実は多くの違いをどちらかの奏法を代用しながら克服しているわけです。

ヴィブラフォンとマリンバの場合も、もちろん「音板」の配置などはほぼ一致しているので、なにも考えずに音を出すには問題ないけど、ちょっと立ち止まって検証してみると、その違いに用途がくっきりと分かれているのに気付くでしょう。

これからの時代は、それを克服して新たな分野への「代用」ではなく「本格的」な進化が求められるわけです。その為には知っておくとよい事がたくさんあるので、ここで少し解説してみます。
これらの事に気が付いていたという人がいたら、もっとその先を追及すべきだし、知らなかったという人は固定概念を捨て去るところから新しい世界が見えて来ると思ってください。

改めて違いを知ること・伴奏での比較 2018/4/13掲載

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コード、ハーモニーの世界ではヴィブラフォンがいち早く進化しました。
それはジャズによって1970年代に至る頃には殆どの奏法が開拓され尽しました。
まず、他の楽器と見比べて遜色の無いレベルに奏法が広がったこと。ソロ(独奏)楽器として一気にピアノと同類のレベルにまで引き上げられました。それはゲイリー・バートンを筆頭とする若手(当時の)の熱心さがその完成度を高めた結果と言えます。
楽器自体がまったく音域も変らずに進化した点からも、ヴィブラフォンの奏法は完全な状態で次の次元に入ったと言えます。
対象的にマリンバの世界は、独奏というジャンルの進化と共に、楽器の音域が広がるという珍しい形の発展を遂げました。この事は楽器が進化する上で大きなターニングポイントになったと思っています。広がった音域を活かす曲が必要となり、その表現の進化は奏法も含めながら楽曲という形(器)の進化を遂げたわけです。それに多くの作曲家が関わった、というのであればそれだけの情熱が周りからもこの楽器に向けられていた事になりますが、少しだけ独自の方向へと進んだのは演奏者が提案する楽曲と共に楽器が進化した点にあると思います。マリンバの師匠でもある、安倍圭子先生を筆頭に、世界中のマリンバ奏者がマリンバの為に曲を書き、その曲を演奏するためのマリンバが開発され、新たな楽器を活かす為の曲が作られ・・・・という具合。僕はその進化の過程を横で感じ、眺めながら育ちましたから、今の形にマリンバが進化したのはよくわかります。

さて、21世紀の今日です。

この二つの楽器は今、大きな岐路にあると思うのです。

ヴィブラフォンは数十年前と比べれば、街にプレーヤーが増え、もう「珍しくも何ともない」時代へと突入しました。
マリンバは十数年前と比べると、元々街にプレーヤーがいた世界にさらに拡充されてやや飽和状態の感があります。

「珍しい」だけで商売になるものってあります。しかし、それは遅かれ早かれ「普通」になる日の秒読みが始まった事を示します。
「普及」が需要と供給のバランスのある境目を超えた時から飽和状態。それは「普通」というものが成立たなくなる前触れかもしれません。

今後しばらくの間、この二つの楽器のキーワードは「普通」というレベルにあると思うのです。
楽器を「普通」に使いこなせる事。

ソロはもちろんですが、伴奏はますます重要な要素となって来ます。
それは、他の楽器との接点を増やす事による「新たな需要と供給」の開拓の旅が始まる知らせかもしれません。

さて、ハーモニー、コードというもので「伴奏」に求められるのは何でしょう?

うん? カッコいいサウンド?

まぁ、それは意識としては捨ててはいけないが、アンサンブルとしてそぐわなければ見直す必要がある、ということ。

ジャズの場合は、ソリストのクッションとなる事が第一。
自分の主張はハーモニーのセンスで示せ、ということ。

ハーモニーのセンス?
それはすなわち、伴奏に使われる音が「気持ちよく引き合っているか」だ。
ソリスト側ではなく、バックグラウンド、言い換えれば「背景」として成立っているか否か。
「背景」、ソリストの知識からすれば、それはまるで「向こう側」とも呼べる位置のこと。

この向こう側の感覚とはいったい何でしょう?

一つ自分で言葉にして伝えられるとすれば、それは「引力」のようなもの。
互いに引き合う音。
例えば、同じ音域の音程をタイムラインを微妙に重ねながら異なる楽器同士で「音が引き合う状態」を生む瞬間。

不思議な「引力」体験。
自分の位置から相手の位置に音が飛んで行き、或いは飛んで来る。
異なる音程ではあまりこの体験は出来ませんが、同じ音程であれば多くの楽器でこの瞬間の体験が出来るでしょう。

コードを奏でる楽器というのは、その「引き合う体験」をコードのサウンドの中に持つものなのです。

さて、その時の「もっとも基本的な違い」について書いてみます。

他の楽器の人も面白いかもしれないからちょっと覗いて見て下さい。


AbMaj7というコードを弾きます。


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ヴィブラフォンで弾くとこうなります。

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これを譜例化するとこんな感じ。

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続いて、マリンバで弾くとこうなります。

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譜例化するとこんな感じ。

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さて、この二つの大きな違いは何ですか?

?

トータルして聞こえるコードの「音程」は一緒です。
しかし、コードを奏でたサウンドの聞こえ方はまったく別物です。

でもこれはヴィブラフォンには起こり得ない症状なのです。

大きな要因は「音が伸びる」楽器と「音が伸びない」楽器の構造的な理由によるものです。
意外とマリンバの人はこの部分で無関心な人が多いのに驚きます。
全体の音が一緒ならいいでしょう。。。的な(笑)

それでは、伴奏者としては失格の烙印を押されること確実・・・。

「響き」というものにもっと敏感になってほしいのです。

ここにとても重要な譜例を出します。
ヴィブラフォンがなぜ他の楽器との組み合わせに溶け込めるのかの大きな鍵がわかります。

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Vibraphone-1 はヴァイブ奏者が通常コードを基本形で弾く時の位置

Vibraphone-2 はマリンバ奏者の弾き方を真似した形

この二つは、よっぽど下手に弾かない限り、まったく同一の響きがします。
ヴィブラフォンはペダルを踏めば、どういう形であれ叩いた音が同じであれば「同じサウンド」が聞こえます。ところがマリンバはそうは行かない。。。


Marimba-1とMarimba-2 は演奏すると驚くほどサウンドに違いが出ます。

っえ? と驚くほど違うのは、マリンバが4声の和音を弾く時には通常二つずつの音のプロックを交互に演奏しなければならないからです。

Marimba-1は三度、Marimba-2は五度の組合せのプロック。

僕の感覚ではMarimba-1は三度ずつのプロックが忙しく交互に聞こえてくるし、Marimba-2では五度同士の隙間に一時的な三度が複層して聞こえる感じ。

どちらが伴奏に向いているのかと言うと、コードが変化して行く場合はMarimba-1 がよく、同じコードが長く続く場合はMarimba-2 がよく感じます。

ここにマリンバの使い方の難しさが潜んでいるのです。

さらに、、、

このMarimba-1 も Marimba-2 も、実はコードを奏でる時にはもっと改良されるべきで、僕は次のように弾くのを勧めます。

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お分かりだと思うけれどMarimna-3 も Marimba-4 も低音側から弾き始めます。
これは物理的な事も含めて、低音よりも高音のほうが速く響くというのをコントロールすることでサウンドに少しでも落ち着きを齎します。

なので、メロディーに対してのヴォイシングを弾く場合はMarimba-1 または Marimba-2、伴奏を弾く時は Marimba-3 か Marimba-4 と使い分ける。

まずは、そこからですね。




改めて今、音色の話し 2018/4/20掲載

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響きということに重点をおいてコード演奏を考えてみましょう。
ジャズで「響き(sound)」というとそれはインプロで出す音、つまりコードネームを見て演奏で選ぶ音(音程)の事になります。
クラシックで「響き」というとそれは楽器が放つ「音色」のこと、つまり音符で示された音を如何に音色で表現するかになります。
この二つはまったく相反する意味にもなりますが、修得するならその両方を身に付けておくべき。
どちらも「楽器の音」なのです。

クラシックの教育を受けながらジャズの世界に入って一番に思った事は「音色」に対する考え方の違い。
他の楽器を引き合いに出して申し訳ないが、一番その違いを感じさせるのがサックスの世界。

例えばアルトサックス。

クラシックのアルトサックスの音色は「丸く」て「ふくよか」で「甘い」香りがする。
対してジャズのアルトサックスの音色は「フランキー」で「能弁」で「エネルギッシュ」な感じだ。
クラシックのアルトサックスの発音は次の音との間が非常に密で滑らかで蕩(とろ)けるよう。対してジャズのアルトサックスの発音は次の音のアタックが明快でまるで機関銃のよう。僕の頭の中にあるジャズのアルトサックスのイメージ代表はキャノンボール・アダレイだ。

もちろん奏者が変わればどちらもそれなりに違いがあるが、大別するとこの音色のイメージ・カテゴライズはそんなに外れていないと思う。

もしもウイスキーをロックで飲む時の氷に例えるならば(凄い例えだけど/笑)、クラシックのアルトサックスは角のないまん丸のクリスタル・ボウルのようなイメージ。対してジャズのアルトサックスは四角くスクエアな感じ。ウイスキーは同じでも、その飲み口は氷の形によって大いに違うから面白い。

さて、どちらが良い、悪い、と言うのではなく、世の中の仕事としてのニーズという点では現在はジャズスタイルのアルトサックスの需要が勝る。クラシック流のアルトサックスはクラシックのエリアの中にその需要が見られるがピアノやヴァイオリン、フルートのようには行かない、といった感じ。但し、その演奏人口という点では吹奏楽を含めると、圧倒的にクラシック流のアルトサックスのニーズが勝る。
外から眺めていると、中・高までの吹奏楽 → 大学でジャズ という流れが多いのは他の管楽器全体に言える事だ。

それが意味するものは何なのか?

たぶん、それは「音色」の持つ時代感だと思う。
クラシックは文字通り古典であるわけだから、遥か遠い時代を感じさせる「音色」がなければ古典音楽にならない。もちろん時代と共に進化する部分はあるが、古典である限りその歴史から生れる「音色」を一度は吸収しなければならない。

ジャズは二十世紀に生れた音楽なのでより現代に近い耳で認識される「音色」を必要とする。その中でもすでに古典とされるカテゴリー、モダンという当時の現代を感じさせるカテゴリー、クロスオーバーというジャンルを超えた結び付きを持つカテゴリーを経て現在がある。
この時にジャズでは「音色」という点ではなく「響き」という点でカテゴライズされているのが特徴。その「響き」には、フレーズやリック、流行りのビート、と云った「音色」ではないものが大勢を占める。

よく云われるのが、クラシックの50年がジャズの世界の5年に該当。
それほどめまぐるしく「主役」が交代するというのが真相だと思う。
たぶん、これは世の中に浸透する速度が土台にある。再生芸術という新しい分野だ。ジャズはレコードと放送によって世界中に広まった音楽の第一号。クラシックの時代は再生する装置も技術もないから人々は新聞などの論評や話題、さらには「楽譜」という「出版の世界」によって世界へと広まって行ったというのがある。
だから「楽譜」というのは、実は今の記録メディアの原型とも言える。
そこに記される音符の意味や発想記号の意味さえわかれば、楽器でそれを(自分で)再生できる。

とまぁ、概要的な話しも一応知っておいた上でのお話し。

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現在の楽器の製造技術は格段に向上していると思う。
飛び抜けた「名器」は出て来ないかもしれないけれど、半世紀前の楽器と比べれば、平均的な楽器の精度は大きく向上している。

個人的な感想だけど、楽器の「響き」はドライな傾向にあるようだ。
言い換えると工作の精度が上がった事によって無駄な部分を削ぎ落すことが可能となり、スリム、又は製造コストの軽減に繋がっている。
また、楽器の音色がドライな方向へと進むのも、楽器そのものを鳴らす場所の想定が残響の長いホールや教会を基準にするのではなく、吸音の効いた音楽室やイベントスペースやライブハウス等で「いい音」と思われるように変化している。

昔の楽器というのは(ヴィブラフォンやマリンバはたかだか半世紀程度の寿命ではあるが)、純度の低い原材料をどのように楽器として響かせるか、という点での工作が思わぬ「効果」を生んでいた。
ヴィブラフォンで言えば、鍵盤の加工技術、材質の純度、という音の発生源の加工技術の他に、パイプ(共鳴管)の厚さや重量、ダンパーのフェルト素材、ペダルのスプリングの柔らかさや強度など、その殆どが工業製品を組み合わせて出来上がっているので、それぞれの工業製品の加工技術や精度によって楽器として組み上がった時の「音」に時代の技術が大きく影響している。その反面、外国基準の電気モーターが日本のPSE法に抵触して輸入が困難となりハイブリッド・ヴァイブが開発されるなど、政治的な影響も受けつつ進化している。

マリンバとて同じで、こちらの製造で最も深刻なのは鍵盤の材料でもあるローズウッドがワシントン条約で保護される事となり今までのような材料の輸入も輸出も困難な時代を迎えた。
高額化するか、新しい素材を求めるか、という瀬戸際にメーカーが立たされている。地球環境問題と楽器が悪い形で結び付いてしまった典型かもしれない。

音楽家にもいろいろいで、ビンテージ物を自分で弾きたいという衝動に駆られるタイプと、自分が不自由なく使えれば特にビンテージである必要がないと考えるタイプ。
自分はどちらだろう?
たぶん「半分」「半分」かな。でもほぼ後者だ。
70年代の鍵盤の音色は逃さず、しかし最新の鍵盤の音色も取り込む。でもそれ以前のものにはあまり興味を示さない。自分がこの楽器に触れた時代まで遡れば後は欲が出ないのだろう。

この二つ、たぶん「求めているもの」が違う。
「音色」に憧れがあると、ビンテージという世界に憧れを抱き、「サウンド」に興味があれば自分でその音の組合せを求めるから楽器は二の次。

アルトサックスに求める「音色」がクラシックとジャズで驚くほど異なるのは、他にもフルートやトランペット等管楽器で如実だ。
これは音を出す時に吹き込む「息」とそれをコントロールする「唇」や「舌」の使い方が人間の意図によるので、本人がクラシックと思って演奏しているか、ジャズと思って演奏しているかによって大きく異なる。ただ、問題なのは「何がクラシック」なのか、「どうすればジャズになるのか」がわかっていないと、いつまで経っても成長しない点で、それは楽器のせいではない点だ。

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では、僕らの鍵盤楽器というのはどうなのだろう?

管楽器との大きな違いは、「誰でもすぐに音が出せる」ということ。
演奏技術は「音が出る」大前提の上に成立っていること。

言い換えれば、実に簡単だけど、これで個性を出すのは大変(かもしれない)ということ。

僕は昔から不思議でたまらないのだけど、ジャズの雑誌とかで奏法講座とかを見掛けるけど、管楽器の講座はかなり噛み砕いた事を解説しているのに、ピアノの講座というのは相変わらずコピー譜しかない点だ。譜面があれば誰でも弾けるからかもしれないが。。。
僕はピアノが好きだから、そういう解説には「運指」、つまり指使いがどうなっているのかを劇的に知りたいと思うのだけど、相変わらず誰々のソロは・・・的なのばかり。
誰でも音が出る楽器だから、どうやって弾くのかが大元で、出した音は二の次なんだけどね。

実はヴィブラフォンのレッスンは、意外とその点は厳しくて、どのような手順で弾くかはおおまかな方法に分かれる。
何があっても左右交互のシングルストロークか、身体のバランスを考えながらダブル、トリプル・ストロークか。

「ひとつ」の音色を求めるのなら、たぶん二種類の音色に集約されるシングルストロークだろう。「いろんな」音色を求めるのなら、何種類かの組み合わせが生れるダブル、トリプルストロークだろう。

「この複雑怪奇なメロディーをどちらで演奏するか?」

テーマを弾く時に選択を強いられる。

ダブル、トリプル・ストロークを求められる時、グリップはトラディショナルでいいのか? それともスナッピングの利きやすいバートン・グリップにするか?

実に様々な選択が生れる。

誰が弾いても音が出る楽器だからこそ、のチョイスだ。

音色について今日は思っている事を述べた。
と、いうのも、最近の演奏を聴いて、確かに上手そうには聞こえるが、、、、
「それ、ヴァイブでやる事なの?」
「それ、ピアノという楽器の性能をどれだけ引き出せているの?」
「それ、フルートがするべきことなの?」
みたいに、どの楽器の演奏(インプロの)も同じようなフレーズやリックばかりになって来て、楽器を使いこなせていないのが気になる。
「とりあえずビール」みたいな演奏を聞かされたくないじゃない。
そういう演奏に限って、これまた音色が汚い。
ピアノにはピアノにしか、ヴァイブにはヴァイブにしか、フルートにはフルートにしか、出来ない「音色」に直結した事をもっと研究すべき。
そうしないと全体の演奏技術もアイデアも衰退の一途を辿り、やがてはそれぞれが生音である意味すら失ってしまう。

何かのヒントになればいい、、、、
そんな事を思いながらパソコンに打ち込んだ昨朝のフライトでした。

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次週は実際にコードワークの時に見逃過ごしがちな「音色」の出し方について。
当たり前と思っている事からリセットすると未来が広がるかも、ね。



改めて今、音色の話し-2 2018/4/27掲載

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発音帯がエレクトリックではない楽器は全て人間の意思とコントロールによって微妙な音色の変化が可能です。例えばエレクトリック・ピアノ。フェンダーローズ式のピアノの弦を音叉(おんさ)に見立ててハンマーでヒットした振動をピックアップで拾う方式だと、鍵盤のアクションに加えてハンマーのスピードの調整も出来るので演奏者の指先の微妙な強弱や、ハンマーへの力の伝わり方までコントロール可能。だから奏者の意図的な快感をも表現出来る。これは音叉に微電流を流し、その振動をマグネチック・ピックアップで電気信号に変換するという構造自体がかなりアナログな仕組みによるもので、アコースティック・ピアノの仕組みをそのまま応用しているから楽器としての人気が未だに高いのもわかる。この楽器は登場した時から100%フェンダーローズ・エレクトリックピアノという「音色」を持っている。他のメーカーではハープシコードのように微電流を流した弦を引っかく方式のものや、完全に電子鍵盤で電流のスイッチを鍵盤にしたようなものまであったが、結局、音色に飽きが来て、フェンダーローズ方式が長く生き残った。それもこれもこの楽器に「フェンダーローズ・エレクトリック・ピアノ」(のちにノーズ・ピアノ)という不動の音色が備わっていたから。
やがて発音体にサンプル音源を使うようになりカーツウェルやヤマハDX-7等、音源そのものに特徴のある音のメーカーのシンセサイザーへと時代は移行して行ったが、フェンダーローズ・エレクトリック・ピアノを超えた存在にはならないどころか、やがて音源だけが独立し、楽器という図体を捨ててその中身だけが「音源」と名乗る世界へ行ってしまった。その間、電子楽器の終焉へと猛スピードで進んでしまった。

理由はただ一つ、音から「色」を捨てたからだ。

さて、現在の生楽器の世界は昔と変わりなく健在で、初心者は「早くいい音」が出したくて、日々練習や努力をし、レッスンに通い、周りの同レベルの中で切磋琢磨する。楽器も昔とは比べ物にならないほど完成度の平均値が上がり、「当たり」「はずれ」の格差もかなり縮んでいると思う。昔の「はずれ」た楽器は酷くて、それが故に初心者は未熟な自分のせいだと奮起してあらゆる練習を試みた結果、楽器を新調したら、さっきまでのが嘘の様に上手くなった人がいるくらいだ。誰も、最初からその楽器「ハズレですよ」なんて言ってくれる人がいないから、驚異的なテクニックを備えた名人も登場していた。

名器と呼ばれる楽器は、そういう不思議な力が備わっているもので、楽器を鳴らす事の苦労に苦労を重ねた人間からすれば天国のような演奏環境を約束してくれるもの。その楽器に出会えるまでの年数が短い人もいれば、長い人もいる。でもそれは恨みっこなしだ。続けていれば皆にチャンスは回って来るものだから。

しかし、大半の「いい楽器」は演奏者自身が楽器を開拓して行く事で「いい楽器」「名器」に育って行くというのも忘れてはいけない。
金属の厚みのある鍵盤のヴィブラフォンだと新品の状態ではまず「無難」な音から始まる。この段階で「無難」ではないキャラクターの楽器は選択から外れる。それからどの程度で・・・・とよく聞かれるのだけど、おおよそ二年は掛かると思っていい。しかもそれは連日演奏される時間がある場合なので演奏時間が少なければそれなりの時間が掛かる、と言わざるを得ない。
木片の厚みのある鍵盤のマリンバだともっと掛かると製造メーカーの社長から聞いた事がある。なので製造している最中に「この先鳴りそう」な鍵盤と「この辺りまで」と言う鍵盤は想像が付くのだそうだ。なのでマリンバの鍵盤にはグレードというものが存在している。ただし、それを活かすも殺すも演奏者次第ではあるが・・・
いづれにしても「最初から鳴る」と感じる楽器はそこがピークの場合があるので、「鳴る」という基準で楽器を評価せず、ボリュームではない部分で選択すると自分に良い結果が得られる。

その時点でのキーワードもただ一つ、「色」があるかどうか、だ。

「色」には何があるのだろう?
人間の意識と同じで、鋭敏な色、優美な色、力強い色、優しい色、明るい色、暗い色・・・・
ボリュームとは別の音色がその楽器から出るか、出ないか。
あるいはそれらが出そうな気配があるか、ないか。

そんな事を思って自分の楽器を調達する。
こればかりは「出会い」と「運」だ。
決して安くはない買い物で「運」だなんて言うと、今の世相なら「訴え」られるか?
なんとつまらない考え方だろう。
さっき言ったばかりじゃないか。
もしも「運」を逃したと思ったなら、それを逆転するほどの工夫と努力で超人的なテクニックを身につけるチェンスを得たと思え。
「運」を得た、と安心、満足した人はそんな努力も工夫も知らずに「音」を出して過ごす。
さぁ、実践の場に出た時に、あなたが手にした新しい楽器で、果たしてあなたが出来る事の何分の一の「音色」をその人達は出せるだろうか?

チャンスとは、そういう時に訪れるもの。

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叩けば誰でも12音階の音程が出る楽器。ピアノ、オルガン、鉄琴、木琴。
この四つを大きく分けると次の二組に分かれる。
ピアノとオルガンは自分の指先から先は機械的な仕組みによって発音体に自分の力を伝達させる。
鉄琴と木琴は手に持った撥(マレット)を直接発音体に触れて音を出す。
時にピアニストが弦に触れて弾いたりミュートしたりする場合もあるが、まぁ、特殊奏法になる。
と、なると、数ある鍵盤楽器の中で直接発音体に触れるのは実は鉄琴と木琴しかないのだ。
もちろん、鍵盤ハーモニカやアコーディオンも直接的には見えるけど、これらは息・空気を吹き込むという大きなクッションを経ているので直接発音体を触っているわけではない。
この直接発音体を自分に持つというのは、管楽器と共通している。

なので、管楽器が奏法として使っているものは演奏の「音色」の大きなヒントとなる。

さて、ここに AbMaj7 というコードネームがあり、それを弾きなさい、となった時。
僕はその用途によってヴィブラフォンでは二種、マリンバでは四種の鍵盤の弾き方、叩く位置をコントロールします。
それによって聞こえて来る「音色」は全然別もので、これはピアニストがどう転んでも真似出来ないマレット楽器独特の表現方法なのです。
それを知って演奏する、知らずに演奏する、では音楽そのものの表現が違ってきます。

まずヴィブラフォン。
超簡単です。
マレットを持って、ペダルを踏んで AbMaj7 を叩くだけ!

でも、よく見てください。

■Vibraphone-1
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■Vibraphone-2
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左右に持ったマレットの叩く鍵盤の組み合わせが違います。
さらによく見ると、それぞれの鍵盤の叩く位置も違います。

まず、Vibraphone-1 はコードを弾く時の標準的なポジション。
ヴィブラフォンを習う人で最初コードが覚えられない、、、と悩んでいる人の大半は次のVibraphone-2の組み合わせでこのコードを弾こうとします。それでは頭の中にコードの構成音が低音側からroot, 3rd, 5th, 7th, となっている理論的な音と演奏の連動が生まれません。それを直すとこのようなクローズド(密集)・ヴォイシングからオープン(開離)・ヴォイシングや転回形への布石が一気に頭の中に出来上がるのです。
また、叩く位置は伴奏に大音量は必要ないのでサブ的な音量の出る位置で、さらに素早くコードの切替えに対応しやすい位置ということでこのポジションが選択されます。

Vibraphone-2 は(個人的にですが) トレモロを使ってバックグラウンドにストリングス・セクションのような意図的に強弱の利くサスティーンを得たい時に使います。Vibraphone-1ではロールした時のハーモニー感が三度で細切れになるのとロールし辛いのがあります。また、時には片手ロールも組み合わせたりする都合上この位置がバランス的によいのです。

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マリンバについては次の様に使い分けています。

■Marimba-3
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■Marimba-4
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マリンバは構造上で派生音側の鍵盤が基音側の鍵盤の上に覆い被さっている箇所があります。
意外な事にマリンバの人はあまり気にしていないのですが、この配置によって飛び出した鍵盤の部分と対になる基音側の鍵盤の部分が音によって揃わないので、コードやハーモニーのようにサウンドを音のブロックとして演奏する時は派生音側の飛び出した部分が使えないのです(音色に差がありすぎる)。
そこでコードを弾くときはサスペンションコードを軸とした対象となる位置にします。
その時に1音(和音)として弾く時は Marimba-3 、トレモロとして弾く時は Marimba-4 の組み合わせにします。
マリンバは三度の響きが楽器との相性が良いので、トレモロの時はMarimba-4 のように三度が交互に聞こえるように叩くと和音の輪郭がゆったりと聞こえ、Marimba-3のように叩くと五度のブロックが交互に聞こえてハーモニーとしてまとまらない弱点があるのです。
ペダルで音が伸びるヴィブラフォンでは何の問題も無いことが、マリンバでは思わぬエラーを引き起こすわけ。

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こんな事で演奏が上手くなるのなら、叩く事ばかりに囚われないで工夫というものをもっと考えてみるといいでしょう。もっとたくさん工夫できるところがあるのです。
残念ながら僕の周りでは、そこまでコントロールしているマリンビストにまだお目にかかった事がないのです。。。
逆にヴァイビストでマリンバを通って来た世界中のプレーヤーがマリンバを弾くと、それが聞こえて来たりするので、まだまだマリンバは開拓の余地があるんだなぁ、と思うのですね。せっかく鍵盤楽器の中で唯一発音体に触れながら演奏出来る楽器同士なのだから、一緒に音楽表現を広げて行こうではありませんか。

たった一つのコードサウンドを出すだけでも、最低限はこのくらいの知識が無ければコードミュージックの中でのマリンバを自由に乗りこなす事は出来ないのを知っているプレーヤーは少ない。楽器に対して直観的すぎる傾向があるのがマリンバを狭い世界に閉じ込めている要因かもしれない。
しかもその知識と、コード理論を併用する時に、平時の当たり前とされている「叩き方」を根底から覆さなければならないという厄介な面があるので、この世界でマリンバが育ちにくいという事にも繋がっている。

奏者の間でそんなだから、ましてやリスナーにとってはわかりにくい違いがこの両者間にある事など、殆ど認知されていない。

僕も三十年以上待ち続けて、やっとその両方を行き来出来る存在が登場する予感を持ちつつアシストしている最中だ。



■マレットの組み合わせの秘密を知ろう

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マリンバの演奏の最大の特徴は何でしょう?

もうこれはズバリ、トレモロによる演奏表現ですね。
これには有利な面と不利な面が同居しています。

よく言われる言葉に「マリンバの常識は世間での非常識」なんてちょっぴり辛口の意見。
それは言い換えれば、マリンビストが他の世界を知らなさすぎる、と言う警鐘なんです。
反対にヴィブラフォンはどうでしょう。
特にそのような意味での批判はありません。分野によって「音が小さい」とか「音が古臭い」なんてのはありますが・・・・。
マリンバに戻すと、何がそうさせているのかと言う一番の原因は、トレモロという独特の奏法にあるのです。

実際にジャズのバンドでマリンバを演奏した経験から言えるのは、「臆病なトレモロはいらない」ということです。

音が伸びないのが楽器最大の特徴であるのなら、それをギャップと感じない頭の組織の置き換えが必要でしょう。同じエリアの楽器のヴィブラフォンが他の楽器との共演で特に不安やギャップを感じないのは、音が伸びる装置を持っているからです。鍵盤そのものの余韻が長いのが利点に結びついているわけです。
なので、このコロナ危機の時期にたくさん挙がったマリンバの人の動画は皆一生懸命叩くことに気持ちを持って行かれて、演奏されている曲の良し悪しは「叩くこと」の二の次のようでした。
辛口かもしれませんが、結局それは音がのびない楽器としての表現の片方しか補えていないのですね。

コードミュージックの中でマリンバを演奏するときに、この片方の力は殆ど必要とされません。もう片方の力にマリンバを求められるのです。このことに気付いたマリンビストは少なく、薄々とそれを感じたマリンビストがこれまでにも僕のところにやってきました。

彼ら、彼女らはいうのです。テクニック云々ではなく、どのように理論立てて吸収すればいいのかを知りたい、と。
殆どの場合、すでにマリンバを人並み以上に弾けるところにいるので、その弾けるところが習得の邪魔をしていることに気づくと上達は早くなります。皆いい子ばかりです。

さて、なぜここでコードを弾くときのことについて改めて書いているのか?

「コードが覚えられない!」「譜面はいくらでも暗譜できるのに、コードだけは・・・」という悩み。

この原因はとても単純なところにあります。
それをここで披露しましょう。

AbMaj7というコードの転回形を弾く。

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これはマリンビストが何の抵抗もなくAbMaj7の四つの音を転回させて行く時の様子を譜面に書いたもの。ト音記号が右手、ヘ音記号が左手です。
先週、写真でも見せましたね。以下の通り。

今回の基準の形
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第一転回形
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第二転回形
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第三転回形
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全てトレモロで演奏です。
そうだよ、そうよ、これに何か問題でも?

では、ヴァイビストの同じ和音の転回形の弾き方を見てみましょうか。
同じAbMaj7の同じレンジの和音です。

今回の基準の形
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第一転回形
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第二転回形
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第三転回形
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!!

全然マレットの使い方が違う!!

でも、出ている音は同じだから、こんなのどっちでもいいじゃん! って?(笑)

それ? ホント?

もう一度基準だけ比較しよう。

マリンバ↓
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ヴァイブ↓
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マリンバはトレモロで、ヴァイブはペダルで音を伸ばす。

さてさてさて・・・。

マリンバの人がコードを覚えるのが苦手、という原因がここにあるのです。
マリンバはトレモロで音を伸ばす、という行為の時、実際には四つの音を同時に連打しているのではなく、左右交互に連打しています。それってどういうこと?
つまり、左と右と、二組の音のブロックを交互に鳴らして四音の和音、ということにしているわけです。実はそれ、かなりアバウトな事なんですが。

その時に1組ずつの和音の響きをマリンピストは意識するんですよ、自然にね。

当然です、汚い響きよりも綺麗な響きをチョイスするのは音楽家としての基本ですから。

でも、ちょっと待ってください。
和音というのは全部の音が同時に揃って響いてこそのものです。

この基準の形の時をよく見てください。

左はG + Cという音のブロック。
右はAb + Ebという音のブロック。

どちらも完全五度ですね。なのでそれぞれ綺麗に響きます。この綺麗に響く音程同士を交互に弾くので綺麗に響いているのですが、これ、同時に四つの音が和音として鳴っていないですよね。響き、という表現では良いけれど、和音という意味では異様な状態。二つの和音が交互に打ち鳴らされているのです。

ヴァイブの弾き方を真似すると、

左は G + Abで半音のブロック、
右はC + Ebで短3度のブロック、

と形の異なるブロックに分割されます。するとこれを交互に弾くと、半音のぶつかった響きと平穏な短3度の響きが交互に聞こえるので和音としてブレンドしていない風に聞こえてしまうのです。

ところが、コードの理論はコードそれぞれの声部とマレットの使い方が連動すればするほど記憶しやすく、逆に響きを優先とするマリンバ的な組み合わせでは、コードの声部との一致が見られないのです。
なので、コードを覚える、という行為の時に、マレットの組み合わせとコードの声部が頭の中で一致していないので、マリンバの人は非常手段として(笑)、叩く位置、つまり形で和音を覚えようとするのです。

これが辛いところ。
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頭の中にコードを入れたいのであれば、まず、ヴァイブと同じ弾き方でコードを左右同時に弾く。トレモロ無しで。

まずこの和音を一度だけ同時に弾く、ということでコードとマレットの機能を一致させるところから修正してください。
それでコード内の音がどういう声部で成立しているのかを知ってから、従来のマリンバ的なマレットの組み合わせで弾くのです。
もちろん音楽の表現として様々なマレットの組み合わせを拒否するものではありません。
だけど、基本として、まずトレモロ無しでヴァイブと同じマレットの組み合わせにする事で、コード理論も吸収しやすくなるというのをお試しあれ。

今まで苦労していた「形」弾きから卒業できます。

いつもそのコードの時に同じ音しか弾けなかったのに少し変わったね、と言われると嬉しくなるものです。





プライドが邪魔してドミソと弾けない悲しさ 2020/6/26掲載

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ジャズという、ある意味ではとてもストイックな音楽の世界に足を突っ込んでしばらくして「わけがわかったようになった時期」に自分でも恥ずかしくなるような間違い(錯覚)を起こす事がある。まるで他の音楽を否定してしまうような自我の芽生え、という奴だ。たぶん他の音楽でも似たようなものはあるだろう。その音楽にのめり込むばかりに他との差別化を試みる贔屓目という奴だ。僕にその兆候が見られ始めたのは中学の一年の時で、音楽鑑賞の時間の感想文に事もあろうかコダーイの曲に関する感想文にジョン・コルトレーンを持ち出して批評している。そう、やたらと知ったばかりでまだ浅知恵のジャズを引っ張り出しては周りを批評して得意がっているのだ。高校の頃にその音楽鑑賞ノートが出て来て読み返すと冷や汗が出た(笑) なんて嫌な小生意気なガキだ、って。
ジャズスノッブっていうのにぴったり当てはまる。こういうジャズスノッブは世界中にいる。だからそういう言葉があるわけだし、ジャズはそういう暗示にかかりやすい音楽なのだろう。

これらは「好き」が嵩じての事件だけど、問題はただ「好き」だけでは済まされない状態になっている自分だ。
音を出す側でのジャズスノッブは悲劇だ。物好きが嵩じてジャズスノッブになっているのとはワケが違う。
実際に人前で演奏し、そこには最低限でもジャズという音楽に対する自分なりの自負がある。だからヤバくて、プライドだけは一人前。そんな、僕はジャズスノッブなんてとっくに中学で卒業しているさ・・・・・。
もちろん自分がこれから音を出して生きて行くフィールドはジャズの世界だからその音楽と歴史をリスペクトして行く気持が強いのは大切な事なのだけど、こと、音を出す世界には境目は無い。ジャズの“C”がポップスでは“F”なんて違いが存在するわけでもなく、ロックだろうが、クラシックだろうが、自分が好む音楽や関わる音楽は無限大で区切りなどあり得ない。そう思ってこの世界の中で演奏していた。

ところが、、、、だ。。

ある時、演奏中の譜面に「C」というコードネームが書かれていた。
「C」となればMaj7。ならばちょっぴりゴージャスに9thや13thをヴォイシングしましょ。
ポーン、とそのゴージャスな響き。いいじゃない。「C」がうんとゴージャスになった。
また「C」が出て来た。よしよし、今度はグッとサウンドを広げて4th interval build(4度間隔配置)でゴージャスに!

演奏が終わってリーダーに呼ばれた。てっきり「あのサウンドいいねぇ」と褒められるのかと思ったら真逆で説教に(涙)
「どうしてあんなに複雑な音を出すんだ」と。
「あそこは普通の音が欲しいからセブンスも略しているのに勝手な音で埋められて台無しだ」。
作曲者自身の言葉だからこれほどグサッと突き刺さるものは無い。
CDデビューしてそれなりに雑誌の人気投票にも名前が載り始めた33歳。楽器のキャリアは20年、そりゃプライドも高かろう時期の事。
だから人前で「ド・ミ・ソ」と和音を弾くのがどうしても出来なかった。バカじゃないの? そんな事、簡単なのにって? ジャズスノッブ菌に感染すると、そこが妙に許せないと言うか、何と言うか・・・・。
指摘してくれたボスはベテラン・ピアニストの市川秀男さん。以来何年も掛かって「ド・ミ・ソ」の和音を「ド・ミ・ソ」と弾けるようになった。ストイックなこの現象で実は日々悩んでいるジャズスノッブは多い。
大丈夫、自分の音楽の事よりも、そこに必要とされる音楽が聞こえて来たら、素直に「ド・ミ・ソ」と弾けますって。
逆に何の躊躇(ちゅうちょ)もなくド・ミ・ソって弾いてる人は・・・・出した音が全体の中でどのように響いているのかを予測して弾くといいかも。

全体の中でどのように音を出すのか?
和音とメロディーが一体となった例として4th interval buildで説明してみましょう。

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ヴィブラフォンでCMaj7のコードでメロディーが「C → D」と動いている時に4th interval buildのヴォイシングを行ってみました。
ヴィブラフォンで演奏する時は譜面の様にペダルでメロディー毎に音を区切ります。

メロディーとされる「C → D」を若干フォルテ気味に演奏するといいでしょう。

さて、同じ事をマリンバでやってみましょう。

譜面にするとこういう事になります。

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無意識にトレモロをして弾くでしょうね。
難しくありません。
若干メロディーとされる「C → D」は強め、もしくは硬めのマレットにするとかでメロディーを浮かび上がらせることが出来ますね。

しかし、ここで注意すべきは、コードの変わり目の処理です。

まず、トレモロというものをどのように捉えて演奏しているでしょうか?

まず、二通りのやり方に分かれます。

Marimba-aは最もトレモロで多い例です。

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トレモロを可視化する為に細かい音符で表現しました。
右手からトレモロを弾き始める。つまりメロディーが先に聞こえるように弾くわけです。

次にMarimba-bです。

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Marimba-aとの違いは左手から弾き始める点。つまりメロディーよりも和音から弾き始める形です。

さて、どちらが正しいのでしょう?

コード・ミュージックの場合、正解はMarimba-bになります。
何よりも低音側の鍵盤は高音側の鍵盤よりも余韻が長く、特にコードの変わり目を意識すると次のコードとの音の被りが少ないのはコードミュージックにとって最も重要な要素になります。

ただ、あるテンポ以上のリズミックなメロデイーではこのやり方は不利でMarimba-aのメロディー先行弾きになります。
この二つをミックスしたものがコード・ミュージックの中でのトレモロと言う事になりますが、その判断の境目は明白ではありません。

個人的なバンドでのマリンバ演奏の経験から一つ言えるのは、メロディーのリズムは崩さずに、コードが変わっても濁らない方法は余韻をカットする事です。
カットといってもマレット・ダンプニングをする暇はありませんから、休みの導入に留まります。

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Marimba-aとの違いは左手から弾き始める点。つまりメロディーよりも和音から弾き始める形です。

さて、どちらが正しいのでしょう?

コード・ミュージックの場合、正解はMarimba-bになります。
何よりも低音側の鍵盤は高音側の鍵盤よりも余韻が長く、特にコードの変わり目を意識すると次のコードとの音の被りが少ないのはコードミュージックにとって最も重要な要素になります。

ただ、あるテンポ以上のリズミックなメロデイーではこのやり方は不利でMarimba-aのメロディー先行弾きになります。
この二つをミックスしたものがコード・ミュージックの中でのトレモロと言う事になりますが、その判断の境目は明白ではありません。

個人的なバンドでのマリンバ演奏の経験から一つ言えるのは、メロディーのリズムは崩さずに、コードが変わっても濁らない方法は余韻をカットする事です。
カットといってもマレット・ダンプニングをする暇はありませんから、休みの導入に留まります。




誰が綿巻きがvibraphoneで毛糸巻きがmarimbaと決めたの? 2020/7/10掲載

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ユーザーから寄せられたシンプルな質問に応える形で本日は書いてみます。

質問は誰でも浮かぶけどその内に習慣として埋もれてしまったもの。

「マリンバが毛糸巻き、ヴィブラフォンが綿巻き、と言われるのはなぜですか?」

ご質問のユーザーは高校生のRKさんで吹奏楽部の打楽器担当。コロナの影響で部活はパート練習が続いているんだそうです。そんな中でこの際に備品のメンテや拡充をする事となり、鍵盤楽器の古くなったマレットを新調するので色々調べていると、その地方の楽器店さんに「マリンバが毛糸、ヴィブラフォンが綿だからその中から選んで」と言われ、部には毛糸巻きしかない事に初めて気が付いたらしいのです。部の先輩に聞くと「どちらでもいいから毛糸巻きでいい」と言われて、ヴィブラフォン用とマリンバ用は別なんですか? というものでした。
ユーザー本人は綿巻きを知らないので判断に困っているようです。

そうそう、この「問題」って昔から「まことしやかに」マレット業界で燻っていますよね。

僕もいつだったか、高校時代に誰かに「マリンバが毛糸巻き、ヴァイブは綿巻き」と言われた記憶があります。
実際に(スクールモデルでしたが)綿巻きのマレットを買って暫く使った記憶があります。

綿と毛糸で何が違うのか?
それが知りたいですよね。僕もそれを聞きたかったなぁ。

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鍵盤の材質の違い。
これは決定的です。マリンバはローズウッド。ヴィブラフォンはジュラルミン(アルミ合金)。
ヴィブラフォンの鍵盤の色はゴールドとシルバー(最近はブルーとかレッドとかあるにはありますが・・・)でシルバー以外は着色の為に一度塗りが多くなります。その為、若干音がマイルドになる傾向はあります。

さて、ローズウッドには毛糸巻き(ヤーン)しか使えないのでしょうか?

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そんなことはありません。綿巻きのマレットで叩くと毛糸巻きのマレットよりもソリッドながら少し丸みのあるコロコロとした音が出ます。
そもそもマレットの原型はゴムやコルクのヘッド(球)をハンマーに付けたものですから、柔らかい木製の盤面には柔らかいゴムしか使えません。
対してヴィブラフォンの盤面は金属ですからある程度の硬さのものには対応できます。しかし、金属の中でも柔らかいアルミを使っているので、例えばグロッケン用の金属のヘッドのような硬質のもので叩くと盤面が痛みます。コルクも硬さの点では金属に匹敵するものがあるので危険です。ゴム(ラバー)のものであれば使えます。

まずこの事が二つの楽器のマレットの基準かと思えます。

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極端に言えば、ゴムのマレットでもOKなヴィブラフォンと、何か球を糸で包めたマレットが適するマリンバ、でしょうか。

実際に、柔らかめのゴムのマレットでヴィブラフォンを弾くと、とてもクリアーで気持ちのいい音が出ます。
意外と好きです、その音。昔のアナウンス用のチャイムみたいな音。僕はチェレスタみたいな音にも感じました。

一方、マリンバを柔らかいゴムのマレット(推奨はしませんが)で弾くと、低音側は倍音ばかり出て「話になりません」。が、中音域、高音域はクリアーな音が出ます。ある意味で木琴らしい、倍音の違いはあるにせよシロフォンのような音が出ます。

思うに、ここに二つの楽器のマレットの「伝説」が生まれる背景があるように思うのですね。

ヴィブラフォンはゴムのマレットのニアンスを失わないように糸を選ぶと、綿巻きのマレットが最適だったのかもしれません。
対してマリンバはシロフォンとの差別化の方向を取ったようで、あまり倍音が強くならない毛糸巻きに至ったと考えられます。

なるほど、だからマリンバは毛糸、ヴィブラフォンは綿、となった。

そんなところでしょうか。

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しかし、デメリットもあるもので、綿巻きマレットと毛糸巻きマレットを比べると音圧の点では毛糸巻きが優り、さらに奏法の進化(マレット・ダンプニング等)によって綿巻きでのタッチノイズが問題となることからヴィブラフォンでは毛糸巻きが増え、明確な二つの楽器に於ける綿・毛糸巻きの「分別」は無くなりました。

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メリットの点について触れる場所が少ないので「日本ヴァイブ協会」のデータから引用すると、スラップ・マレットがあります。牛革を巻いた柔らかいマレットで、ペタペタというタッチノイズも特色の一つとしたもので、ゴムのマレットの感触をさらに拡大したものではないかと、個人的には納得するもの。同サイトにマレットの種類など詳しくあるので参照されるといいでしょう。

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結論。

どちらでも良い。
好みで選ぶべし。

こんな分別で考えるといいでしょう。

綿巻きマレット(音色的な好み)
・ソリッドな音 ・アタック音 ・倍音を好む

毛糸巻きマレット(音色的な好み)
・ダイナミックレンジ対応 ・減タッチノイズ ・セーブされた倍音

大まかですが、それぞれの巻き方のマレットには数限りのない種類があるので、大まかな分別の先で自分の好みを見つけてください。

僕は当面毛糸巻きユーザーが続きそうです。

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たかがマレット、されどマレット。
この小さな球体の紡ぎ出す音宇宙は無限大に広がり、唯一無二の世界を作り出す。

RKさん、もしも楽器店に現物があれば一度綿巻きマレットも試してみるといいでしょう。あとは好みでOKです。





お手元の段差にご注意ください? 2020/8/7掲載

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もうすぐ公開! 東京都アーチスト支援事業『アートにエールを! 東京プロジェクト』に出展した新作オリジナル動画“Always rising after a fall - 音楽は、負けない”。
ここでは一人三役(vibes, marimba & piano)+リモートゲスト(ハクエイ・キム/syn)という多重録画編集を使った三密回避のバーチャル・ライブセッションに仕上がっていますが、マリンバを使った本番は久し振りで、しかも動画という“不慣れな”収録環境の中で、改めてヴィブラフォンとの違いを感じました。

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言うなれば、演奏環境が“バリアフリー”なヴィブラフォンに対して、

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“段差”が生じるマリンバ。

なぜマリンバはバリアフリーじゃないの?

素朴な疑問だよね。

元々はアフリカからアメリカ大陸に伝わったマリンバの原型の鍵盤は横一列だった。

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浜松の楽器博物館に展示されているアフリカから伝わったマリンバ

手前のロープみたいなのは楽器を首からぶら下げて演奏するスタイルだった名残り。

これをピアノのように平均律に並べた時からなぜか派生音側が一段上に並ぶようになったらしい。

グァテマラでマリンバは発展したようで、これは浜松の楽器博物館に展示されていたマリンバ・グランデと呼ばれる大型のマリンバ。

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面白いのは基音側と派生音側が互い違いに並ばずに重なっている点。今のならびに慣れていると途中からどこの半音だかわからなくなってしまうそう(笑)

さて、問題の“段差”がなぜ生まれたのか?

予想ではあるけれど、ピアノの鍵盤のように派生音側を切り抜いて並べれば“バリアフリー”も可能だった。
でもその分、特に低音側に行けば行くほど鍵盤の長さが伸びてしまい、叩こうにもあっちの方に行ってしまって都合が悪かった。そこで手前に“手繰り寄せた”ら、基音側の鍵盤の上に重ねる形が生まれた。

まぁ、恐らくはこんなところだろう。

じゃ、ヴィブラフォンはなぜ“バリアフリー”に出来たのか?

ヴィブラフォンはマリンバの進化形である。先にその形が存在している中で音の余韻の長い鍵盤が開発されてマリンバに装着すると、不具合が出て来た。
余韻が長いから“消す”装置、つまりダンパーを取り付ける必要が生じた。
最も単純な消音装置は鍵盤を直接抑えて振動を止めるもの。
楽器の構造を考えれば、ペダル操作で鍵盤の端にダンパーを当てて消す方式がシンプルでいい。
では、ダンパーを基音側と派生音側に分けて装着すると段差があるままでも出来なくはないが、それぞれのダンパーを一つのペダルで連動させるのは構造的にも耐久性の上でも無理がある。
そこで楽器の中央に横一本のダンパーを設定して、その上に鍵盤を並べる構造にしたら、段差が消えて“バリアフリー”になった、というもの。

まぁ、バリアフリーは余計かもしれないが(笑)

でもねぇ、久し振りにマリンバに向き合って、やはりこの段差は要注意だなぁ、と思った。

鍵盤を叩く位置だけど、一番楽器の音量を出す時はこの位置を叩けばいい。

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ホール(共鳴管)の淵。ホールの真ん中は逆に鳴らない。振動を殺してしまうからだ

でもいつもここばかり叩くわけには行かないから、次に音量が稼げる位置も割り出しておく。

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鍵盤を繋ぐロープを受けるピンの側。

もっと音量を揃えるなら、派生音側は基音側の対局の位置がベスト。

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僕は最初からマリンバの鍵盤は端っこも使うように習ったが、ホールの近くを叩くと習う人もいるようだ。
そんなだからメーカーによって鍵盤の端っこの鳴り方が全然違ったりする。
これ、結構慣れないと自分が急に下手になったのと勘違いする。

実家のマリンバはY社の古いモデルで、鍵盤の幅は今のY社のものよりも広い。
うっかりそれに慣れて本番に望んだので、結構その違いがプレッシャーになった。

例えば、 Abm7というコードを弾くときにテンション13thをヴォイシングに入れる時、ごく自然に以下のような位置を叩く。

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左手は問題ないが、右手の叩く位置がメーカーや形式によって出来たり、出来なかったりするんだ。

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収録の時に使ったマリンバはK社のもの。
Y社よりもやや細めの鍵盤で厚みがある。

すると、13thの音を弾いているマレットが入らなかったり、弾かれたり・・・・結構苦労した。

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急遽このような位置に変更したら、次のコードワークに進み辛く、なかなか“段差”は厄介だなぁ、と思った。
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ヴィブラフォンだと全く苦労する場所じゃないんだけどね。。。。

やっぱりこれからは楽器もバリアフリー、ですかね。
マリンバの時は、お手元の段差に御注意ください。