Archives-17 音楽は見るんじゃなくて聴くもんだ 木曜ブログ・アーカイブ

私的・ディスク大賞

  • 毎週木曜日のブログは聞いたアルバムのお話しでした。ヴィブラフォンを習いたいと希望する人の中に、あまりにも音楽を聞いていない人が多いのが残念で、こんなアルバム、こんな音楽を聞いてみてはどうだ? という事も含めて、木曜日にいろいろ楽しんで聞いた(聞いている)アルバムを紹介する事にしました。
  • ミュージシャンにもいろいろで、最初はリスナーから入って、やがて人前で演奏するようになると「する」が楽しくなって「聴く」のを忘れてしまう人もいます。あるいは、自分の音楽と常に向き合う為に他を一切遮断してしまう人もいます。僕はそのどちらでもなく、ずーっと音楽を聞いている時間が好きで、それは演奏する時間と等しいくらい人生の根幹となっています。常に自分の耳で聞く事とやる事によって感性が磨かれているのです。また、あらゆる楽器を聞くのが好きで自分の楽器を聞くのはこの楽器を始めた最初の五年間くらいでした。自宅のCDストックを見てもヴィブラフォンのアルバムは全体の10%くらいです。特定の楽器を聞くのではなく、お気に入りの音楽を聞いて楽しんでいるわけです。たぶん、そこが少しだけ他の人達とはちがうのかもしれませんね。自分の曲もすぐに発表しないで何年も寝かせていたりしますから。
  • 音楽は、見るんじゃなくて 聴くもんだ! なんでも見てわかったような気になって忘れてしまうよりも、聴いて想像して、それを自分の中で広げられたら、一生続く楽しみと刺激になって歳をとらない。見るだけなら動物でも出来るもんね。大切なのはそれをどのような反応に置き換えられるか。
  • 毎週木曜日に年間約40枚前後を紹介したアルバムからその年で一番いい刺激を受けたアルバムを私的・ディスク大賞として紹介。

私的・2021年(に聴いた)ディスク大賞!  木曜:Jazz & Classic Library 2021/12/30掲載

middle_1640812145.jpg
『SPARK OF LIFE/Marcin Wasilewski』(ecm/2014年)

先日、音楽評論家の瀬川昌久さんがお亡くなりになりました。1991年のコンピレーションアルバム『Now's The Time Workshop Vol-2』(ファンハウス)がきっかけで何度かお話を伺った事があります。常に現場(コンサートやライブ)に足を運ばれる数少ない真の音楽評論家だったと思います。心からご冥福をお祈りいたします。

いよいよ暮も押し迫った本日は毎週木曜日に紹介したアルバムの中で最も印象に残った一枚の発表。題して「私的・2021年(に聴いた)ディスク大賞!」。新譜だけでなく、過去に購入していたアルバムも対象。新譜だけにスポットを当てる方式とは違う個人的に今年感動した音楽のこと。何度でも繰り返し楽しめる再生娯楽だけの特権。聞き手のタイミングや環境によって、新たな発見も多々。これだから音楽はやめられない。

今年は木曜日に紹介した40枚のCDからで、動画や映画は対象外としています。
観察すると、ECMが13枚でレーベル最多、発売年は2010年代が最多で10枚、続いて1970年代の9枚と続き、2000年代が26枚と時代からはこぼれ落ちていませんでした(笑)。つまり最新と1970年代が好きという性質が丸出しの人生のようです。

私的・2021年ディスク大賞は!

『SPARK OF LIFE/Marcin Wasilewski』(ecm/2014年)
1.Austin
2..Sudovian
3.Spark of Life
4.Do Rycerzy, Do Szlachy, Do Mieszczan
5.Message In a Bottle
6.Sleep Safe and Warm [From "Rosemary's Baby"]
7.Three Reflections
8.Still
9.Actual Proof
10.Largo
11.Spark of Life
Marcin Wasilewski (piano)
Slawomir Kurkiewicz (bass)
Michal Miskiewicz (drums)
Joakim Milder (tenor saxophone)

Rec: Mar/2014
middle_1640812302.jpg

実はこのアルバムは信州・安曇野のベーシスト中島仁からもらったもので、今年6月に松本にコンサートで前乗りした際に(怪しい)男の夜会with伊佐津和朗@松本エオンタの時に「実はポチ被りで余るので」、と。
意外なところで意表を突いて出会ったアルバム。ヨーロピアン・ジャズにはあまり興味を示さなかった時代の空白を埋める事が始まりました。
トーマス・スタンコ(tp)のグループのリズムセクションがマルチン・ボシレフスキ・トリオという事でその辺りの相互関係も理解しつつ聞き進む新たな旅路の扉。
最新作ではコレクティヴ・インプロヴィゼーション的な曲(多分演奏)が多く、この時代のアルバムへの想いとは少し趣が違うように感じている。曲、演奏のバランスが取れた傑作アルバムだと思います。

来年も、いつでもどこでも聴いて楽しめる音楽の特権を楽しみ続けましょう!

以下は、本年のリスニング作品(資料)。



1・2021/1/14 ピッチも変だし、録音も悪いけれど
     ・・・・『LIVE AT RONNIE SCOTT'S/Bill Evans』(resonance/2020年)

2・2021/1/21 そう言えばデビュー当時の印象が
     ・・・・『OPAL HEART/David Liebman 4 feat. Mike Nock』(enja/1979年)

3・2021/1/28  「立ち読み」のお知らせと、リスニングは未知の世界との遭遇
     ・・・『Changing Seasons/Mike Nock』(diw/2003年)

4・2021/2/4 前途洋々の頃の置き土産
     ・・・『BASICS/Larry Coryell』(wounded bird/1968 & 79年)

5・2021/2/1 ライブ様式変わり目の時代に改めて聴く-Live Evil 
     ・・・『LIVE EVIL/Miles Davis』(cbs/1971年)

6・2021/2/18 ありがとうございました! 
     ・・・『Piano Improvisations Vol. 1/ Chick Corea』(ecm/1971年)

7・2021/2/25 ピアニストほど不思議な生き物はいない
     ・・・『BUDAPEST CONCERT/Keith Jarrett』(ecm/2020年)

8・2021/3/4 バンドが壊れる時・・・定点観測にみる崩壊への道 
     ・・・『MONTREUX JAZZ FESTIVAL 1967/CHARLES LLOYD QUARTET』

9・2021/3/18 DDDの刻印 
     ・・・『NOT WE BUT ONE/Mike Nock Trio』(naxos jazz/1997年)

10・2021/4/8 もっと遠くに「生」はあったけど、もっと近くに「音楽」はあった
     ・・・『MIXED ROOTS/Al Foster』(cbs/1978年)

11・2021/4/15 若かりし頃の弟子との思い出のアルバム
     ・・・ 『AT THE AIRPORT/Larry Coryell & Brian Keane』(black & blue/2020年)

12・2021/4/22 力唱しない歌声好きではあるけれど・・・?
     ・・・ 『SUNSET IN THE BLUE/Melody Gardot』(Decca/2020年)

13・2021/4/29 ソロ・パフォーマンスと曲の関係
     ・・・『Munich 2016/Keith Jarrett』(ecm/2019年)

14・2021/5/6 鉄鋼館スペースシアター:EXPO '70
     ・・・『SPACE THEATRE/EXPO'70鉄鋼館の記録』(rca/1970年)

15・2021/5/27 「ゆらぎ」の中にある魅力
     ・・・『THE LIFE OF A SONG / Geri Allen』(telarc/2004年)

16・2021/6/3 気づくといつも“はっ”とさせられる人。
     ・・・『SONGS FROM HOME / Fred Hersch』(palmetto/2020年)

17・2021/6/10 本日『SPARKLING EYES/YUKARI』レコ発@渋谷Jz Brat。そんな日はなぜかジョン・スコで
     ・・・『SWALLOW TALES/John Scofield』(ecm/2020年)

18・2021/6/17 なぜヨーロピアン・ジャズとなると圧倒的にピアノトリオなのか?
     ・・・『Badgers And Other Beings/Helge Lien Trio』(ozella/2014年)

19・2021/6/24 ヨーロピアン・ジャズはなぜピアノトリオが多いのか? その2
     ・・・『FREE TO PLAY/Espen Berg』(odin/2019年)

20・2021/7/1 なぜヨーロピアン・ジャズはピアノトリオが多いのか? その3
     ・・・『CHANGING PLACES/Tord Gustavsen』(ecm/2003年)

王冠21・2021/7/8 DENONで聴くECMは最高
     ・・・ 『SPARK OF LIFE/Marcin Wasilewski』(ecm/2014年)

22・2021/7/15 やはりチャールス・ロイドはお約束の千両役者
     ・・・『JUMPING THE CREEK/Charles Lloyd』(ecm/2005年)

23・2021/7/22 時の流れは誰にも埋め合わせ出来る物ではない
     ・・・『ERIC DOLPHY & BOOKER LITTLE REMEMBERED LIVE AT SWEET BASIL/Mal Waldron』(king/2015年)

24・2021/7/29 ピアゾラ以外のバンドネオン奏者の音楽を知っているか?
     ・・・『MOJOTORO/Dino Saluzzi』(ecm/1992年)

25・2021/8/5 なぜかサークルは苦手なまんま
     ・・・『CIRCLING IN/Chick Corea』(blue note/2020年)

26・2021/8/12 いつまでも変わらないものであるための事
     ・・・『LANTERN/OREGON』(cam-jazz/2017年)

27・2021/8/26 新レーベルを立ち上げた男の飽くなきロマンを聴く(沢田穣治・unknown silence) 
     ・・・『ROMEO AZUL/Quiet Answer Trio』(unknown silence/2021年)

28・2021/9/2 音に「ゆらぎ」や「まよい」があるからこそ生まれる独自の世界
     ・・・『TRIO 2019/Shin-Ichiro Mochizuki』(unknown silence/2021年)

29・2021/9/9 音楽に一分の隙もない革新者の話しをしよう
    ・・・『Not Fusion But True Jazz / Jaco Pastorius Workshop』(sony/2001年)

30・2021/9/16 閉じないハイハットといえば
    ・・・ 『WHIRLWIND/Danny Gottlieb』(Atlantic/1989年)

31・2021/10/14 新たなユートピアはスチールギターと共に
     ・・・『Tone Poems/Charles Lloyd & The Marvels』(blue note/2021年)

32・2021/10/21 たまに酷評
     ・・・『The River / Ketil Bjørnstad』(ecm/1997年)

33・2021/10/28 「まくる」という事 
     ・・・『THE RESTFUL MIND/Larry Coryell』(vanguard/1975年)

34・2021/11/4 影響をうける・・・ということ
     ・・・ 『FUTURES PASSED / David Friedman』(enja/1976年)

35・2021/11/11 新しいものを聞いたと言う気分よりも懐かしいものを聞いた気分
     ・・・『LONELY SHADOWS/Dominik Wania』(ecm/2020年)

36・2021/11/18 個人的ジャズ史の上でのblue hourなアルバム
     ・・・『GARY BURTON & KEITH JARRETT』(Atlantic/1971年)

37・2021/12/2 “暗さ”の奥行きに触れられる贅沢な時間
     ・・・『DARK EYES/Tomasz Stanko』(ecm/2009年)

38・2021/12/9 こんなガーシュイン、聞いた事がないゾ!!
     ・・・『Gershwin Moment/Kirill Gerstein』(myrios/2017年)

39・2021/12/16 “闇”の音のかっこよさ
     ・・・ 『SUSPENDED NIGHT / Tomaz Stanko』(ecm/2004年)

40・2021/12/23 録音の為に、あるいは演奏の為に時間を費やしたものには大いに賛同できる。でも、それ以外には
     ・・・ 『En Attendant / Maecin Wasilewski』(ecm/2021年)



(私的)2020ベスト・アルバム大賞  木曜:Jazz & Classic Library 2020/12/31掲載

middle_1609364121.jpg
『CAIPI/Kart Rosenwinkel』(razdaz/2017年)

このパンデミックな世界でも、音楽を聞く楽しみは失いませんでした。
自分の好きな音楽を、自分の好きな場所で、何度でも再生しながら楽しむ。
今年からはそれに「安全に楽しむ」というワードが加わりました。
1877年にエジソンが音を録音して再生する装置を発明した時から、音楽の文化には演奏会場以外の場所で、好きなだけ再生して楽しむという新ジャンルが加わって20世紀で開花。
現代の音楽文化の一つの起源をそこに持てば、このパンデミックな世界の中でも音楽は着実に残ってゆくのがわかりました。
音楽はいつでも心の支えになるもの。
好みは千差万別。だけど音楽も千差万別。知らない世界へと連れて行ってくれる音楽が見つかれば、不安や憂鬱もたちまち解消。聞くだけで楽しめる娯楽は音楽とラジオだけです。

演奏者であるのに音楽は聞くのが一番好きという矛盾の中に生きる者として、今年も楽しみました。流石に年間に紹介できたアルバムは25作品と例年になく少ないですが、ステイ・ホーム週間で「アートにエールを! 東京プロジェクト」をはじめとする特別な動画の紹介に加えて、自分のアルバムのリリースもあり、音に対してシビアな時間が多かったのもあります。
ともあれ、この、異様な一年の中で、何度も取り出して聞いたアルバムの発表。
世間のヒット・アルバムとは全く無縁です。

もちろん、自分のアルバムがテッペンですが(笑)、その他の中で選ぶとすると・・・・

コレ!

『CAIPI/Kart Rosenwinkel』(razdaz/2017年)

同じくギターリスト、パット・メセニーの新譜と双璧でしたが、第一印象とのギャップの大きさではこちらが圧倒。聞いて楽しめるアルパムの要件には「一度や二度ではわからない、掴みきれない」アルバムほどより愛聴盤となるというジンクスがあります。
その「コレ、ホントに大丈夫?」と聴きながら不安になるぐらい疑りたくなった頃にチラリと出す本音。元々カオスな世界の色が濃いカート・ローゼンウィンケルらしい、仕組みにしてやられました。

そんな2020年に紹介した全アルバムはこちら。

2020/1/9 謎はいつか解明される『GETZ AU GO GO/Stan Getz』(verve/1964年)

2020/1/16 祈るように演奏するのに夢中になって、唸るのを忘れていたのかも『Ruta & Daitya/Keith Jarrett and Jack DeJohnette』(ecm/1971年)

2020/1/23 一つの謎が解けかけたこの録音。それにしてもやはり素晴らしいメロディーメーカー『FOCUS/Stan Getz』(verve/1962年)

2020/1/30 晴れ、時々 ECM『INDICUM/Bobo Stenson』(ecm/2012年)

2020/2/6 両巨匠の楽器間格差は・・・?『STAN GETZ & BILL EVANS』(Verve/1973年)

2020/2/13 Lyle Mays『TRAVELS/PAT METHENY GROUP』(ecm/1983年)

2020/2/20 My Little Ones・・・笛の音だったか!『Concerto Grosso in D Blues/Herbie Mann』(atlantic/1969年)

2020/3/12 主役と脇役『EAST COAST WEST COAST/Toots Thielmans』(bmg/1994年)

2020/3/26 二匹目にドジョウはいなかったけど、一匹目にはしっかりと『The Brasil Project/Toots Thielemans』(rica/1993年)

2020/4/23 ステファン・グラッペリーとキハ181・・・『PARIS ENCOUNTER/Gary Burton & Stephane Grappelli』(Atlantic/1972年)

2020/4/30 大人になってからの青春時代・・・『FROM THIS PLACE/Pat Metheny』(nonesuch/2020年)

2020/5/14 いくつものゲートの先に・・・『Beyond The Forest/鈴木良雄』( friends music/2019年)

2020/5/21 思春期に聴いて人生観を変えられた三つのアルバム(楽曲) - その1Contemporary Music of Japan Vol-7/Toru Takemitsu』

2020/5/28 思春期に聴いて人生観を変えられた3つのアルバム(曲) その2.ポール・ブレイ『OPEN, TO LOVE/Paul Bley』(ecm/1973年)

2020/6/4 思春期に聴いて人生観を変えられた三つのアルバム(曲) 最終回『At the Five Spot volumes one/Eric Dolphy』(prestige/1961年)

2020/6/11 なぜ、当時買わなかったのかが今聞いてもわかる気がする・・・『WEATHER REPORT』(cbs/1971年)

2020/9/3 やはり耳のリセットはこれだな・・・『My Funny Valentine / Miles Davis』(cbs/1964年)

2020/9/10 なんでこの曲知ってるんだろう? ・・・・っあ!!『TENNESSEE FIREBIRD/Gary Burton』(rca/1966年)

2020/10/1 Open Sky. Dave Liebmanという選択『OPEN SKY/Dave Liebman』(trio/1973年)

2020/10/8 Close to Home.『LIVE IN ATLANTA 1981/Lyle Mays Trio』(2020年)

2020/10/15 ちょっと背伸びの記憶・・・『ONE FOR LADY/Kimiko Kasai & Mal Waldron』(victor/1971年)

2020/11/19 Sweet Rainを聴きながら・・・『DUSTER/Gary Burton』(rac/1967年)

2020/12/3 ブラジリアン・ミュージックにこだわりつつ世界の何処にも無いユートピアを作ったな『CAIPI/Kart Rosenwinkel』(razdaz/2017年)

2020/12/17 マイルスの堀を埋める・・・その1『SORCERER/Miles Davis』(cbs/1967年)

2020/12/24 イブだけどマイルスの堀を埋める・・・『NEFERTITI/Miles Davis』(cbs/1968年)

来年もたっくさん音楽を聴きましょう!
音楽は不滅の栄養源です。

コロナに負けず、良い年を !




ベストアルバム大賞2019 木曜:Jazz & Classic Library 2019/12/26掲載

middle_1577298444.jpg
『ROSSLYN/John Taylor』(ecm/2003年)

毎週木曜ブログで紹介したアルバムからその年のベストアルバムを発表する日がやって来ました。あくまでも個人的な趣向の元に、今年の“今”聞きたくなったアルバムからのベストなので、新譜とは限らず、さらにヒットアルバム賞ではない事を最初にお断りしておきます。

今年も聴きも聞いたりで、合計38枚のアルバムを紹介しました。
演奏者が音楽を言葉で表現出来たら面白いと思って始めた木曜日の日替わりメニュー。
他人の音楽をとやかく言うな、という意見もあるかもしれませんが、聴いて楽しむ時は演奏者もリスナーも同じ。意見や感想を述べるのは自然な事。「黙って聞きゃわかるだろ」なんてカッコ付けて言ってみたいもんです。

2019年のベスト・アルバム発表!

第一位

【ROSSLYN/John Taylor(ecm/2003年】
2019/8/29ブログ
『深く、暗く、沈黙と、研ぎ澄まされた音は、究極の美でもある』

1 The Bowl Song
2. How Deep Is the Ocean
3. Between Moons
4. Rosslyn
5. Ma Bel
6. Tramonto
7. Field Day

John Taylor piano
Marc Johnson double-bass
Joey Baron drums
Recorded April 2002 at Rainbow Studio, Oslo.

今年の僕の中ではちょっとしたジョン・テイラー・ブームで、彼の旧譜も含めてCDストックからいろいろ引っ張り出したくなりました。また、リアルタイムでは入手出来なかった幻のアルバム(主にMPS時代)も含めてネットで買い集めて改めでジョン・テイラーというピアニストを感じる時間を持ちました。どこか影のある、それでいて陰湿ではないピアノを弾く今思えば不思議なピアニストでしたが、2015年に盟友ケニー・ホイラーの後を追うように旅立ってしまいました。

その中でもこのアルバムはECMレーベル誕生50周年を記念して今年リイシューされたもので、録音は17年前になります。2000年がつい最近に感じていた我々も、そろそろもう二十年も経っている事に気付き始めています。そんな時に、この2000年が始まった頃にテイラー達が描いていた音楽が実にしっくりと当てはまる空気を今年は何度も感じました。
その後のアルバムと比べても、非常に完成度の高い、僕の中では2019年に聞いたベストアルバムであると同時に、ジョン・テイラーという人の残したアルバムの中でも恐ろしくバランスの取れた作品だと思うのですね。

年末年始の慌ただしさに疲れたら、是非、部屋をダウンライトにして外界を遮断した時間を設けてこのアルバムを聞いてみて下さい。アルバムの紹介時に書いた事そのままです。

・・・沈黙のECMの4秒が過ぎると、まるで不幸の知らせが届いたような一音から始まる。
どうしてこんな音から始まるんだろうと考える間もなく、みるみる内にこの世界に惹き込まれて行く。
凍てついた冬の早朝に、車のエンジンを温めている時に聴いたらさぞや気持良さそうなこの研ぎ澄まされた、沈黙の先から届くような音に、ジョン・テイラーという人の気配を感じる。そのまま祈るように、そして車のエンジンが温まるのと同じように、やがて凍てついた音の細胞の中に温かい血液が巡り始める、
そんな感じで短いパルスを繰り返しながら、徐々に、徐々に、このトリオは目覚め始める。一瞬の眩い光線を放ったかと思いきや、再び沈黙の先に誘うが如き世界に引き戻されて曲は終わる。
1曲め“The Bowl Song”からしてこの有様だ。ここに何を語ろうか。無言の中でこの恍惚とした、実は待ち構えていた世界が広がるのを心の底から喜んでいる自分がいる・・・・

自画自賛ですが、なかなか自分でもよく表した文章だと思うのですね。ただ、これを書いたのが猛暑の夏のおわりだったのもお忘れなく。

ちなみに・・・・

第二位!
【FUSION/Jeremy Steig(ultra-vybe/2019年)】
2019/7/4ブログ
『今夜は横浜で市川秀男さんのライブ! で、ナント最後の二枚のうちの一枚の未発表トラックが・・・』

1. "Home" - 4:39 Originally released on Energy
2. "Cakes" - 4:52 Originally released on Energy
3. "Swamp Carol" - 4:11 Originally released on Energy
4. "Energy" (Hammer, Steig, Don Alias, Gene Perla) - 4:50 Originally released on Energy
5. "Down Stretch" (Hammer) - 4:14 Originally released on Energy
6. "Give Me Some" - 6:47 Originally released on Energy
7. "Come with Me" - 8:02 Originally released on Energy
8. "Dance of the Mind" (Alias, Steig) - 2:22 Originally released on Energy
9. "Up Tempo Thing" - 5:23 Previously unreleased
10."Elephant Hump" - 5:54 Previously unreleased
11."Rock #6" (Hammer) - 3:03 Previously unreleased
12."Slow Blues in G" - 6:33 Previously unreleased
13."Rock #9" (Hammer) - 5:50 Previously unreleased
14."Rock #10" (Hammer) - 4:14 Previously unreleased
15."Something Else" - 7:02 Previously unreleased

Jeremy Steig – flute, alto flute, bass flute, piccolo
Jan Hammer - electric piano, Chinese gong
Gene Perla - electric bass, electric upright bass
Don Alias – drums, congas, clap drums, percussion
Eddie Gómez - electric upright bass (tracks 5 & 7)

Rec : Electric Lady Studios, New York City, NY. 1970.

フルートのジェレミー・スタイグは中学時代のアイドルの一人で、一時期はジャズ・フルーティストも夢見たのだけどやはり鍵盤楽器で育ったのもありヴィブラフォンに落ち着いた。そんなジェレミー・スタイグのアルバムで一番好きでカッコよかったアルバムだけが、CD化されていなかった。紹介時も書いたがこのころにレコードで買って、尚かつCD化されたらいいなぁ、と思う残り三枚の内の一枚が今年リイシューされたのを知ったのは、惜しくも8月で予定よりも早くスタイグ氏の遺作を売りつくし閉じたジェレミーズ・ギャラリー& カフェを運営されていたアサコ夫人からだった。僕らが持っている本アルバムの本来の名称は『Energy』(キャピタル)だったのだけど、CD化リイシューされる時に未発表テイクが加えられてタイトルも変わっていたので気付かずに通り過ぎるところだった。
1970年と言う時点で、この先進性はマイルス・デイビスをも凌ぐ。とにかくステイリッシュでパワフルでまぁ、今聞いてもカッコいいジェレミー・スタイグの最高傑作! 皆、コレを聞いてエナジーを取り戻せ!

第三位
【CATHEXIS/Denny Zeitlin(cbs/1964年)】
2019/11/14ブログ
『これが1964年のデビュー作だというのが信じられないほどコンテンポラリーなピアニスト、デニー・ザイトリン』

1. Repeat Written-By – Zeitlin- 3:17
2. I-Thou Written-By – Zeitlin - 5:55
3. Stonehenge Written-By – Zeitlin - 5:15
4. Soon Written-By – I. Gershwin - G. Gershwin* - 5:12
5. Nica's Tempo Written-By – Gryc* - 5:55
6. Cathexis Written-By – Zeitlin - 2:25
7. 'Round Midnight Written-By – Williams*, Washington*, Monk - 5:35
8. Little Children, Don't Go Near That House Written-By – Zeitlin - 4:02
9. Blue Phoenix Written-By – Zeitlin - 15:26
10. Nica's Dream Written-By – H.Silver*
11. Requiem for Lili Written-By – Zeitlin*

Piano – Denny Zeitlin
Bass – Cecil McBee
Drums – Freddie Waits

Rec @ New York, 1964.

偶然にもジェレミー・スタイグのデビュー・アルバムでピアノを弾いていたデニー・ザイトリンが第三位に。このアルバムはレコード時代には聞く事が出来なくてCD化されて初めて聞けた。
録音は古いが、もしも、これを今のスタジオで録音したら・・・と考えると、もう、物凄い先進性のある音楽に聞こえるだろう。特に“'Round Midnigh”は時代を超越したフレッシュな感覚に驚くだろう。
録音は新しい方がいい、という典型かもしれない。

今年は以下のアルバムを木曜日に紹介しました。

#01.2019/1/10 『Fellini 712/Kenny Clarke/Francy Boland Big Band』(mps/1969年)

#02.2019/1/17 『TO AND FROM THE HEART/Steve Kuhn』(sunnyside/2018年)

#03.2019/2/7 『SIX INTENTIONS/Toshihiro Akamatsu』(2002)

#04.2019/3/14 『The Music In My Head/Michael Franks』(Shanachie/2018)

#05.2019/3/21 『SO EASY TO REMEMBER/Stephane Grappelli』(muzak/1993年)

#06.2019/3/28 『Black Byrd/Donald Byrd』(blue note/1973年)

#07.2019/4/4 『CONVERSATIONS/Hakuei Kim & Xavier Desandre Navarre』(verve/2019年)

#082019/4/11 『EASE IT/Rocky Boyd』(jazz time/1961年)

#09.2019/4/18 『AKISAKILA/Cecil Taylor』(trio/1973年)

#10.2019/5/2 『PIANO FORMS/Bill Evans』(verve/1970年)

#11.2019/5/16 『FREE TO PLAY/Espen Berg Trio』(blue gleam/2019年)

#12.2019/5/30 『at Shelly's Manne-Hole/Bill Evans Trio』(riverside/1963年)

#13.2019/6/6 『COUNTRY ROADS & OTHER PLACE/Gary Burton』(rca/1969年)

#14.2019/6/13 『REVERENCE/Kendrick Scott』(criss cross/2009年)

#15.2019/6/20 『DOWN WITH IT!/Blue Mitchell』(blue note/1966年)

#16.2019/6/27 『CARNEGIE HALL/Dick Schory』(ovation/1970年)

#17.2019/7/4 『FUSION/Jeremy Steig』(ultra-vybe/2019年)

#18.2019/7/11 『SINGS & PLAYS/市原ひかり』(pony caniyon/2019年)

#19.2019/7/25 『A CITY CALLED HEAVEN/Donald Byrd』(landmark/1991年)

#20, #21, #22.2019/8/8 「The Best of Two Worlds」(cbs/1976年), 「ELIS & TOM」(universal/1970年代) & 「JOAO GILBERTO」(verve/1973年)

#23.2019/8/22 『DECIPHER/John Taylor』(mbs/1973年)

#24.2019/8/29 『ROSSLYN/John Taylor』(ecm/2003年)

#25.2019/9/5 『ON THE WAY TO TWO/K.Wheeler J.Taylor』(cam.jazz/2015年)

#26.2019/9/12 『ONDAS/Mike Nock』(ecm/1982年)

#27.2019/9/19 『RUBBERBAND/Miles Davis』(warner/2019年)

#28.2019/10/3 『TIME REMEMBERS ONE TIME ONCE/D. Zeitlin & C.Haden』(ecm/1983年)

#29.2019/10/10 『CLOSE ENCOUNTER/Franco Ambrosetti』(enja/1978年)

#30.2019/10/17 『DREAMS SO REAL/Gary Burton』(ecm/1976年)

#31, #32.2019/10/24 『LOVE ANIMAL/Bob Moses』  &  『RING/Gary Burton』(eco/1974年)

#33.2019/10/31 『ANGEL OF THE PRESENCE/John Taylor』(cam jazz/2005年)

#34.2019/11/7 『BY THE WAY.../Mike Gibbs Orchestra』(ah/1993年)

#35.2019/11/14 『CATHEXIS/Denny Zeitlin』(cbs/1964年)

#36.2019/11/28 『FACING YOU/Keith Jarrett』(ecm/1971年)

#37.2019/12/12 『WHIRLPOOL/John Tayler』(com jazz/2008年)

#38.2019/12/19  『GARY BURTON & KEITH JARRETT』(atlantic/1971年)



平成30年ベスト・アルバム(ここだけの)  木曜:Jazz & Classic Library 2018/12/27掲載

middle_1545858548.jpg
『BOLGE/Espen Berg Trio』(bluegleam/2017年)

今年も木曜日のブログではいろんなアルバムを紹介して来ました。演奏する立場になってから暫くの間はまったくと言っていいほど音楽を聴いて楽しむという余裕も時間もありませんでしたが、やはり音楽は何ものよりもの栄養源。ちょうどネットでブログが始まった頃に始めたのが木曜日に聴き手の耳を失わないように他人のアルバムの事を書くという行為。音で何かを表現する事は容易くとも、テキストでどれだけユーザーに音楽を伝えられるか? という挑戦。2006年の3月からなので現在12年と9ヶ月。新譜紹介ではなく、その時に聞きたいアルバムを紹介しているので重複は若干あるけれど、極力触れていないアルバムと新しく購入したアルバムからのチョイス。そして、年末の最後にその年に聞いて心に残ったアルバムを紹介する。本日がちょうど2018年の“その日”に。

今年は1月11日のドラマー、マーク・ジュリアナの新譜から、先週12月20日のジョン・コルトレーンの新譜ボックス・アルバムまで、31回に30アルバムを紹介しました。(なぜか今年はエリック・ドルフィーのファイブ・スポットのライブ vol-1を2度も紹介しています。よほど恋しかったのでしょうか・・・)

さて、早速発表に!

2018年(平成30年)のBEST ALBUM。

『BOLGE/Espen Berg Trio』(bluegleam/2017年)
→2018/8/30ブログ・・・70年代ECMからメルドーを繋ぐライン上にメセニー、ブレイ、ホイーラー、ステンセンらが聞こえる音場

1. Hounds of Winter
2. Maetrix
3. XIII
4. Bolge
5. Tredje
6. Cadae
7. For Now
8. Bridges
9. Skoddefall
10. Climbing
11. Vandringsmann (Bonus Track)
12. Scarborough Fair (Bonus Track)

Espen Berg (p)
Barour Reinert Poulsen (b)
Simon Olderskog Albertsen (ds)

Rec: @ Rainbow Studio, Oslo, Norway.

エスペン・ベルグの音楽に触れたのは初めてだったけど、その質感、構成、アイデアは21世紀の今らしさに溢れていて頼もしく思った。ジャズという音楽には三つの要素が必要だと思う。
叙情・・・・心情や感情も含めた音楽の後ろに広がる憂いの部分
衝動・・・・刺激、快楽、陶酔を覚える音楽の魔力の部分
技巧・・・・演奏や楽曲から古くささを常に更新して行く部分
これらを全て持ち合わせている音楽とはなかなかお目にかかれない。あるいはついつい自分の感覚に胡座(あぐら)をかいていて“それ”に気付かない自分がいる時もある。しばらく経って気付けばいいが、周りの同世代を見ていると時々それがある時間で止まってしまったかのような発言や行動(僕らの場合は演奏か)を取るのを見掛けて驚愕するときがある。自分の音楽のアンテナがそれに反応しなくなったら成長は終わりだ。エスペン・ベルグの世界は、これが100%のオリジナリティーであるのかどうかは別として、様々に刺激されたものが形を成しつつある「旬」を感じる。このままこれがどのような成果へと結び付いて行くのかは未知数。ただ、今はそれらがいい形で進化中なのをこのアルバムで感じた。録音の定位も久し振りにべースが片側に寄った録音(左側)という70年代のようなサウンドがデジタルの世界で聞こえて来て新鮮。ステレオ感というのが左右から前後に広がってから久しい。いろんな意味で、試みを感じるアルバムに今年は集約してもらおう。

第二位!
middle_1545857524.jpg
『PIOGGIA/中島仁』(blue cloud/2018年)
→2018/12/6ブログ・・・内に秘めた思い

1.Tramonto (R.Towner)
2.North Plants (T.Akamatsu)
3.Yozakura (S.Mochizuki)
4.How Salty is the Ocean (Season1) (S.Mochizuki /arr, T.Akamatsu)
5.Pioggia (H.Nakajima)
6.Kagome (M.Hashimoto)
7.Consolation (K.Wheeler)
8.Crown (T.Akamatsu)
9.How Salty is the Ocean (Season2) (S.Mochizuki)

Bass - Hitoshi Nakajima
Piano - Shin-ichiro Mochizuki
Drums - Manabu Hashimoto

Guest Musician
Vibraphone - Toshihiro Akamatu on track 3,4 & 8.
Trumpet,Flugelhorn - Hikari Ichihara on track 4 & 7.

Rec: Jul/25-26/2018 @ Sound City Setagaya Studio, Setagaya, TOKYO.

誠に手前味噌と感じられたら困ってしまうのだけど、フラットな感覚で今年聞いたアルバムの中で「聞いた後の余韻」からすると、この位置に自然と挙げられる内容だと言い切れる。日本的な、というスクエアな形容は何処にも見当たらない。論より証拠に、バップ系以外の海外アルバムと並べてかけでも違和感はないだろう。かといって、海外のアルバムと何かが違う、という音像がこのアルバム最大の特徴で、そこにTOKYOやOSAKAという国際都市は出て来ないけれど、「信州」という日本で暮らす人が思い浮かべるイメージがぴったり。プロデュースした人間があれこれ言うと洗脳・先導になってしまうのでこれ以上は述べないが、ある意味で中島仁はTOKYOもOSAKAも経ずにワールドワイドな音像を作り上げていると思う。そのお手伝いが出来た事を誇りに思うし、この音像を一人でも多くの人と一緒に共有したいと心から願う。

第三位!
middle_1545856205.jpg
『Songs & Lullabie/Fred Hersch & Norma Winstone』(sunnyside/2003年)
→2018/11/8ブログ・・・やっとこのアルバムを聴く絶好のタイミングに出会った

1 - Longing
2 - Stars
3 - A Wish
4 - Lost In Another Time
5 - Songs And Lullabies
6 - Spirits ※
7 - The Eight Deadly Sin ※
8 - Bird In The Rain
9 - To Music
10 - Song Of Life ※
11 - Invitation To The Dance

Fred Hersch - piano
Norma Winstone - voice
※ Gary Burton - vibraphone

Words by Norma Winstone
Music by Fred Hersch

ピアニストが作曲し、ヴォーカリストが作詞するという、ごく当たり前に他の音楽で行われている事がなぜかジャズでは成果を生みにくくなっている。そんなところに一つの「形」として一石を投じたこのアルバムの試みは見逃せない。「歌は素人でも歌えなきゃ歌じゃない」・・・・そんな閉鎖的な物差しでこのアルバムを見たら、まず大ハズレになるだろう。なぜ素人に歌えなきゃいけないの? カラオケ・ソングと一緒にしていいの? おかしな事。
ヴォーカリストとインスト奏者の間に広がる意識の“溝”をヴォーカリスト自らが埋めて行く明確な一つの“形”がここに結実している。上手いか下手かわからないような自分の歌を引き合いに出さなくとも、ここから飛んで来るメッセージに浸ればいい。「聞く耳を持たぬ」か「ただ単に嫌いなだけ」なのか、のどちらかでしかない理屈は抜きでジャズである事の上にヴォーカリストがどのような“形”でメッセージをリスナーに届けられるのか、聴きながら僕は多いに期待してしまった。

平成30年に木曜ブログで紹介したアルバムは以下の通り。

#01 2018/1/11ブログ『JERSEY/Mark Guiliana』(agate/2017年)
・・・これは「野暮ったい」という言葉の意味を変えてしまう方程式が存分に楽しめる世界

#02 2018/1/18ブログ『FLOW/Terence Blanchard』(bluenote/2005年)
・・・やりたい事をやりたいようにさせる事が最高のアンサンブルへと繋がるのを知っている者だけが持つ「緩さ」 

#03 2018/2/1ブログ『CAPTAIN MARVEL/Stan Getz』(columbia/1972年)
・・・“Times Lie”をめぐる一日・・・

#04 2018/2/8ブログ『LATER THAT EVENING/Eberhard Weber』(ecm/1982年)
・・・英語圏(歌)ではなかったから生れた? ECMブランドのインストルメンタル的な発想

#05 2018/2/15ブログ『SILENT FEET/Eberhard Weber』(ecm/1978年)
・・・行きも帰りもECM・・・

#06 2018/2/22ブログ『LIVE AT NEWPORT 1964/Stan Getz』(solitude/2014年)
・・・I waited for you を巡る攻防?

#07 2018/3/1ブログ『FLUID RUSTLE/Eberhard Weber』(ecm/1979年)
・・・春めいた音を聴きたくて・・・

#08 2018/3/8ブログ『GOODBYE/Bobo Stenson』(ecm/2004年)
・・・なれのはて・・・

#09 2018/3/15ブログ『JAZZ TRIO/Gordon Beck』(dire/1972年)
・・・まっしぐらな音の集合体に目を見張る思いがするアルバム

#10 2018/3/29ブログ『ZEITGEIST/Denny Zeitlin』(columbia/1967年)
・・・“くたぶれた”おじさんの新譜よりも、半世紀前の国内未発売アルバムだなぁ・・

#11 2018/4/12ブログ『MILES DAVIS GREATEST HITS』(CBSソ二-/1968年)
・・・恥ずかしさもジャズのうち?

#12 2018/4/19ブログ『ENERGY/Jeremy Steig』(capitol/1971年)
・・・ひょっとしたら名(迷)フルーティストだったかも!?

#13 2018/4/26ブログ『For Evans Sake/GORDON BEAK』(jms/1992年)
・・・凄技師の美学・音は外面ではなく内面のコピーから始まる

#14 2018/5/3ブログブログ『TANGENTS/Gary Peacock』(ecm/2017年)
・・・たぶんこれは時差のようなものかもしれないが・・・

#15 2018/5/17ブログ『OFFRAMP/Pat Metheny Group』(ecm/1982年)
・・・順序を入れ替えてみたら・・・

#16 2018/5/24ブログ『ERIC DOLPHY AT THE FIVE SPOT_vol-1』(prestige/1961年)
・・・まことに勝手ではありますが、これは個人的に青春の1ページのようなアルバム

#17 2018/6/21ブログ『It's Another Day/Gary Burton & Rebbecca Parris』(grp/1994年)
・・・It's Another Day・・・

#18 2018/6/28ブログ『SYMPHONY HALL, BIRMINGHAM 1991/Mike Gibbs Band』(dusk/2018年)
・・・今の時代に、このタイトさは、あるか・・・・?

#19 2018/7/5ブログ『JOHN COLTRANE BOTH DIRECTIONS AT ONCE; THE LOST ALBUM』(verve/2018年)
・・・聴きながらやや複雑な心境 

#20 2018/7/19ブログ『IN A SILENT WAY/Miles Davis』(cbs/1969年)
・・・ずっとコレは買った気でいたけど、ジャズ友のを借りて聞いてただけだったのに、今頃気付いたんだ 

#21 2018/8/30ブログ『BOLGE/Espen Berg Trio』(bluegleam/2017年)
・・・70年代ECMからメルドーを繋ぐライン上にメセニー、ブレイ、ホイーラー、ステンセンらが聞こえる音場

#22 2018/9/27ブログ『Woods Notes/ Phil Woods & His European Rhythm Machine』
・・・バップ・イディオムを超えられた経験者

#23 2018/10/4ブログ『FLORESTA CANTO/Phil Woods』(rca/1975年)
・・・続 バップ・イディオムを超えられた経験者

#24 2018/10/11ブログ『AT THE FIVE SPOT VOL.1/Eric Dolphy』(prestige/1961年)
・・・コーヒーゼリーとエリック・ドルフィー

#25 2018/10/25ブログ『WHERE WOULD I BE?/Jim Hall』(milestone/1972年)
・・・体感的に“秋”の気配を感じて聞く一枚

#26 2018/11/8ブログ『Songs & Lullabie/Fred Hersch & Norma Winstone』(sunnyside/2003年)
・・・やっとこのアルバムを聴く絶好のタイミングに出会った

#27 2018/11/15ブログ『FESTIVAL 69/Michael Gibbs with Gary Burton Quartet』(cherry red//2018年)
・・・69はターニングポイントの数字

#28 2018/11/22ブログ『BRASIL/Joao Gilberto』(philips/1981年)
・・・続・秋だから、歌のこと・・・

#29 2018/11/29ブログ『VELVET SOUL/Carmen McRae』(ioda/2005年)
・・・秋の最後に、歌のこと・・・

#30 2018/12/6ブログ『PIOGGIA/中島仁』(blue cloud/2018年)
・・・内に秘めた思い・・・

#31 2018/12/20ブログ『1963: New Directions / John Coltrane』(verve/2018年)
・・・手の届くところにあるイノベーション




私的! 2015年ベスト・レコメンドアルバム 木曜:Jazz & Classic Library 2015/12/24掲載

middle_1450972601.jpg
『STAR OF JUPITER/Kurt Rosenwinkel』(song x/2012年)

三年前の作品ながら今日のジャズを代表するサウンドメーカーとなったカート・ローゼンウィンケルの二枚組。最初は、なんとチープなサウンドだろうか、と思って聴く内にどんどん惹きこまれる。リッチなサウンドに慣れ過ぎた現代のジャズを、シンプルでとてもスモールなアンサンブルに回帰させつつ、なお個々のサウンドに重点を置くと言う方針は大いに共感出来る。飾りが多くなったジャズというガウンを、一旦ここらで脱ぎ捨てて、本来の聴衆とパワーをぶつけ合える音楽へとリセットしているところが今の時代にピッタリだと思う。

2015年ベスト・レコメンド
『STAR OF JUPITER/Kurt Rosenwinkel』(song x/2012年)

Disc 1:
1. Gamma Band (Kurt Rosenwinkel)
2. Welcome Home (Rosenwinkel)
3. Something, Sometime (Rosenwinkel)
4. Mr. Hope (Rosenwinkel)
5. Heavenly Bodies (Rosenwinkel)
6. Homage A'Mitch (Rosenwinkel)

Disc 2:
1. Spirit Kiss (Rosenwinkel)
2. kurt1 (Rosenwinkel)
3. Under It All (Rosenwinkel)
4. A Shifting Design (Rosenwinkel)
5. Deja Vu (Rosenwinkel)
6. Star of Jupiter (Rosenwinkel)

Kurt Rosenwinkel - guitar and vocals
Aaron Parks - piano
Eric Revis - bass
Justin Faulkner - drums

Recorded /Mar/6-9/2012

カート・ローゼンウィンケルの面白さは、その音楽の内向性にある。
ボルテージが上がるとどんどん外へ、外へと向かう人が多い中、彼はどんどん内へ、内へと向かうように聞こえる。

まぁ、単純に言ってはいけないのかもしれないが、同じギターでもパット・メセニーとはまったく逆方向を向いている。音楽の高揚という点に於いては。

そんなカート・ローゼンウィンケルの二枚組。
ギター・フリークでもない僕には、こりゃ、なかなか聴き通すには度胸がいるかも・・・・

Discはちゃんと1から順よく聴きます。

いきなりはじまった五拍子で普段よりもロック魂に燃えた気な演奏にちょっと及び腰。
アルバムというのは何か新しい試みを入れるシーンも必要で、特に1曲目となるとそういう曲を配置する場合が多いのだけど、何もここまでやらなくても・・・・というまったく個人的な感想なのだけど、どうにも無理している感じがなんとも。。

二曲目になって、っお、いいねぇ。カート・ローゼンウィンケルとしてのメロウ・サウンドだな、これは。この、もどかしいほどの“いなたい”感じがいい。そして、いつものように、ああ、そこに行ってこっちに戻って来るわけね、的に展開の予測が立ちはじめた。

ゴキゲンな三曲目はイントロからして、この人の怪しい内向的な世界の扉を開けるようでいい。曲としてのボリュームも、展開もジャズとして申し分なし!! こういう世界、大好きだ。

コンテンポラリー・バップとでも形容したくなる四曲目、そしてまるでファラオ・サンダースでも出て来そうな五曲目のスピリチュアルなピアノのイントロに導かれて、この世界の中の小さな美に到達する。そんな感じがいい。やがてゆったりとこの美の世界を延長しつつ閉じる。

このアルバムで最も気持ちのいい瞬間に突入する六曲目。ラテン・フレーバーとストレート・アヘッドなジャズが漂いつつ妖艶な世界はカート・ローゼンウィンケルお得意のものだ。曲としてもバランスが良く、このメロディーで冒頭のテーマに戻す辺りに、この人の偶発性をも自分の世界に引き込むセンスを感じる。面白いのが、このスタンダード・サイズ、スタンダード・フォームの曲の中だと、いつもの内向性は影を潜め、果敢に外へ、外へと大胆にアプローチして行くところだ。この人のルーツ的なジャズが現れて、つい我を忘れているのかもしれない。

Disc2

ここで一日空きました。と、言うのもDisc1をもう一度聴き返す内に楽しくなってきたからです。
さて、二枚目。

今回はそれぞれのディスクの最初の曲に注目していました。一枚目は変拍子、つまり変化球に逃げた感じでしたが、こちらのディスクの一曲目はガッツリと聴き応えあり。
ヴォイスとハーモナイザーを駆使して独自の内向的な世界を見事にあぶり出してくれます。
そう、この人の場合、炙り出すんですね。

二曲目は60年代っぽいモードで迫ります。先を読みながら楽しむ派としてはなかなか面白いのですが、もう一つ展開がほしい感じは残ります。でも不思議な事にこうなるとパット・メセニーの世界に近くなるのですね。ギターがモードにアプローチする時の一つの印象としてパット・メセニーのインパクトは計り知れないものがあるようです。

バラードの三曲目はソロでスタート。ヴォイスも駆使した表現は妖艶で、そしてこれまた不思議な事に、やはりこういうシンプルな曲になるとパット・メセニーなのですね。
ギターと言う楽器は内向的なのでしょうか、素の部分になると、皆、同じ世界が見えて来ます。曲としてそれをどのように処理するかがこういう曲の聴きどころなんですね。

ストレート・アヘッドなオリジナル・ジャズの四曲目、この上なく美しいピアノのイントロから導入されるリリカルなワルツの五曲目。この二つもジャズの曲として理想的なサイズとボリュームで出来上がっていてソロが毎回楽しみになりそう。

アルバム冒頭のDisc1の一曲目と対を成すようなラストのStar of Jupiter。
そうか、これがアルバムのタイトル・チューンだ。
そんな事を思わせてくれるような、カート・ローゼンウィンケルとしては大作の部類に入るもの。冒頭の曲とこの曲だけが二枚のアルバムの中で異次元と言えばいえる。
ただ、思うのは、この表現は何処かで記憶があると思ったら、やはりパット・メセニーの世界。
そう、外へ、外へ、と音楽(曲)が向かうと、どうしてもメセニーの世界が見えてしまう。
悪いとは思わないが、これだけ内向的にグッと来る音楽を奏でられるギターリストは近年稀なので、どうかその内向性を維持したままに外へと向かってほしいなぁ。

僕の知る限り、ブラッド・メルドーとカート・ローゼンウィンケルの持つ内向的な魅力は双璧ですから。

一つの楽器だけを聞いていると「それ、本当に楽しんでいる?」という疑問に駆られます。自分が好きな楽器は一つではありませんから。特にジャズのように表現の自由な音楽は、それぞれの楽器の「楽しみ処」がいろいろあって、それを発見する度に、自分の楽しみ方がどんどん増えるのです。他の楽器の「楽しみ」を知る事で、自分がその楽器と一緒に演奏する時にどのポジションに立てば楽しみを共有できるのかがわかります。知らない人を一つ知る毎に。

僕はそれで自分の聴く耳が生きているか、死んでしまったのかを毎回確認しています。
聴いても何も感じなくなったら、もう自分で音を出す気持ちも失せているでしょうから。
まだ今週も僕は死んでないゾ! と書き綴った音楽へ、奏者へのリスペクト・リポートなんです。

「ジャズを習いたい」と思ったら、好きな曲の一つや二つは丸暗記してなきゃダメですよ。
でも、好きなんだけど、何から聞いていいのかわからない、という人が今は多いのも事実。
昔ならそういう時はレコード店のジャズ売り場に詳しい人や、多少うんちくがウザいけど我慢すれば時々役に立つ情報も得られるジャズ喫茶の頑固マスターがいたが、今はもう何も根拠なしの言い放題、書き放題だから、そこからまともな情報を得るのは難しいかも。

取りあえず人前で音を出す生業の一人がどんなものを聞いているのかなら、少しは興味の入口として説得力があるかと思って2006年の四月に始めて来年の春で十年。年間約40タイトルとしても400タイトルくらいは紹介した事になります。
少しは参考になるでしょう。(笑)


今年ここ(木曜ブログ)で紹介したアルバムは以下の40タイトル。

2015/1/8  
『THE JAZZ COMPOSER'S ORCHESTRA UPDATE/Michal Mantler』(ecm/2013年)

2015/1/15 
『THE NOW/Aaron Goldberg』(sunnyside/2014年)

2015/1/22 
『24/増尾好秋』(sony/1970年)

2015/1/29 
『STAR OF JUPITER/Kurt Rosenwinkel』(song x/2012年)

2015/2/5  
『HEY LOOK AT YOU/Joe Lee Wilson』(east wind/1976年)

2015/2/12 
『SERIOUS FUN/George Gruntz』(enja/1989年)

2015/2/19 
『LOVE FOR SALE/The Great Jazz Trio』(east wind/1976年)

2015/2/26 
『GOOD VIBES/Gary Burton』(atlantic/1970年)

2015/3/12 
『SONGS FOR QUINTET/Kenny Wheeler』(ecm/2015)

2015/3/19 
『ENCORE/Eberhard Weber』(ecm/2015)

2015/3/26 
『THE ART OF TEA/Michael Franks』(warner/1975年)

2015/4/2  
『HEART TO HEART/David Sanborn』(warner bros/1978年)

2015/4/9  
『TALISMAN/Mike Nock』(enja/1978年)

2015/4/30 
『SCRATCH/The Crusaders』(mca/1974年)

2015/5/14 
『SOMETHING'S COMMING!/Gary Burton』(rca/1963年)

2015/5/21 
『LIFE BETWEEN THE EXIT SIGNS/Keith Jarrett』(Vortex/1967年)

2015/5/28 
『LIVE! / Terumasa Hino Quintet』(Three Blind Mice/1973年)

2015/6/4  
『GARY BURTON QUARTET LIVE AT NEWPORT '67』(2015 JAZZ IT UP)

2015/6/11 
『The 21st Century Trad Band/Jason Marsalis Vibes Quartet』(basin street/2014年)

2015/6/18 
『LYLE MAYS/Lyle Mays』(geffen/1986年)

2015/6/25 
『AZNAR CANTA BRASIL/Pedro Aznar』(tabriz/2005年)

2015/7/2  
『MASABUMI KIKUCHI & GIL EVANS』(universal/2015年)1972年録音

2015/7/9  
『QUICK STEP/Kenny Barron』(enja/1991年)

2015/7/16 
『SEQUOIA SONG/Bob Degen』(enja/1976年)

2015/7/23 
『Kenny Barron & The Brazilian Knights』(sunnyside/2013年)

2015/7/30 
『LOOK UP THE NIGHT SKY/Hiroyuki Miyashita』(original cd/2014年)

2015/8/13 
『WILD MAN DANCE/Charles Lloyd』(bluenote/2015年)

2015/8/27 
『THE NEW TANGO/Astor Piaxxolla & Gary Burton』(atlantic/1987年)

2015/9/3  
『FILLES DE KILIMANJARO/Miles Davis』(cbs/1969年)

2015/9/10 
『THRUST/Herbie Hancock』(cbs/1974年)

2015/9/17 
『HOMMAGE A EBERHARD WEBER』(ecm/2015年)

2015/10/1 
『WITH A HEART IN MY SONG/A. Holdsworth & G. Beck』(jms/1988年)

2015/10/8  
『WHERE WOULD I BE?/Jim Hall』(milestone/1971年)

2015/10/29 
『SPACES REVISITED/Larry Coryell』(shanachie/1997年)

2015/11/12 
『Super Analog Sound of three blind mice』(tbm/2004年)

2015/11/19 
『太古の海鳴り/Yoshimi Ueno His Best Friends』(johny's disk/1980年)

2015/11/26 
『ALL ALONE/Mal Waldron』(globe/1966年)

2015/12/3  
『CORYELL/Larry Coryell』(vanguard/1969年)

2015/12/10 
『PIANO SOLOS/Mike Nock』(timeless/1980年)

2015/12/17 
『MY SPANISH HEART/Chick Corea』(polydor/1976年)

毎週木曜日は今聴いてみたくなったアルバムを紹介しています。特に前の週から準備しているわけでもなく、21世紀に暮らしていて、今夜はコレ聞いてみようかな~、程度で聞き始めて思うままに書いたものですから、流行りも廃れもありません。もちろん取り上げるのは「聞きたい」と思う気持ちが沸くものですから、どれも間違いはありません。

初めて年間のアルバムを一まとめにしてみましたが、こうやって見ると面白いですね、最も多く紹介しているのは1970年代の作品で続いて2010年代。この二つの時代で軽く過半数を超えています。
その次に1960年代と80年代が多く、90年代と2000年代は少数。
これも面白いのですが1950年代や40年代の作品は皆無です。
今年はこういう気分で音を楽しんでいたという事でしょうか。リイシューがどれだけジャズのチャートには多いのか、という証でもあります。そのリイシューの中心が40年代、50年代、60年代が出尽くして、ついに70年代に突入し今後80年代に向かう兆候も読み取れます。ただし、80年代は半ばからCDが普及したのでこれまでのようなリイシューでは売れない事も予測できますね。

それと、僕は自分が生まれて物心がついて音楽として音を「いいもんだ」と感じた時間以降のものがやはり好きなようです。1960年以降の音がまさに自分の育った音なのでしょうね。



番外編 : 2014年、一番グッときた「曲」は!!  木曜:Jazz & Classic Library 2014/12/25掲載

middle_1419546116.jpg
『Kin (←→)/Pat Metheny Unity Group』(nonesuch/2014年)

年間のベストアルバムを発表する切っ掛けとなったのがこの年(2014年)の木曜ブログの総括でした。
アルバムというよりも「1曲」に絞っていたのですね。

ジャズを演奏する立場になって早・・・・34年でしょうか。
生業としてからですから、それまではリスナーとしての小中学時代、音楽の道を進みだした高校・大学の時代があるわけで、「ジャズを楽しむ」という観点は僕の場合ずっとこの時代の感覚を演奏者の自分とは常に違う位置で更新して来ました。
だから基本は小学生の耳のままです。
ただし、知識は中学で平均的な大学の耳、高校で大人の耳でしょうか。
自分が気に入ったモノならトコトン。曲の裏側、演奏者のその瞬間の心理まで聴き取れます。
もちろんその「聴き取り」に至るには、自分の演奏経験が無ければ「聞こえてこない」ものなのですが・・・


1419550804.jpg
2009年夏、東京ブルーノートの楽屋にて。師匠ゲイリー・バートン氏にパット・メセニー氏を紹介された時の記念ショット


今の時代、CDをアルバムというパッケージで売るのが大変な時代になりました。
「大変だねぇ」「大変ですよー」
我々の周りもこの言葉が日夜溢れています。
もちろんそれは否定しません。
ただ、
僕は個人的に思うのですが、自分がリスナーだった時代を回想すると、一つのアルバムの全曲を何度も繰り返し頭の中の記憶メディアで再生していたかというと、それはちょっと違います。
アルバムの中の、ある特定の、「お気に入り」の曲ばかりがある時期、何度も、何度も繰り返し流れていたのです。

そう、それは、今のダウンロードして音楽を手に入れる手法となんら変わりがないのです。
ただ、大きく違う点は、僕らはパッケージという1セットの中で「いい曲」「まぁ、普通の曲」「これはパスかな」というセレクターを常に働かせて、自分に最良のものを見つける能力が備わっていました。
しかし、現在のダウンロード環境には「試聴」なんてジャズやインストでは何の意味も無い秒数のセレクターしかありませんから能力なんかに結び付きません。45秒でインストの何がわかるというのでしょうね。聞こえただけに過ぎません。

また、僕らは一度セレクターを通して「まあまあな曲」とか「これはパスな曲」として再生リストの隅っこに追いやっていた曲が、ある日突然自分の中の心の化学反応を経て「やみつき」の曲に変身するのも知っています。音楽が一生の生業に出来そうだと感じた時はそれを何度も経験した後でした。
だから、音楽を“捨てる”事がない。

ダウンロードで一曲しか買わない人は「これはいい」「お薦め!」みたいな文言に簡単に釣られてしまうのです。こんなに便利な時代なのに、他になにがあるのかを知らない人がどんどん増えているのです。

昔、「広く、浅く」がいい、みたいな教育を受けそうになった時、心の中で怒りが込み上げて来ました。
そんな事じゃ、まともなものを何一つ身に付けられんゾ、と。
専門職は「狭く、深く」だ。そういう人間がいないと、「聴き齧り」の人間だけが残って、やがて文化は滅びる。
誰も物事に対して責任を取れないからだ。

「何がいいか」「どこがどうお薦めなのか」が書かれた明確なポップなんてあまり見た事がありません。
知らないのです、それを書いている側もね。
音楽を言葉にするならちゃんと勉強したほうがいいよ、というものもネットの中には溢れていますから。

最近ジャズはリイシュー盤の全盛期ですがそのようなシリーズを買うと、たまに音楽ライターを生業にしている風な人達の書いているライナーにも間違いや思いこみが見られたりします。
その本人にとっては「悪意」ではない間違いなので平気なのかもしれませんが、僕ら音を出す側だと自分の発した音の全てに全責任が及ぶので「あり得ない」話しなのです。

リスペクト。
自分達の関わるものに対するリスペクトが足りないのです。
これがほぼ完璧だったはずの「世界」と、あやふやな「世界」の境目が見え無くならないように願うのみ。

さて、そんな時代の中でも僕らは発言をやめません。
自らの音楽については当たり前ですが、周りに存在する音楽に対しても、日々感動したり幻滅したり。

音楽というものは、それを各自が自由に楽しめる「虚像の世界の娯楽」です。どんな国でも、どんな環境でも等しく音は流れているのですから。

2014年という時間をどのように感じたのか、という事も、たぶん後に振り替えると、「ああ、こんな心理だったのか」と思い出せるような音楽、曲、が自分の記憶の中に残っているのでしょう。

前置きが長くなりましたが、


それでは、ドラムロール(のつもり!)
/////////////////////////////////////////

2014年、個人的に一番“グッ”と来た曲は!!!

middle_1418246450.jpg
『Kin (←→)/Pat Metheny Unity Group』(nonesuch/2014年)

1 On Day One 15:15
2 Rise Up 11:56
3 Adagia 2:14
4 Sign of the Season 10:14
5 Kin (←→) 11:02
6 Born 7:51
7 Genealogy 0:38
8 We Go On 5:32
9 Kqu 5:27

Pat Metheny - electric and acoustic guitars, guitar synth, electronics, orchestrionics, synths
Chris Potter - tenor sax, bass clarinet, soprano sax, clarinet, alto flute, bass flute
Antonio Sanchez - drums and cajon
Ben Williams - acoustic and electric basses
Giulio Carmassi - piano, trumpet, trombone, french horn, cello, vibes, clarinet, flute, recorder, alto sax, wurlitzer, whistling and vocals

Recorded June 2013 at MSR Studios, New York, NY.

このアルバムの中の・・・

“4. Sign of the Season”

このアルバムを紹介した時のブログは僕の周りのミュージシャンや音楽業界の人の間でも話題になりました。会う人毎に、「読んだ、読んだ!」「見た、見た!」と声をかけられました。どの本にも書いていないけれど、大半の音楽人が思いあたる事を具体的に述べたようでした。

『壮大過ぎて・・・。彼等はもっと小さな世界の中に生きているようだ。 木曜:Jazz & Classic Library』http://sun.ap.teacup.com/vibstation/2466.html

このアルバムは久し振りにパット・メセニーの音楽を2014年という時代に認識する事ができたものでした。
今の若いジャズファンが「壮大過ぎて」イマいちピンと来ない印象を持っている部分を少しだけ緩和出来るような気がするのがこの曲でした。

パット・メセニー・グループというものをかつて聴いていた人達はいつ頃のメセニーでしょうか。
僕はパット・メセニーの存在は師匠のゲイリー・バートンのECM時代のアルバムを通じて74年頃からありましたが、80年代になって「パット・メセニー・グループ」が“そんなに大きな人気”を博しているとは最初気が付いていませんでした。

切っ掛けは当時の大学生から聞かせてもらったテープの「思い出のサン・ロレンツォ」でした。もちろんパット・メセニーは知ってるよ、という僕の会話と僕がゲイリー・バートンみたいな事をやっているヴァイビストという認識が相手にあったからでしょう。
車で(確か武蔵美の学祭に出演で向かう時だったか、案内役として乗り込んで来た実行委員の女性だった)彼女が取り出したテープを流した途端に聞こえて来たサウンドに感心した。
と、いうのも、当時はフュージョン・ブーム真っただ中で、(申し訳ないけれど・・・)何の情緒も無いスクエアなリズムを繰り返すだけでハーモニー的な感動の薄いメロディーとリズムばかりが目立つ時代だった。そんな中で聞こえて来たパット・メセニー・グループの音楽には思わず「親近感」。ハーモニーとしての音楽の楽しさがどの部分にも存在しているのだ。こんな音楽を若い(自分も二十代前半で大差なかったのだけど)人が好むなんて、ちょっといいじゃない、と。大変失礼ながら・・・「この、ちょっとハービー・ハンコックが崩れたようなピアノ、イカしてる(ライル・メイズの事)」とか(笑)

そんなこんなで僕のパット・メセニー・グループ歴は途中から始まっていたので一端過去のアルバムを集めた上で耳は時代に追いついた。

そして今でも忘れられないのはボストンに行ってから、半年後にボストン市内のアパートから郊外の一軒家に引っ越す事になった。その引っ越しの朝に頭の中を何度も、何度も、発売されたばかりの『STILL Life (taking)』がリピートするのだ。黄色いBugetのレンタカーにシェアする人数分の家財道具と楽器を積んで緑溢れる郊外の住宅地へと向かった時だ。
たぶん、この郊外の家に住んでいた二年半の間が僕のパット・メセニー・グループとの一番の接近遭遇だったのだろう。
ただ、パット・メセニーの音楽で昔も今も変わらず共感するのが彼等のハーモニーの組合せを楽しむ曲作りだ。

古くは大ヒットした“Phase Dance”や“San Lorenzo”、次のステップへの先駆けとなった“Are You Going With Me?”僕のパット・メセニー・エイジの“(IT'S JUST)TALK”、“5-5-7”、90年代の“Here to Stay”など、これらのパット・メセニーの音楽はハーモニーに主導権があり、どの曲にも考えられたオスティナートが存在して、それが全体の暗いサウンドをただ暗くせず迫力付けしているのが面白かった。

その後のアルバムではその部分がなりを潜め、「どうしちゃったんだろう」と思っている内にどんどん時代も自分も変わって行ったので、ついぞパット・メセニーの音楽に時代を感じる事が無くなっていた。

そこで、今年、このアルバムを“そんなに期待しないで”聴いてみたら、、、、

やっぱり、あるじゃないの~^v^

最初のDのオスティナートが聞こえてきた瞬間から、「ああ、やっと戻って来たんだ」と。
そう、このDペダルに集まるハーモニーをオスティナートで串刺しにした、この曲の中にこそ、僕はパット・メセニーの音楽、また、それはあの初めて「思い出のサン・ロレンツォ」を聞いた80年代からずーっと続いていたこの人達の音楽の現在進行形をはっきりと認識した。

“グッ”と来た曲。

それはリスナーとしての自分はもちろん、この曲を流しながら一緒に楽器を奏でたくなるハーモニー的な趣向が一致する演奏者としての自分もいる。

この二人の自分が、わくわくしながら「次はこのコードでしょう」「そう来たらコッチでしょう」「そう来ましたか」と曲を聴き進められる曲。一度も立ち止まる事なく、ストレスもなく、そしてパット・メセニーらしい。

と、いう事で、2014年の一番“グッ”と来たこの“Sign of the Season”を

2014年のわたくし的イチオシGOOD!
と、させていただきます!


ちなみに・・・「壮大過ぎて・・・。彼等はもっと小さな世界の中に生きているようだ。木曜:Jazz & Classic Library 2014/12/11掲載」とは?middle_1419546116.jpg

『Kin (←→)/Pat Metheny Unity Group』(nonesuch/2014年)

原文のままブログから引用・・・

2014/12/11
壮大過ぎて・・・。彼等はもっと小さな世界の中に生きているようだ。  木曜:Jazz & Classic Library

風邪が猛威をふるっているようなのでみなさんお気を付け下さいね。

昨日は寝台特急で東京に戻り午後からのスケジュールを順調にこなす内に夜となり、猛烈な睡魔に襲われて早めの就寝。その間、ネットもメールチェクもパスしていた。

午前3時半に起きてゴソゴソ。
何を真夜中にゴソゴソしていたかと言えば、ラジオ番組の収録で一週目の一時間は新しいアルバム『Majestic Colors』の特集でこれは準備する必要なし。問題は二週目に流す選曲で、僕が参加しているレコーディングものからいくつかセレクトしてほしいという“お題”。
そういうのは嫌いじゃないから(笑)、取りあえず目に付いた参加アルバムを並べてその中でさらにヴィブラフォンのソロで参加したアルバムに寄り分けていたのだけど、仕事柄ポップス系のアーチストのアルバムの絶対数のほうが多い。当たり前と言えば当たり前だけど、そうなると出演する番組はJAZZの番組なので、そこからさらに絞り込んで・・・・

middle_1418245436.jpg

なかなかこれが骨の折れる作業に。
なんだかんだで6~7枚に絞り込めて、よし、と作業完了と共にネットを見たら・・・

あらら、明日のラジオ収録のメインキャスターさんが大風邪でダウンとな!
これは大変、僕らと違ってDJは声が命。
もちろん順延に承諾。
どうかお大事に。
こちらは後日スケジュールを調整すればいいだけだから無理をする必要はない。

と、言う事でラジオの収録が一本飛んだので、ちょっと余裕で木曜ブログの更新に。
実は夜型の僕は午前11時からの収録にちょっとビビっていたのだ(笑)
しかも、そこしかスケジュールが出せなかったのはコチラなので責任重大とかなりドキドキだったのだ。
ふうーっ。

middle_1419546116.jpg
『Kin (←→)/Pat Metheny Unity Group』(nonesuch/2014年)

1 On Day One 15:15
2 Rise Up 11:56
3 Adagia 2:14
4 Sign of the Season 10:14
5 Kin (←→) 11:02
6 Born 7:51
7 Genealogy 0:38
8 We Go On 5:32
9 Kqu 5:27

Pat Metheny - electric and acoustic guitars, guitar synth, electronics, orchestrionics, synths
Chris Potter - tenor sax, bass clarinet, soprano sax, clarinet, alto flute, bass flute
Antonio Sanchez - drums and cajon
Ben Williams - acoustic and electric basses
Giulio Carmassi - piano, trumpet, trombone, french horn, cello, vibes, clarinet, flute, recorder, alto sax, wurlitzer, whistling and vocals

Recorded June 2013 at MSR Studios, New York, NY.

実は今の二十代くらいのジャズ好きの人に聞くと、パット・メセニーは名前こそ知っているものの、その音楽は“イマイチ”ピンとこないらしい。
へぇ~、と思ったが、かくいう僕もこの十年間くらいのパット・メセニーの音楽をディグしていたかと言うとそうでもない。

若い彼等にすれば、パット・メセニーの音楽はあまりにも壮大過ぎで実感が湧かないのだそうだ。だから映画音楽が流れて来た時のような耳になってしまうらしい。
ある意味、それはよくわかる。

かつてパット・メセニーのファンだった40代~60代の層の人でも、最近のパット・メセニーにはちょっと御無沙汰だなぁ。。という人はたくさんいる。

たぶん、かなりのギターフリーク、熱狂的なパット・メセニー・ファン、その辺りの人を除くと大半のかつてのファンは僕と同じような感触を持っているんじゃないかと、思う。

初期の『WATERCOLORS』(ecm/1977年)、バンドの路線が決定的になった『OFFRAMP』(ecm/1982年)、不動の人気を伝えた『TRAVELS』(ecm/1983年)、アメリカから飛び出してワールドワイドな音楽を奏で始め決定的な人気を集めた『STILL LIFE (talking)』(geffen/1987年)や『LETTER FROM HOME』(同/1989年)、マービン・ゲイへのトリビュートなど心機一転で注目された『WE LIVE HERE』(同/1995年)。
この後パット・メセニー・グループ名義のアルバムは何枚も買ったのだけど、パッと頭の中に出て来る印象深い曲がない。
それがない事にはアルバムのタイトルも思い浮かばないのだ。

時代との整合性はその時代のミュージシャンが奏でるレパートリーを見ればわかる。
「WATERCOLORS」では“Watercolors”や“Lakes”、「OFFRAMP」では“James”、「TRAVELS」では“Goodbye”や“Farmer's Trust”、「LETTER FROM HOME」では“Better Days Ahead”・・・と言った具合にその時代、その時代に、東京の街の中だけでもこれらの曲は毎夜どこかのライブハウスで誰かが演奏していた。
それはチック・コリアの“Spain”に匹敵するほどのヒット曲だった。

それがこの十年のアルバムからは一つも出ない。

もうパット・メセニーという音楽は時代から外れてしまったのだろうか。

その要因のひとつは今の若い世代のジャズファンの意見に象徴されるかもしれない。

壮大過ぎる。

パット・メセニーの音楽を大いに吸収していた僕らでさえ思うのが、全盛期の80年代とは時代も感覚も大きく変わってしまったという事。
音楽だけの要因ではなく、例えば9・11のような事件や、3・11のような天変地異を経験してしまった僕らは、昔のように手放しで何でも受け入れられる感覚ではなくなってしまった。
また、時代もマスメディアもどんどんマクロ化して行き、大きな意味での「括り」と「価値観の共有」が無くなり、とても「小さな事」が身の周りに氾濫する時代になってしまった。
その大半はどうでもいい事。それに振り回される。
「既読」に振り回されるようなものが出回る始末。どんどん人間が小さく、せっかちにされて行く。

だからとても昔のように、遠くを見つめながら生きられる環境ではなくなったのだ。

音楽には何の罪もないが、音楽は時代の写し鏡であるので、この流れには誰も逆らえない。
ジャズとてそれと無縁では無く、今の若いジャズファンが「居心地良く感じる広さ」を持ったミュージシャンを探すと、そこにはピアノのブラッド・メルドーやギターのカート・ローゼンウィンケルの世界がピッタリと当てはまった。彼等の音楽はミニマムな中での感情に溢れていて明らかにパット・メセニー達の音楽とは発想が異なる。

僕も今の時代だとそのミニマムな世界が似合うと思うし、元々ラリー・コリエルのいた時代のゲイリー・バートン・カルテットの音楽もどちらかと言えばミニマムな世界だったので肌合いは悪くない。
つまり嫌いじゃないのだ。

そんな感覚の宿る今日の耳に聞こえるパット・メセニーの音楽について何か語れる事があるのだろうか?
そんな疑念を持ちつつこの新しいアルバムを聴くと、「ううん・・・」と思う部分と、「ほっ」とする部分の両極端に分けられる事に気付いた。

まるで中学の頃に大好きだったラリー・コリエルのアルバム『スペイセス』のようなイントロにびっくり。今にもミロスラフ・ヴィトウスのアルコのよるソロが聞こえてきそうな感じだが、すぐにメセニーとポッターによるテーマが奏でられる“On Day One”。ほどなくして始まるポリリズムは僕としては少々食傷気味。
元々パット・メセニー・グループ(PMG)でもよく聞かれたポリリズムだが、今の時代に聞くとかなり作為的に聞こえてしまうのは僕だけだろうか。

何でも変拍子を入れて悦に入るのはどうかと思う。本当にそれがスリリングで意味のあるものなら、聴き手は気付かずに惹きこまれて行くものだと思うからだ。

“Rise Up”は激しいギターのストロークから始まる。ここでもポリリズムが入り、こちらはそんなに嫌味がなく聴ける。リズミックなテーマの後、時間にして3分の手前あたりから僕はゴキゲンになった。
静かなオスティナートの中で奏でるパット・メセニーのソロ。この人の本質はやはりここにあるな、と実感する。いくら周りを飾り立てても、本質に優るものはない。これが聴ければこれまでのアルバムよりも次に進むのが苦にならない。これを聴きながらまたしてもエバーハード・ウェーバーのアルバムでチャーリー・マリアーノが入っていた頃の演奏を思い出してしまった。
前にも書いたがパット・メセニー・グループの根底にはエバーハード・ウェーバーのサウンド・テクスチャーが生きている風に聞こえて仕方ないのだ。

詩的な“Adagia”の世界。まるで原点回帰のようなバラード。短いけれど、なぜか安心する世界だ。

そして続く“Sign of the Season”こそ、パット・メセニーの世界だ。
Dのオスティナートで展開されるハーモニーの連鎖、その縁取りをメロディーとして横に繋ぎストーリーが出来上がる。明るくは無いが暗過ぎず、ほどよい居心地がここにはある。
元々、PMGの音楽にあったのは哀愁と呼んでもよいような少し振りかえったところにある感情の代弁役だ。
多くの若者(当時)は他にあるただ明るいだけの世界や、無駄に暗い世界には見向きもせずにこのPMGの世界に没頭した。それが一つの時代だったのでしょうね。当然ながらも僕らもその中にいたのは確かだ。

この音楽の世界を聴くと、無性にボストンの今頃の季節が懐かしい。郊外の小さな街に暮らしていた頃を思い出す。ピリっと頬を刺す冷えた空気、木立は既に冬眠の様相、それでいて底抜けに澄み渡る空、温かい家の空気、夕暮れの哀愁を帯びた色とシルエット、、、、底抜けに明るいわけではない世界、でもそれがアメリカで暮らした一番の記憶に残っているので、この音楽に触れるとまるで昨日の事のように甦る。
たぶん、パット・メセニーの音楽はアメリカ本土に完全回帰したのだろうな、と。

そして、いつまでも失わない青年のような気持ちを音に託している。
都心の生活ではなく、ほんのちょっと郊外に暮らすようなそんな感覚。

8曲目“We Go On”などは90年代の「WE LIVE HERE」辺りのテイストだ。
このアルバムはUnity Groupによるものとされてはいるが、壮大なパット・メセニー・グループのヒストリーのような作品群が並んでいる。
その中には、改めて「あの幸せな時代」を回想させるような曲もあれば、その続編と呼べる音楽もある。

昔のPMGと何が違うの?

そう問われるとちょっと難しい。
明確なのはサウンドに占めるシンセの量の軽減だ。
それによってある意味では今の時代らしいとも言えなくもないが、昨年のアルバム『TAP』のような例もあるので現時点ではまだわからない。
唯一思うのは、今の時代の音楽としてどう聞こえるかという耳で聞くと、ここには「今」という実像は見えなかった気がする。別に時代に沿う必要は無いが、パット・メセニーの見る「今」を聴いてみたいという気持ちだけは残った。

カテゴリー
月曜:ちょっと舞台裏 (762)
火曜:街ぶら・街ネタ (740)
水曜:これは好物! (699)
木曜:Jazz & Classic Library (685)
金曜:vibraphoneやmarimbaの為のジャズクリニック (679)
■Produce Notes レコーディングルポ (130)
■新・音楽体験記/留学の頃 (14)
■ツアー特集:東海道~南海道右往左往 (151)
■ツアー特集:North2019 Duo&SPB東北ツアー (12)
赤松 meets ハクエイ10th Anniversary DuoTour 2022春 (7)
■“WE LIVE HERE”夏休暇日記 (17)
メディア (19)
楽器(主にヴィブラフォン マリンバ)について (5)
■年末年始日記 (72)
音楽 (81)
日記 (255)
旅行 (3)
Final Cadence/追悼 (22)
みんなで考える・・・ (3)
分類なし (6)
ノンジャンル (6)


過去ログ
2022年7月 (10)
2022年6月 (22)
2022年5月 (22)
2022年4月 (23)
2022年3月 (23)
2022年2月 (20)
2022年1月 (21)
2021年12月 (23)
2021年11月 (22)
2021年10月 (21)
2021年9月 (22)
2021年8月 (22)
2021年7月 (21)
2021年6月 (22)
2021年5月 (21)
2021年4月 (22)
2021年3月 (22)
2021年2月 (20)
2021年1月 (19)
2020年12月 (20)
2020年11月 (20)
2020年10月 (22)
2020年9月 (18)
2020年8月 (19)
2020年7月 (22)
2020年6月 (21)
2020年5月 (20)
2020年4月 (20)
2020年3月 (21)
2020年2月 (18)
2020年1月 (20)
2019年12月 (21)
2019年11月 (22)
2019年10月 (23)
2019年9月 (21)
2019年8月 (28)
2019年7月 (22)
2019年6月 (19)
2019年5月 (24)
2019年4月 (22)
2019年3月 (19)
2019年2月 (17)
2019年1月 (22)
2018年12月 (20)
2018年11月 (21)
2018年10月 (22)
2018年9月 (16)
2018年8月 (20)
2018年7月 (22)
2018年6月 (19)
2018年5月 (22)
2018年4月 (20)
2018年3月 (21)
2018年2月 (20)
2018年1月 (18)
2017年12月 (16)
2017年11月 (17)
2017年10月 (20)
2017年9月 (18)
2017年8月 (22)
2017年7月 (20)
2017年6月 (21)
2017年5月 (23)
2017年4月 (20)
2017年3月 (19)
2017年2月 (19)
2017年1月 (21)
2016年12月 (21)
2016年11月 (22)
2016年10月 (26)
2016年9月 (21)
2016年8月 (21)
2016年7月 (21)
2016年6月 (20)
2016年5月 (22)
2016年4月 (23)
2016年3月 (25)
2016年2月 (21)
2016年1月 (18)
2015年12月 (22)
2015年11月 (20)
2015年10月 (24)
2015年9月 (22)
2015年8月 (21)
2015年7月 (23)
2015年6月 (22)
2015年5月 (20)
2015年4月 (22)
2015年3月 (21)
2015年2月 (20)
2015年1月 (20)
2014年12月 (22)
2014年11月 (18)
2014年10月 (23)
2014年9月 (22)
2014年8月 (21)
2014年7月 (23)
2014年6月 (21)
2014年5月 (21)
2014年4月 (22)
2014年3月 (19)
2014年2月 (20)
2014年1月 (21)
2013年12月 (22)
2013年11月 (21)
2013年10月 (24)
2013年9月 (21)
2013年8月 (22)
2013年7月 (23)
2013年6月 (20)
2013年5月 (23)
2013年4月 (22)
2013年3月 (20)
2013年2月 (20)
2013年1月 (20)
2012年12月 (20)
2012年11月 (23)
2012年10月 (23)
2012年9月 (20)
2012年8月 (23)
2012年7月 (22)
2012年6月 (21)
2012年5月 (23)
2012年4月 (22)
2012年3月 (22)
2012年2月 (21)
2012年1月 (22)
2011年12月 (21)
2011年11月 (21)
2011年10月 (23)
2011年9月 (22)
2011年8月 (23)
2011年7月 (21)
2011年6月 (22)
2011年5月 (22)
2011年4月 (21)
2011年3月 (21)
2011年2月 (20)
2011年1月 (20)
2010年12月 (21)
2010年11月 (22)
2010年10月 (22)
2010年9月 (22)
2010年8月 (22)
2010年7月 (23)
2010年6月 (21)
2010年5月 (21)
2010年4月 (22)
2010年3月 (24)
2010年2月 (20)
2010年1月 (20)
2009年12月 (22)
2009年11月 (21)
2009年10月 (19)
2009年9月 (22)
2009年8月 (21)
2009年7月 (23)
2009年6月 (22)
2009年5月 (23)
2009年4月 (23)
2009年3月 (13)
2009年2月 (21)
2009年1月 (23)
2008年12月 (25)
2008年11月 (20)
2008年10月 (25)
2008年9月 (24)
2008年8月 (24)
2008年7月 (24)
2008年6月 (23)
2008年5月 (24)
2008年4月 (25)
2008年3月 (25)
2008年2月 (25)
2008年1月 (28)
2007年12月 (27)
2007年11月 (28)
2007年10月 (30)
2007年9月 (27)
2007年8月 (29)
2007年7月 (28)
2007年6月 (28)
2007年5月 (28)
2007年4月 (25)
2007年3月 (31)
2007年2月 (28)
2007年1月 (31)
2006年12月 (31)
2006年11月 (30)
2006年10月 (31)
2006年9月 (30)
2006年8月 (31)
2006年7月 (31)
2006年6月 (30)
2006年5月 (31)
2006年4月 (30)
2006年3月 (18)

2022年7月16日現在