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音楽的読唇術:洗練されたインプロを考える

想像力:イメージ体現のススメ 2012/8/3掲載

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どのようなコード進行でもソロ(インプロ)で表現出来なければならない・・・・

子供の頃から耳にする優秀なインプロヴァイザー達の演奏を聞きながら目標とした言葉。
ジャズを聞き進む内に、演奏者個々にはそれぞれの法則があり、そこに生涯をかけている事がわかって来た頃、じゃ自分はどうするんだ? という次の目標が出て来た。

アイドルのように聴くのが大好きなミュージシャン達の演奏をいくら真似ても、その人にはなれない。
当たり前だ。それは聞く為の楽しみに残しておくべきだ、と思ってからは聞き方が変った気がする。

どんな状態でも変らない自分が見えて来たら・・・・・良い部分も悪い部分も含めて自分だと自覚するのを怠ったら終わりだ。

さらに、その「変らない自分」が見えて来たら、今度はそこから進化しなければならない。
どうせ進化するなら、生涯進化しつづける事に結びつけなければ意味がないじゃないか。
焦っても仕方ないものね。

いろいろと手っ取り早い方法はいくつかあるのだけど、自力で出来るところまではやっておいたほうがいい世界。その根幹が音に対するイメージの体現。

どんなコード進行にも耐えられる自分を作るウォーミングアップ。

ジョン・スコフィールドの美しいワルツ“Do Tell”の展開部。
このようなコンテンポラリーのジャズでは譜面に調号を用いないケースがほとんどなので、先週の解説を参考に初見で演奏する時の「触手」をセッティングしてから始めましょう。

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コードスケールのアナライズが完了したら、いよいよイメージトレーニング。

まずはヴィブラフォンの音域を基準に、各々のコードスケール上にある音を上行しながら拾って行く、ここではお馴染みのトレーニングです。途中で上限まで達したら下行します。

このイメージラインを「四分音符」で描くとこんな感じになります。

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この形が出来たなら、今度は「三連符」、「シンコペーション」、「16分音符」、「ランダム」と自在なタイミングを設定してトレーニング。使う音符によってコード間を繋ぐ位置(音)はどんどん変わって行きます。
それこそがこの練習の目的なのです。

肝心なのは、自分が始めた形を途中で放棄しない事。
さらに、始める音は最初のコードのコードスケールのアヴォイドノート以外の(この場合は先週解説した通り無し)どの音からでも、どの方向(上行、下行)にでも進めるように練習します。


■イメージラインによるトレーニング

絵やデザインと同じように音もレイアウトを設定する事が出来ます。
ただし、その為には上記のイメージラインのトレーニングを行う為のアナライズが完了する分析力がなければ脱線してしまいます。

それらを満たしているという大前提で次に進みます。

音の動きをラインでイメージしてみましょう。
そして、そのラインを実際のコード進行の中に当てはめるのです。

以下はそのいくつかの例。

a.)小節内での反復イメージ
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         ↓

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小節内で細かく動く場合に出て来る例です。途中6小節目にある「↓」はコードスケール上ではこの位置にある音がアヴォイドノート(11th)となるのでアプローチノートを挟みました。

b.)対小節間での反復イメージ
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          ↓

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小節単位、又はコード単位でメロディーラインのイメージを反復させた例。
シンプルであればあるほど効果的で聴き手に大きな印象を残します。
たくさん音を出せばいいってもんじゃないって典型だね(笑)

どんな音を選ぶのかは個人のセンスによるところが大きくなるのですが、一つの成果に満足する事なく常に最新最良の音を選択しつづける事を忘れてはいけません。

自分の耳というのはどんどん進化しつづけます。
今日OKだった音があっても、明日には「もっといい音と出会う」かもしれません。
画一的な練習や演奏に留めるとそういう発見からどんどん疎遠になります。
来年、いや十年後に「これこそが最良の選択の音」と言い切れるものを毎日探し続けなければ、生涯を費やすだけの価値はありませんから。

自分の演奏にイメージラインがあるかどうか?
毎回自分自身にシビアな耳で検証しましょう。




想像力:印象の残し方 2012/8/10掲載

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先週と同じジョン・スコフィールドのリリカルなワルツ“Do Tell”の展開部。

前回のイメージラインによるトレーニングは短いワンフレーズ的なものだったので、今回は複数のコードを経由したロングフレージングへと展開してみましょう。

【Do Tellの展開部】
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短いワンフレーズをそれぞれのコードに対して繰り返す事は、曲の流れを炙りだす効果はあるものの、即興演奏として見た場合、ワンパターンの繰り返しである事は否めない。
これでは純粋な即興演奏とは呼べず、エチュードを人前で練習をしているかのような印象を与えてしまう。

それは、今演奏している曲に限った事ではなく、どの曲でもコードに対して同じ形しか描けないかのような印象を残してしまい、「どの曲も同じソロしか聞こえて来ないじゃないか」、「何を聞いてもワンパターン」、「マンネリ化したフレーズばかりで最初から最後までちっとも演奏が盛り上がらない」等々、それをそのまま人前でお金を取って披露するのはどうかと思える。

演奏に一体何が欠けているのかを直視する必要があるなぁ。

コードの流れに乗る、という事が大前提にある点はクリアーされているのだから、その「乗り方」をもっと考えるべきじゃないかな。
しかも、ここでは印象を残す、というテーマを掲げてみよう。

前に「最大で最小の動きによる印象は、同じ音、もしくは最大で半音の跳躍に留める事で生れる」とアントニオ・カルロス・ジョビンの“One Note Samba”の解説のところで述べた。
その最も効果的ないくつかのコードに共有出来る同じ音を並べてメロディーで出来ている典型が“One Note Samba”でもあったわけだ。ジョビンのアイデアに溢れた名曲だと思う。

そこまで極論ではないけれど、自分が描くソロ(メロディーライン)の中にその効果を持ちこんでみるのはかなり有効なトレーニングになるでしょう。

■演奏しながらコードを繋ぐコモントーンを探せ!

コモントーン(共有音)でメロディーが終止すると人間の耳に心地よい印象を残せる。
たくさんの音を使ってパラパラと説明するよりも、メロディーラインの終盤で一つ二つの共有音を奏でるだけでコードが進行し印象深いソロの余韻を残すというのが目標。

演奏中にどのようにソレを思い浮かべるのか?

こんなイメージラインを描いてみましょう。

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一つはライン的に下行するライン、もう一つは短く反復した後に次のコードとの間で共有する音を使う。

この曲のコードの結び付きには、二小節が一括りとなったブロックで転調を連続させている特徴がある。
そこで、その二小節単位をブロック分けし、その二つのコードのコモントーンをフレージングの最後に想定するイメージトレーニング。

上記のイメージラインの内、重要なのは点線で囲った位置。
そこにこれら二つの小節を繋ぐ位置にある二つのコードの中のコモントーンを予測するのだ。

もちろんスタートしたメロディーラインの位置はしっかりコードの中の「第何番目の音から始めた」と言った意識を持って演奏するのだけど、加えて終盤にコモントーンとして設定する音をそのメロディーラインが始まった早目の段階で想定するわけだ。
二つの事を同時進行させる、という風に考えてもいい。

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上段四小節は始まった途端に3~4小節目にはBm7とE7(b9)のコードスケールにあるコモントーンを探す。

Bm7のコードスケールは・・・
B-C#-D-E-F#-G#-A

E7(b9)のコードスケールは・・・
E-F-G-G#-A#-B-C#-D

幸いにもこの二つのコードはアヴォイドノートが無いからコモントーンを探すのは容易い。

コモントーン → B. C#. D. E. G#.

下段四小節も3~4小節目のEbm7とA7(#11)でも探しておこう。

Ebm7のコードスケールは・・・
Eb-F-Gb-Ab-Bb-C-Db

A7(#11)のコードスケールは・・・
A-B-C#-D#-E-F#-G

この中でコモントーンを探すと・・・

C#. D#. F#.

従って上段を演奏し始めた時に3-4小節目はD、下段を演奏し始めた時に3-4小節目はF#、と予測を付けて始めるわけだ。

二つのイメージラインを組み合わせて一つのメロディーラインと印象付けるには、最低でもこの譜例のようにもう一度違うコード進行の箇所で同じイメージラインをコードに当てはめる必要がある。

小節毎に細かくバタバタと動くよりも、ある程度の長さの小節間で最小必要限の動きでクールに印象を残そう。バタバタ動いているのは、決定的な音に出会えていないからとも言える。




最初から完全でなくても始めてみよう 2012/8/17掲載

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誰でも最初から100%の推測力と創造力でソロ(インプロ)が演奏出来るわけではありません。
ただ、曲に接する初期の段階で間違った方向に進まないようにする事は、推測と創造に良い結果を齎します。

つまり、初めて曲に接した時に、どのようなソースを譜面とサウンドから自分で引き出す事が出来るかがその時点での自分の充実度を示すわけで、それに繋がるボトムは常に上がっていなければなりません。

ところがインプロという物の厄介な部分は、「正解を最初から持ち合わせていない」という事。
毎日、誰かと演奏していたとしても、本当に自分がやっている事が充実に向けて進んでいるのか自覚するのは難しい事です。

クラシックのような書き譜の音楽は、この点では迷いがありません。
そこ(譜面)に答えが書いてあるのですから、毎回答え合わせをしているようなものです。
ただ、その答えがとてつもなくスケールの大きなものだったり、超絶的な技巧を要求されたりするのです。

それに比べるとジャズなどのコード・インプロヴィゼーションは自分で簡単にしようと思えば、いくらでも簡単に出来てしまいます。技巧が足りなくても他の事でカバー出来てしまったりします。
ただ、そこに落とし穴があって、充実度のボトムを下げようとすればいくらでも下げられてしまう事です。
つまり、考える事や、鍛錬する事など、手を抜けばいくらでも楽出来てしまうのですね。
自己責任みたいな音楽と言って良いでしょう。

周りからの影響を受けやすい点でも、元々何も譜面に書いてないのですから、一生懸命努力している最中に「誰もそこまでやってくれと頼んではいない」と言われたら精神的に終わりです。

そうした「足を引っ張る要因」とも戦いながら、自分のボトムを上げて行かなければならない、厄介なものですが、一度上げたボトムが下がらなくなったら、これほど面白い音楽はありません。
目標は常にそこなのです。

どんな物事でも突然100%の対応なんて難しく感じるでしょう。
でも、手順を踏まえれば徐々にそれに近い対応が可能となります。
近い対応、すなわち音楽ではそれを「自信」とか「蓄積」と言う風に表現します。

どんなに人生経験を積んでも、例えば人と会って話しをするだけでも、後になって「ああ、あの時、あそこでもう少し気の利いた話しが出来ればなぁ。。。」と思うとか、Aさんには助言となった事が必ずしもBさんには通じない、なんて事は普通に生活するだけでも巨万とあります。音楽、ジャズのインプロも正しく同じで、昨日良かった事が今日も必ず良い結果に結び付くとは限りません。昨日触れられなかった事の中に、昨日よりも素晴らしい事が潜んでいるかもしれないからです。

最初から「解答」の見えないコードインプロヴィゼーションの世界は発見の連続でなければなりません。
完璧な練習をして備えていても、一人でも自分と違う意見を持った共演者がいると、まったく予測とは異なった結果へと動いて行きます。それを阻止して自分の思う方向へと導けるだけの説得力を持ち合わせている場合は別ですが、大半の場合は「慌てて動揺し、そして自滅」します。(笑)

あんなに練習では上手く出来てたのに・・・・@@;;

・・・もしもし、それ自体が間違っているのですよ。(笑)

ジャズのような即興性に重点が置かれた音楽では、その瞬間に起こった事に上手く自分を添えられかどうかでその日の自分の出来が決まります。

その時に、自分を見失わない事が何よりも大切なので、日々の練習はその対応を現場で広げられるものでなければ何の意味もありません。

何度も似たようなフレーズ(一番イケないのはコードがさっぱり頭の中で自覚出来ていない状態なのにフレーズで取りあえず繋いでいる演奏)を繰り返し練習しまるで書き譜のようにガッツリまとめ上げたソロを、そのまま上手に演奏出来るのを本番と勘違いするのなら、きちんと作曲された書き譜の曲をノーミスで演奏したほうが百倍の価値があります。
その日、その瞬間に、現場で起こった事に自分を投影できてこそ、インプロヴィゼーションと呼べるわけですね。
それさえ演奏の中に感じられるなら、完成度が最初から高くなくったっていいんです。
プロの耳にはいくら上手に取り繕っても「上げ底」がバレバレです。
そんな所には何の価値も感じていないのです。

★★★

最もチック・コリアの曲の中で好きな作品に“The Loop”というワルツがあります。
リリカルでロマンチックなこの曲の最後の部分を取り上げて「手順」を踏まえた考察を行ってみましょう。

まず、テーマはこんな風に、まるで大きなループ橋を旋回しながら降りて行くような結末になっています。
この曲はどこを取ってもロマンチックで美しいコードとメロディーに溢れていますが、特にこの部分はスパイスが効いていてさすがだな、と思わせます。

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まずは各々のコードスケールを予想しましょう。
それが完了したら、ガイドトーン・ラインを描いてみましょう。

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もう一つのガイドトーン・ラインを描いてみましょう。
この時にBbmのコードスケールを特定しておく必要があります。

この曲の冒頭の部分で同じコードが使われた時にBbm(Maj7)という表記がありました。
メロディーから得られるヒントは無いので、この場合はコードトーン4つ、さらにこの曲の調号との整合性から割り出します。
元のキー(Fメジャー)の調号(フラット一つ)のスケールにコードトーンを置き、残りはそのまま隙間に当てはめるわけです。
その他の知識としては完全五度と、余程の変化を持たない限り完全四度の音程はコードの骨格として自動的に適応される事をお忘れなく。(マイナーセブン・フラットファイブを除く)

すると、

Bb-C-Db-Eb-F-G-A

というコードスケールが導き出されますね。

Fメジャーとの整合性をブルーで表示するとこのようになります。

Bb-C-Db-Eb-F-G-A

これまでにここで述べて来たコードスケール・アナライズでこのように割り出されますが、コードトーンとして絶対的に存在するBb-Db-F そしてマイナーセブンスコードには必ず含まれる11thのEb。これ以外を単純にFメジャーの調のスケール音で埋めた、と言えばおわかりでしょう。これで元のキーに極力近い(整合性の高い)コードスケールが判明したわけです。

この部分はMaj7の音をわざわざ表記していないわけですから、あんまり強調しなくても良いという事になるので13thの音(G)をガイドトーン・ラインに取り込みましょう。
すると、こんな素敵なガイドトーン・ラインが生れます。

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まるで木の葉がゆっくりと落ちて行くように、コードの流れと並行しながらモーションとモーションの間をコモントーンで繋ぐような美しいラインです。

これに、先ほどのガイドトーン・ラインを併走させながらメロディーの一部に取り込むと、とてもロマンチックなメロディーが生れます。

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二つのガイドトーン・ラインが頭の中で流れる事によって、メロディーが導き出されているわけです。

これによって、大方のコードの流れ、メロディーが進むべき方向などの予測が立ちます。

最初の段階で、まず、このガイドトーン・ラインだけでメロディーを作る状態を目指しましょう。

たぶん、これがファースト・コーラスとしての指針になるでしょう。
しかし、これだけでは「動こうにも動けません」ね。

もっと使える音はたくさんあるはずです。

そこで、次のようなストレートなラインでコードスケールを跨ぐトレーニングが必要になります。

まず最初はシンプルにイーブンでラインを繋ぎます。

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この段階で完了とする事も出来ます。
コードスケール上にあるアヴォイドノート以外を上手に結んでいるからです。

ただ、ここで、もう少し考察を広げると、もっと些細な部分の変化に気付くでしょう。
5-6小節目のコードはAbm7-Db7なので一時的にGbメジャーへと転調していると考えられます。
上記のラインも、まさにその通りに繋いでいます。

するとこの部分はいわゆるII-Vのフレージングなどで安楽的に通過しても良いわけですが、一時的な転調というものを「本当の転調ではない」と解釈する余裕があれば、Db7に関してはリディアン・フラットセブン・スケールと考えたほうが、より豊かな音を得ると思われます。
つまり、コードトーンのDb-F-Ab-Cb以外のヒントはメロディーのBb=13th。
ここでは9thの音があるのか、b9thの音があるのかが残りのヒントとなりますが、直前のAbm7のコードスケールと比較して、なるべく変化の少ない方と考えると9thになります。

従ってDb-Eb-F-Ab-Bb-Cbが割り出され、ここまでは先ほどのDb7をミクソリディアン・スケールと考えたものと一致するので問題のない事がわかります。
残りの音、すなわち第四番目の音を予測するわけですが、そこには元々のFメジャーのスケールにある音を選択すると#11th=Gが加わるわけで、次のモーションへと進みやすくなるわけです。

この部分のラインは以下のように変化します。

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たった1音、しかもアヴォイドノートとしておけば「弾かずに済む音」の事をあーだこーだと掘り下げているように映るかもしれませんが、メロディーを創作する上では1音でも候補が多いほうが良く、それによってこの部分のサウンドにスパイスが効くとなれば見逃すわけには行きません。

このようにラインを使って曲のコード感を身につける訓練は自分の曲に対する充実度をチェックする事にもなります。これをこれまでの解説からどのようなライン・トレーニングとして発展させて行けるのかを次週までに考えてみてください。

シンプルであればあるほど、実用性に優れたトレーニングになります





基礎感覚育成は非ジャズトレーニングで 2012/8/24掲載

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赤松敏弘(vibes)ハクエイキム(piano)

何やら聞き捨てならないタイトル・・・“基礎感覚育成は非ジャズトレーニングで”!?
ジャズ・クリニックなのに非ジャズトレーニングで、とは・・・?

答えは簡単です。

ジャズの基礎を固める段階には二通りあります。

一つはジャズの古典的な演奏でよくみられる用法(フレーズ)をコード進行に沿って当てはめるやり方。
この方法の長所は、手っ取り早くコードの中で“何かをする”行為に結び付けやすい点。コードに対してメロディックなアイデアを繋いで行くには、幾千万という過去の演奏例(フレーズ集のようなものまで市販されている)というお手本があり、それらを一つ一つ覚える事によってコードに対応する。
短所は、コードの中で“何かをする”事が出来る段階になると基礎的な理論との間で様々な矛盾と遭遇する事。自分が取り込んだ用法(フレーズ)の何処までが原則で何処からが応用なのかを見極めるのが困難となってしまう点。結果矛盾点を解決する事なく理論の「原則として」という言葉に甘んじてしまう傾向がある。

もう一つはアヴェイラブルノートスケール(Available Note Scale)を基軸としたハーモニーに沿ってメロディー・ラインを想像するやり方。俗にバークリー方式とも呼ばれるが、それ以前にコードネームを見た瞬間に三度の隙間の音が気になる自然な疑問を体系的にまとめたものと考えたほうが良い。
この方法の長所は、選択した音に絶対的な自信が持てる事で既存の形にとらわれない演奏スタイルを身に付けられる点。ハーモニーに対する感覚がニュートラルなのでジャズ以外の音楽での対応が可能で、演奏以外でもアレンジや作曲の基礎として活かされる事も出来る。
短所は、このアヴェイラブル・ノート・スケールの感覚が移動ドを軸として出来上がっているので固定ドで音楽教育を受けて来た人にとっては感覚が慣れるまで根気と忍耐が必要。

さて、基礎的な段階でハーモニーの仕組みを知りつつ連動してコード・インプロを目指すのでここではアヴェィラブル・ノート・スケールが軸になっているのだけど、四つのコードトーンの隙間にどんな音があるのかを知らないとメロディーが生れて来ないと思う人にこの用法はピッタリで、僕もバークリー・メソードに触れる遥か前にいつもその事ばかり考えながらコードを眺めて育ちました。

そうだから気付いているのですが、上に挙げた二つの事例はまったく異なる経過を経てジャズのインプロへと繋がっているのです。

この事を念頭に置いて、説明を理解してください。


■非ジャズ的なライン・トレーニングのススメ

随分刺激的な小見出しですが、ジャズを否定するのではなく、ジャズの用法として“当たり前”と称される事を排除してコードの流れに乗ってみよう、というトレーニングです。

ジャズ的なフレージングと言うと、短い節回しと装飾音に代表されるでしょう。
なのでココではそれを排除してトレーニングしてみよう、という意味なので否定ではありません。
実はベーシックな段階ではジャズ的なフレージングが持つ「応用性」が実に邪魔をするのです(笑)

「それがないとジャズじゃない」

みたいな観念も否定はしませんが、生業としていろいろな仕事をするのであれば、もっとニュートラルな位置からの基礎固めが必要なのです。
いや、実はコレ、ジャズ以外の音楽からコード・ミュージックに入って来るには、実にストレスの無い入り方なのですよ。
ジャズをやるなら最初はまずブルースから、とか言われると抵抗のある人は特に。

先週と同じくチック・コリアの美しいワルツ“The Loop”の最後の8小節を使って解説しましょう。

“The Loop"
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先週コードスケールを繋ぐガイドラインを示しましたが、これを有機的にインプロの練習に取り入れる方法がコードスケールを軸としたインプロヴィゼーションの基礎となります。

先週はイーブンでラインを書きましたが、今回は四分音符で弾いてみましょう。
使える音域はヴィブラフォンのF2-F5の3オクターブに限定します。

四分音符でのストレートライン
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さて、コード進行を見ながらこのラインが描けましたか?

途中で音が違った人、コードスケールを再確認しましょう。
それでも違いがわからない人、アヴォイドノートを飛ばすのを忘れていませんか?

これらのチェック項目がトレーニングの実績へと繋がります。

ここでは比較の為に、あえて同じピッチからラインをスタートさせていますが、トレーニングでは最初の音をアヴォイドノート以外(この部分の最初のコードにはアヴォイドノートはありませんが)の全ての音から上下どの方向にも進めるように練習を繰り返すのです。

あえて同じ音からの譜例を並べるには理由があります。
その理由は、次の八分音符でラインを描く内に気付くでしょう。

八分音符でのストレートライン
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もうおわかりでしょう。
スタートする音が同じでも、小節内を刻む音符の種類が異なれば、当然ながら次のコードに繋がる音の位置もどんどん変位して行きます。
このトレーニングの狙いはその変位にあります。
どんなコードの連携でも、この変位を上手く繋ぐ事が出来れば「どんなコード進行であってもインプロ出来ない事はない」という自信の根拠に繋がるわけです。

なのでこれはコードトーンの隙間の音を如何に正確に割り出すか、という事。
コード理論書を紐解く以前の高一の頃、学校のピアノの練習室に閉じこもっては、このコードとコードの隙間の事ばかり考えていました。左手でコードを弾いて右手で隙間の音を探る・・・
ピアノで隙間の音が予想出来たらヴィブラフォンで応用する、の繰り返し。

調号との関連性に気付くまでそんなに時間は掛かりませんでしたが、アヴェィラブル・ノート・スケールなどと言う言葉は見た事も聞いた事もありませんでした。
最初から言葉や用語なんて知らなくてもいいんです。
意味がわかっていれば。

さて、

そのトレーニングに、“リズム”という新しいテーマを持ち込むと、既に誰の物真似でも無いコード・インプロヴィゼーションが始まってくるのです。

まず、最初はここまでに挙げた譜例に沿って、Dの音からラインを上行させて、上限に達したら下行させる方式で、ラインはストレートながら、音符は自分で任意の音符を挿入してリズムを加えてみましょう。

例えば・・・

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用法とすれば、これはストレートなガイドライン+ランダムと言う事が出来ますね。
ランダムというのが何とも言えない響きですが、要するに、どんな位置でも次のコードスケールに上手く繋げるトレーニングの応用版でもあり、この段階でリズムを想定しながら「歌う」事の練習にもなります。

これまで機能的だったラインの練習が、グッとインプロらしい表現方法のトレーニングへと変化するはずで、ジャズ的なフレーズを知らなくともコード・インプロが行える入口となるわけです。

もちろん、最初の音も固定する必要はなく、進む向きも自由に設定して良いのですが、物事には基本、特にインプロのように譜面に音符を記さない(回答の無い)演奏トレーニングでは、ある程度の制約を自分に課す事が最大の成果に結び付きます。

従ってここでは、自分が思い付くどんなリズムを挿入しても良いがラインはストレートに限定する、という制約を崩さないように。

以下は一つの例です。

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このシステムがわかれば、グンと練習が楽しくなりますよ。

ここで考えれば良いのです。
どうすれば“リズム”でジャズっぽさを出せるのだろう・・・・? と。




非ジャズトレーニングの立体化 2012/9/7掲載

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ここで示すトレーニング方法は、どんなカテゴリーのジャズにも適応できます。
スタンダードやビーバップ、コンテンポラリーまで、基本は同じですから。

ただし、トレーニングを行うまでに以下の事が解明されていなければ“危険”です(笑)。

・メロディーに対するコード付けが正当である事(リハーモナイズされたコードは適応外になる場合あり)
・各コードのコードスケールが解明されている事

つまり、よほど変則的なアレンジでもしない限りメロディーとコードの関係が崩れる事はないので御心配なく。
ただし、耳コピーなどでコード表記が正当ではない場合は要注意。

 例: Am7 (低音にAが聞こえCも聞こえたのでマイナーセブンコードと表記)
   実際 → F/A (Fのコードの転回形)

前回はチック・コリアのコンテンポラリーなワルツを取り上げましたが、今日はバップのクリフォード・ブラウンの名曲“JOY SPRING”を取り上げてみます。

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ここで注釈が一つ。
5小節目最初のコードAm7はメロディー“F”音と整合性に欠けます。(本来はアヴォイドノートのb13th)
ココでの解説ではAm7を本来あるべき姿のF/Aに置き換えて解説します。
もしもオリジナルのAm7でトレーニングを行う場合はIIIm7として、b9thとb13thはアヴォイドノート対応としてください。

コードスケール・アナライズが完了している事を大前提として、さっそくトレーニングに入りましょう。

まずは各コードのコードスケールを2オクターブ上行下行連続のスケール練習を完了させる事。

コードスケールのスケール練習が終わったら、次のような「法則」を練習に立てます。


■ライン・トレーニング

ライントレーニングとは、コード進行に沿ってコードスケールを横に繋いで行くトレーニング。
様々な練習方法がありますが、まず最初は楽器のフルレンジを使ってラインを作る練習をしましょう。

ここではヴィブラフォンのフルレンジを使って例を挙げます。

まずは上行から。昇りつめたら降りるだけ。
リズムは特に出す必要がないので二分音符とします。
コードスケールに含まれるアヴォイドノートは必ず飛ばして演奏します。

【ライントレーニング/二分音符/上行】
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この段階ではアヴォイドノートは出て来ませんでした。
コードスケールの繋ぎ目に細心の注意を払って練習を。

次に最高音から下行してみましょう。下がり切ったら上行するのみ。

【ライントレーニング/二分音符/下行】
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ここではライン通りに降りて来ると3小節目冒頭でFMaj7のアヴォイドノート“Bb”音に遭遇します。それを事前に察知して上手く飛ばす事が出来るようになるまでこのライントレーニングは行いましょう。

今度はリズムを加えてみましょう。
モチーフは二小節周期、下行から入って下がり切ったら上行、の繰り返し。

こんな例を参考に自分でリズムを考えてみましょう。

【ライントレーニング/ランダム/下行~上行】
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このトレーニングで一番避けたいのは、「いつも同じコードで同じ音を使う事」です。
少し楽器を演奏する事が出来るレベルであれば、演奏した事をどんどん記憶してしまいますから、譜面に書かれたコードネームを見て演奏しているつもりでも、単に覚えた音を順次繰り返しているだけの場合があります。
常に目で譜面を読み、極力「同じ音の並び」に甘んじないように。

慣れてくれば、リズムの周期性を2回程度に留め、どんどん新しいリズムによるモチーフを作り出しながらライントレーニングを行えば、コードを見ながらインプロ演奏している状態に近づきます。

単純な一直線のラインですが、どのような音符をどのタイミングで選択するかによって、まったく違う音の繋がりに触れる事が出来ます。それこそがこのトレーニングの一番の目的なのです。
このトレーニングをどんな曲でも適用して練習する事で、コードの中で動く「目標」をイメージする事が出来るようになります。

これ、すなわち、立派なコード・インプロヴィゼーションの始まりなのです。

練習は出す音の「テーマ」を自分で定めて正直に!

ちょっと格言(笑)

では、今度はコードの縦方向の音に意識を集中させるトレーニングをやってみましょう。

・メロディーにハーモニーを取り込むトレーニング


先ほどのライントレーニングはハーモニーを横に繋いで行く方法。
今度は自らのハーモニーの縦方向のイメージをメロディーに取り込む練習です。

まず、ここでの「テーマ」を決めましょう。

大前提として各コードのコードスケールが割り出されている事。
これを無視しては始められません。

では、テーマは「9thを弾く」にしましょう。

もちろんコードスケール・アナライズが完了している前提ですから、「9th」と言ってもアヴォイドノートとならないb9thも含みます。
逆にm7コードでアヴォイドノートのb9thがある場合は11thに置き換えて考えましょう。

まずはこんな感じでパッと出来たら、自分に『いいゾ!』してあげましょう。

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続・非ジャズトレーニングの立体化 2012/9/14掲載

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クリフォード・ブラウンの有名曲“Joy Spring”の冒頭を使って解説中。

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※5小節目Am7はメロディーをアヴォイドノートとしない為にF/Aと変換して解説しています

これまで解説して来たコードスケールを解明する事は、曲の構造の最も軸となっている部分を知る事に繋がり、演奏上での様々な“迷い”や“ストレス”を改善してくれる最良最善の方法となっているはずです。
現段階では、初見で曲と向き合った時に、どのような順序で曲を把握して自信を持った音を出すか、が課題。
メロディーの情報だけでは、この曲の5小節めのように矛盾が生ずる場合があるものだけど、一概に矛盾点を「間違い」とするのではなく、解釈の尺度を広げて本来あるべき音を尊重する方向で捉えたいものだ。

さて、先週はハーモニーのサウンドをメロディーラインに取り込む第一段階として、それぞれのコードのコードスケールに存在するアヴォイドノート以外の9th(コードによってはb9thを含む)を瞬間的にヒットさせる練習を提案しました。
m7コードでどうしても9th(つまりb9th)がアヴォイドノートとして使えない場合は11thを推奨しています。

さて、その単音が迷いなく選択出来た段階と仮定して次に進みます。

■テンションはトライトーンと組み合わせると立体的に響く

先週選択した9thの音はこんな感じになったはずです。

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これだけでは一般には「飛び出した音」あるいは「すっとんきょうな(妙な)音」という印象を与えてしまいますが、これらの音にコードサウンドの核でもあるトライトーンを組み合わせると、安定した響きへと変身します。

もっとも良いのは安定した三度の響きで繋がる7th(b7thも含む)との組み合わせ。
騙されたと思って、9thにくっつけてみましょう。

すると・・・・

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コードに対して9th(or 11th)が立体的な響きを齎しているのがおわかりでしょうか。
人間の耳には三度の響きというのは一番聞こえやすい音程で、長三和音と短三和音を比較するまでもなく、根音と三度の関係がコードサウンド全体を決定している事にお気づきでしょう。

その安心感をテンションのフォローとして用いたわけです。

では次に、これまでリズム的に平坦だったところに音の跳躍によるリズム感を与えてみましょう。

これも「安定した音」であれば初期の段階でサウンドをイメージしやすいので完全音程である五度を挿入してみます。

すると・・・・

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今まで二つの音が直線的に繋がっていた中に、音の跳躍が生れる事で大した事もしていないのにリズミックに聞こえますね。

ジャズの演奏で一番押さえるべきポイントでもある「リズム感は音程の跳躍で表現する」という方式が見えて来ました。
つまり、自分で無理矢理シンコペーションや複雑なリズムを出すのではなく、音の立体運動を利用してリズム感を演出する、と言うのがジャズの場合ベーシックにあるのです。

その対極が、実は曲のテーマ(主題)なのです。

だから、「なんか君の演奏は書き譜みたいだねぇ。。。」と困った顔をされたりしている時、、、
実は、あなたのインプロのメロディーが「リズム的なリズム」によってまるでテーマのようになっていする、という事を告げられている場合が多いのです。

やたらとシンコペートしてませんか?
それ、とっても危険な入口なのですよ。




洗練されたインプロを考える-インターバルの効果 2012/9/21掲載

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先週までのアドバイスを少し応用してみましょう。

テンションとトライトーンの間の間隔(インターバル)に注目すると、長三度ないしは短三度となっていますね。
人間の耳には、三度の音程というのは非常に安定して響くわけです。
スケールの中から三度の位置にある音を拾って積み重ねたのが「和音」すなわちコードとなっている事からもおわかりでしょう。

自分のソロ(インプロ)に何となく説得力が欠けるとか、イマイチ割り切れていない感じがしている・・・・などの問題の多くには、このインターバルを利用する事で「解決への兆し」が見えてくる事があります。

曲は様々なので、その中でインターバルを利用する骨組みのいくつかの例を挙げてみましょう。

■ガイドラインに沿って三度のインターバルを使う

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ジョビンの有名曲でチャレンジ。

まずは各コードのコードスケールを割り出して、コードスケール上にあるアヴォイドノート以外の音を一定の向きに繋いでガイドラインを作る。

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この場合、1コードに対して1音の動きとなります。

ガイドラインに対して三度下にあるアヴォイドノート以外の音を加える。
この時はトータルして規則性のある動きに集約して音を加える(1コード2音ではない場合もある)

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■テンションとトライトーンのインターバルを利用する

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ディジー・ガレスピーのリリカルなワルツ。

先週のアドバイスを応用。
各コードのコードスケールを割り出し、アヴォイドノートとならない9th(b9thも含む)を選ぶ。b9thがアヴォイドとなる時(マイナーセブンスコード)は11thを使う。

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それぞれの音に対して7th(b7thを含む)を加えてインターバルを作る。

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■ガイドラインに対して任意のインターバルを形成する

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ジャズスタンダードとしても親しまれるワルツ。

各コードのコードスケールを割り出してアヴォイドノート以外の音をラインで繋ぐ。

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ガイドラインに対して任意の音を選択して加える。

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いかがですか?
僕はこのようにイメージ設定を作りました。
みなさんもいろんな曲で試してみてください。

さぁ、インプロの入口がいくつか揃いましたね。
演奏中にこれらの音によるコードのイメージが聞こえるようになればしめたもの。

ではこれらを使ってメロディーラインに発展させてみましょう。






ガイドラインをメロディーの始まりに 2012/9/28掲載

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先週譜例を挙げた中から今週は“Someday My Prince Will Come”をピックアップしてバリエーションを作ってみましょう。

まずこの曲の冒頭の部分。
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この8小節で解説してみます。

まず、音を出す前にやるべき事は各コードのコードスケール・アナライズ。
これが出来ない事にはガイドラインを設定できません。

ここに挙げた譜面は情報としては十分な表示がされているのですが、以前にこの金曜ブログで触れた通り、一部のコード表記はコードサウンドを意味するものであってコードネームとしてそのまま受け止めると矛盾を孕んでしまいます。

その点をまずスッキリさせてからガイドラインを設定しましょう。

問題となる表記は、D7+5、G+7、です。

これらの表記が意味するのはいづれも「+5」という音をサウンドに含むように、という指定に近く、単純に完全五度の音程を半音上げたので完了するわけではありません。

D7+5のところを見ると、まずこの曲の調号(BbとEb)との整合性を図る事で「+5」が意味する事を理解できると思います。
そう、すなわち、このD7のスケールにはEbとBbを含めて考えれば済むわけで、このスケールはHMP5となります。 HMP5=ハーモニックマイナースケール・パーフェクト・フィフス・ビロウ

つまりこの部分の「+5」は完全五度の音が半音上がったのではなく、b13thが存在する、という意味です。ここではメロディーにその音(Bb)が使われていますね。

同じように、G+7という部分も同様に注目すれば薄々感づくように、メロディーにつかわれたEbの音に着目する、又はこの曲の調号に注目すれば、ここのG7にはEb=b13thを含んだスケールを使うように、という暗示なわけです。
するとb13thを含む基本的なコードスケールはHMP5ですから、ここも同様にHMP5である事が割り出されます。
つまりこの場合の「+」というシンボルは増五度の音程を示しているのではなく、完全五度の上には半音上の音が来ますよ(コードスケールに取り込みなさい)という意味になります。

現在では、なるべくコード表記はシンプルにするべきなので、メロディーにある音をわざわざコード表記には明記せず、そのコードスケールがメロディーとコードからイメージしやすい最低限の表記とするのが好ましいので、ここではb9thを表記する事にしました。

つまり「このコードは、メロディーや調号にある音を含む、b9thを含むスケールで出来ています」という意味がわかれば良いからです。

「+」や「+5」という誤解を生む書き方を上手く変換してくださいね。

さて、では、全てのコードのコードスケールがクリアになっている状態と仮定して、ガイドラインを作ってみます。

先週作った基本のラインは曲のテーマが最初に発する“F”の音を選び、順次上行させるものでした。

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これ以外の音もガイドラインとして据えられるので、最初のコードのコードトーンをスタートの目安として作ってみましょう。

すると・・・

BbMaj7の3rdから始めた上行ガイドライン
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BbMaj7の7thから始めた上行ガイドライン
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ガイドラインは上行ばかりではありませんね。
下行も作ってみましょう。

BbMaj7の3rdから始めた下行ガイドライン
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いろんなラインがすぐに作れるようになればしめたもの!

但し、絶対にコードのアヴォイドノートをガイドラインに取り込んではいけません。
これを避ける(咄嗟に飛ばす)練習は根気強く続けてください。

さて、ここまで準備が出来たら、このガイドラインをメロディーの入口として発展させる練習に入ります。

最初は小節内にコードトーンを使ったメロディーを作ってみましょう。
これなら最初からあまりコードスケールに自信がない人でもチャレンジできます。

ただし、一つだけお約束が。。。。

先の表記の所でも触れましたが、ドミナント・セブンスコードでいわゆる王道的なメジャー・キーのV7(まぁ、俗にミクソリディアンと呼んでもいいでしょう)と、微妙に変化した形を持つドミナント・セブンスコードを識別する事がジャズの演奏ではとても大きな意味合いを持ちます。

表記の場合は先に述べたように変化している事をb9thで表示するようになりつつありますが、それと連動してb9thを含むドミナント・セブンスコードのところではコードトーンの「ルート(根音)」を使わずにその代用としてb9thを使いましょう、というもの。

つまり、王道的なV7と、それ以外の形のV7を明確に弾き分ける訓練。

その為にも、コード表記での分別(V7 or V7(b9))が徹底していなければならないのですね。

この短い8小節の中でさえ二種に分別されますよ。

王道的なのは7小節目のC7、そして8小節目のF7。
変化しているのはそれぞれ(b9)と表記しているドミナント・セブンスコード。

F7はこの曲の本当のV7ですから問題ありませんが、C7はなぜ王道の仲間入りをするのでしょう?

それは、まずテーマのメロディーにヒント。メロディーが“D”つまり9thです。
これで正解が出ているのですが、サブとして調号にも注目しておいてください。この調では“G”のところにフラットは付いていませんね? メロディーだけでは判断出来ない時にこの知識は役に立ちます。

では、それらを加味してガイドトーンにコードトーンを結びつけてメロディー作りのシミュレーションをやってみましょう。


こんな法則を自分で定めています。

・ガイドトーンの下でオクターブ以内のコードトーンをガイドラインの向きと反対方向に並べる
・b9thを含むコードの時はルートをb9thに置き換える

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他の曲でも試してみてください。
ガイドラインをメロディーの動機として展開をコードトーンに求めた短いモチーフによるインプロの練習になります。