想像力:今度は調号も無い!? コンテンポラリーな曲で 2012/7/27掲載
古典的なスタンダードの例だけでは現在のジャズの現場の事例に適合しないので、今日はコンテンポラリーな事例を。
インスト音楽としての発展が急速に進んだ70年代以降、ミュージシャンが取り上げる曲は専門の作曲家の作ったものから、ミュージシャン自身が自らの音楽を確立する為に作曲するオリジナル曲へと主流が移ってきました。
より面白い音を、よりおもしろい響きを、という方向で様々な周囲の音楽と融合しながら、ジャズがインスト音楽として生き残って行く為に選んだ道は、大きな枠組みのジャズの中のカテゴライズ、つまりピバップだとか、クールジャズだとか、モードだとか、スイングジャズだとか、ジャズロック、フリージャズ等々、、、これまでジャズという枠組みの中で歴史的に区切られていた「流行」的カテゴライズから、より個人のスタイル的カテゴライズへと細分化されて行ったわけです。
「ジャズと言えばナニナニ」
「トランペットと言えばダレソレ」
「新しいジャズと言えばカクカク云々・・・」
こういう大雑把な横並び的な枠組みをこの時にジャズは放棄したわけです。
最初の内は、新しさばかり求めて古きを否定するところから始まりましたが、この細分化された個人的スタイルが成熟すると同時に、ジャズは古典から現代までが共存する一つの成熟したジャンルを形成するようになりました。
このような流れの中で、作曲の面でも大きな意識改革が起こり、新しいサウンドを演出する為に旧来のやり方からより自由なやり方へと進化した面があります。
その代表的な事例が、調号を用いない記譜スタイル。
一時的な転調のスリルや、展開としての衝撃をスコアリングする際に、従来のように一つのキー(調)の中だけではストーリーを負えなくなったのです。
今日は、そんな譜面に出会った時の事例。
ギターリスト、ジョン・スコフィールドのロマンチックなワルツに“Do Tell”という曲があります。
特にこの曲の展開部は、リリカルで何度繰り返して演奏しても心に沁みて大好きです。
しかし、この曲はこんな風な記譜になっているのですね。
ラストタイムはこの部分をBISしてソロを演奏しますが、さて、それぞれのコードスケールを探ろうにも、調号がありませんから初見の時は困惑してしまいますね。
もちろん、この曲はCメジャーのキーではありません(笑)
ここで、調号を用いない譜面のある程度の大原則を。
・基本的にコード間の結び付きによる調性が確立されていない部分はノン・キーシグネチャー(調号が無いまま)
つまり、コードとコードの繋がりが示す調性が手掛かりとなるわけです。
これまでのコードスケール・アナライズの順位(1位コードトーン、2位メロディー・ノート、3位コードの連携、4位調号)の選択肢から、形の上では4位が消えてしまうわけですね。
このコード進行をよく見ると、ある事に気付きます。
それは・・・・
||マイナーセブンスコード|→| next ||
マイナーセブンスコードを経て、新しい何か(展開)に進み、再びマイナーセブンスコードを経て新しい何か(展開)、の繰り返し。
この「何か」の部分は、最初はブランクで良いでしょう。
と、言うのも、この「何か」の部分に登場するコードはドミナントコード系が多く見えますね。
ドミナントコード系は、ジャズでは複雑なコードスケールの形が何種類もありますからチョイスに若干時間がかかります。
そこで、初見で演奏を進める場合は、取りあえずブランクとしてコードの流れやバックが出すコードヴォイシングに「聞き耳」を立てるのに集中します。
そこで、比較的チョイスの少ないマイナーセブンスコードのコードスケールを想定しながら演奏を進めましょう。
チョイスが少ないと述べましたが、それはこのようなコンテンポラリーなジャズの場合、一つ一つのコードの連携に最小必要限の「主張」を盛り込む場合が多いのです。
つまり、マイナーセブンスコード一つでも他のコードの助けを借りずに調性を誇示できるコードスケールを有するもの、すなわち、特定の調の影響を強く受けるアヴォイドノートを含まない、サブドミナント系ドリアン・スケールである場合が多いのです。
これは、古典的なジャズのコード進行にみられるIIm7→V7のIIm7と同じスケールでもあるわけですね。
そこで、特に問題が無ければ、この部分のマイナーセブンスコードをドリアン・スケールと仮定して、次のように一定の形を当てはめて演奏し、いろいろな事を探る土台を作ります。
コード進行をみる限り、Bm7-E7(b9)とFm7-Bb7(b9)のところのマイナーセブンスコードは確実にドリアン・スケールでしょう。
また、続くEbm7-A7(#11)のところも変形しながらもドミナントセブンスコードへの進行なのでドリアン・スケールと仮定して問題無さそうです。
この全体の流れからAbm7もドリアンスケールと仮定して問題無さそうです。
では、一つテーマを決めましょう。
各コードの最初に弾く音を決めるのです。
実音で連想するのではなく、コードスケール上の何の音であるのかを。
そこで、ドリアンスケールですから、安心して使える9thを最初に弾く事として、下行するモチーフを描いてみましょう。
それぞれのモチーフの最後の音が、次のコードに進行した時、なるべく近くてアヴォイドノートとならない一音として何が聞こえて来ますか?
同じモチーフを二拍めから始めて、次に来る音を想像してみましょう。
これを想像する事で、次のコードのコードスケールも連想出来るはずです。
理論と想像。
この二つのフィルターを通してこの部分の「想像的アナライズ」が始まるのです。
面白いでしょ?
|