洗練されたインプロを考える - さらに飛躍の練習 2012/6/15掲載
“The Girl from Ipanema”でソロのアイデアを公開中。
今度は先週の用法をこの曲のブリッヂで検証してみましょう。
まずは各コードのコードスケールを割り出して準備を。
このブリッジのコード進行は、最初とても難しく感じました。
しかし、メロディーを弾きながら、コードトーンを弾き、冷静に頭の中でメロディーにも無い、コードトーンにも無い、間の音を想像して埋めてみると、何だかとてもスリルがあって面白く、ドラマチックな感激がありました。その感動が未だに忘れられないからインプロをするのです。
ここでコードスケールの話しを。
この部分のコードスケールを描きます。
それぞれのコードスケールにちょっと「気になる」音を一つ見つけてマーキング。
その「気になる」音がその箇所のコードスケールを最も強く印象付けているのです。
演奏する時に、マーキング(↓)された音からメロディーを始めてみるといいでしょう。
次はもう少しシステマチックに。
コード進行を最小限の単位で連携させると、この曲のこの部分は2小節単位で「ハーモニーが連鎖」しているのがわかります。もう少し抽象的に書くとメロディーと同じようにハーモニーにも「動機」→「展開」という結び付きがある、という事です。
演奏する上で、この結びつきを知っておくのは重要で、その流れに沿って自然にメロディーを連想すれば良いわけです。
その核となるのが最小限の連鎖。
つまり二つのコード間で音が変化する音程の最小単位、「半音」の変化を見逃さないということです。
二小節単位で結んでみましょう。
まずは・・・
それぞれ前のコードスケールから半音で結ばれる音をピックアップしただけですが、コードを弾きながらこれらの音を結ぶと綺麗なラインが生まれます。
あ、今アップして気付いたんですがB7(#11)の所はナチュラルを入れ忘れました(笑)
ちゃんと解説を読んでないと「不思議ちゃん」になってますよ。
まだあります。
先ほどのラインは半音で次のコードのroot(コードの根音)に解決する超安定志向でしたが、演奏の上ではベースなどのハーモニーを支える楽器やパートが必ず出しているrootの音に重複してしまうとメロディーが終わってしまったり吸収されてしまったりして面白味がありません。
そこで、なるべくrootの音に向わない位置での半音の連携を見つける事にします。
この動きを最初に発見した時の感動は忘れません。
アヴェイラブル・ノート・スケールの存在を知る前の事でしたから。
譜面では3-4小節目にダブルバー(複重線)がありますが、ココではあまり意味がありませんから無視して二小節を一つのブロックとして見てください。
ちなみに4小節目の音はC。小節を超えてタイで結ばれない場合は調号通りにリセットされる大原則に従って書いています。
次はコードスケールによる連鎖の練習。
コードスケールは文字通りそれぞれのコードが固有に持つスケールの事ですが、練習に於いてコードの根音(root)から始めるスケール練習で終わってしまいがちです。
これは他のスケール練習でも言えるのですが、楽器のフルレンジで該当する最低音と最高音を結ぶスケール練習に変更する事を薦めます。
いつもコードの根音からしかコードサウンドが連想できない、と悩んでいる弟子達は根音からスタートするスケール練習しかしていませんでしたから。
同じ原理で、コードスケールの連鎖を体得するには、(ほぼ)同じレンジから同じ音符の数で上下するコードスケールを並べて連鎖の練習をするのです。
この時にどこかにマーキングとなる音を設定してハーモニーの動きをチェックするとより感動的な練習に繋がります。
僕は上下する音が同じ拍で聞こえる場所にマーキング(↓)するのをお薦めします。
ここまでが、まだアヴェイラブル・ノート・スケールを知らない高校の頃に「大発見(笑)」して感動していた頃の練習マテリアルです。
ハーモニーとメロディーとの強固な連携に興味が沸いたのは言うまでもありません。
少なくとも、それまでに楽器のフルレンジで普通の長調・短調のスケール練習をしていたのでこの発想に結び付いたと思うのですね。
これを少しずつ発展するヒントについて続けましょう。
・音楽には「理論」から入らない。→音楽に先入観を持つな!全てに興味を持て!
自分の中に「興味ある音」が無い内に理論をかじると変な固定観念を生む事があります。
・「慣れ」たと思ったら理論を勉強。→慣れだけで演奏するな!時代と共に変化しよう!
そういう事の繰り返しで自分の音楽も演奏も確立して行けばいいのです。
構造はシンプルなほうがいい。
ここでまだ出来る事はあります。
コードを見ながら演奏する時に、ある一定の音域にメロディーを閉じ込めると、コードの流れをメロディーに反映しやすくなります。
コードが変わっても、ほぼ同じ音域の音からメロディーを始め、ほぼ同じ音域の音でメロディーを終わるようにすると、コードスケールを横に繋ぐ演奏が出来ます。
出来るならメロディーのリズムも同じ、当然音の数も同じ、という「制約」の中で発見をしてみましょう。
最初にメロディーを始める位置を決めます。
冒頭のコードGbMaj7の7th辺りから単純に下降するラインと、もう一つ別の位置から下降する二つのラインを設定します。
この時に同じ音は(オクターブも含めて)それぞれのラインに含まないようにします。
(最終小節のC#はCが正当。シャープを消し忘れていました。ごめんなさい)
次にそれぞれのラインを個別にまとめたメロディーを並べてコードスケールを横に繋ぐ練習をします。
コードスケールの変化によってメロディーが徐々に変化して行くのがわかるでしょう。
その時に半音のエッジの部分がそれぞれのコードサウンドを特徴付けているのがおわかりいただけると思います。
■シンプルなラインを使った演奏-ダイアトニック・ライン
コードの連携がそうであるように、メロディーの連携に於いても「半音」の印象は「全音」の結び付きよりもドラマチックです。
シンプルなラインを今度は8小節間連続下降させて、その時々(コード毎)の変化を楽しみましょう。
それぞれのコードのエッヂがキャラクターの決め手という事です。
ではここで質問。
このシンプルなラインは9小節目に来るコードGm7では何の音に進むでしょうか?
Gm7はこの譜面の調号でコードスケールを判断してください。
答えは本日の文末に。(→質問1)
■シンプルなラインを使った演奏-アプローチ・ライン
同じ要領で今度は可能な限り同じ音域の音だけでシンプルなメロディーを作ります。
次のコードの直前に来る音はアプローチ・ノートとして半音上の音をコードスケールと関係なくチョイスします。(↑=アプローチ・ノート)
アプローチ・ノート(↑)の位置にコードスケール上にある音、本来ならアヴォイド・ノートとなるべき音、などが来る場合もありますが、それは解釈の相違です。
アプローチ・ノートは次に来る音に対して設定する音なので全ての半音が使えます。
この場合はメロディーの流れが下降しているので半音上の音を設定しています。
つまり、そこに設定した音が「たまたまコードスケール上にある音と重なっただけ」なのです。
では、本日二つ目の質問です。
このメロディー・ラインは9小節目に来るコードGm7では何の音に進むべきでしょうか?
Gm7はこの譜面の調号でコードスケールを判断してください。
答えは本日の文末に(→質問2)
本日の答え
■質問1/C
■質問2/A
では、再びターゲットノートの話しに戻ります。
これを前回と同じように、次のターゲット・ノートに向けてコードトーンのステップで結ぶとメロディーの跳躍が起こるわけで、これまでどうしたらメロディーが「動くのか」を悩んでいた人には心強い味方が登場したわけです。
ちゃんとコードトーンによるステップという動機もありますからね。
今回はそのステップからrootの音を省いて9th(コードスケールによってはb9thも含む)に置き換える、というシンプルな作業。
この9th(b9thを含む)は元々、ターゲット・ノートとして選んだ音なので、メロディーとして取り込むのに抵抗は無いはずです。
FMaj7とG7の場合の例を示します。
シンプルだけどメロディーの持つニアンスの変化にはとても効果的な方法です。
さて、これでこのブリッヂの部分を全部演奏してみましょう・・・・
と、
その前に、
さっきのターゲット・ノートの設定の譜面に最後の4小節が欠けていましたね。
実は、この部分で質問を受けたのでちょっとピックアップします。
この部分のメロディーを見ていただけるとお気づきかもしれませんが、Am7の時にメロディーに思いっきりアヴォイドノートの“F”が含まれていますね。
この“F”、つまりb13thは使っても良いのですか? という御質問をいただきました。
ズバリ言いますと、「使ってはいけません」。
アントニオ・カルロス・ジョビンをバッサリと斬りますか!?
いえいえ、そんな気はさらさら無く、むしろ最も尊敬する作曲家でもあります。
ただし、この曲が作られた1962年当時の音楽状況では「やむを得ない」、と言ったほうが良いでしょう。
もしも、これが今なら、たぶんこのように表記されるはずです。
つまりこのメロディーには“F”の音は不可欠である事と、このメロディーには“A”から積み上がるコードサウンドが不可欠である、というアントニオ・カルロス・ジョビンの意図を尊重した形を表わす表記が現在では存在する、という事を知っておいてほしい。
ただし、この部分をF/Aとする事なく、オリジナルをリスペクトしてAm7と表示しているので、key of F の IIIm7 としてアヴォイドノートが二つ存在する。つまり“Bb”と“F”だ。
この部分のAm7はb9thなのでアヴォイドノートをターゲット・ノートには出来ないから11thで代用する事とする。
今後同様の問題が起こった場合は、このようなテンションで対処をしましょう。
b9thがアヴォイドノート → (11th) (#11th) or (13th)
11thがアヴォイドノート → 9th (b9th) & 13th or (b13th)
b13thがアヴォイドノート → 9th (b9th) or (11th) or (#11th)
( )内は該当するコードスケール上にアヴォイドノート以外で存在した場合のみ有効
さて、では、このブリッヂの部分でどのように跳躍したメロディー・ライン(ステップ・ライン)が作れるだろうか。
前回も解説したが、ステップ・ラインの音域を次のターゲット・ノート寄りとするか、現在のターゲット・ノート寄りとするかはそれぞれの趣向で判断するので自由だ。
僕なら、こんな感じで演奏するなぁ・・・・
曲はこのままFMaj7へと進むので最後のメロディーは短三度上のGを目指します。
答えは一つではないから面白いんだよね。
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