ペダルは踏み方に御用心! 2014/2/7掲載
マリンバとヴィブラフォンはよく似ていると言われますが、いくつかの決定的な違いもあります。
一つが鍵盤の素材。マリンバの鍵盤がローズウッドを基調とした木材で出来ているのに対してヴィブラフォンはアルミ合金による鉄材で出来ています。
この二つの違いはひとえに音の伸び方にあります。
木を使ったマリンバの鍵盤は音の余韻が小さく、急激に余韻が減衰するかのように聞こえます。実際には打撃音が伸びないだけで余韻は続いているのですが、一般には“伸びない”とされます。
対してヴィブラフォンは金属である為に振動が長く続き打撃音の減衰も緩やかなカーブを描いて持続されます。つまり一般には音が“伸びる”とされます。
音が伸びないならそれを補足する技術としてマリンバ独特の奏法にロール(トレモロ)があります。マレットを小刻みに動かして余韻が消える前に次の余韻を足は続けるのです。
厳密には一つ一つ音が切れているのですがそれを綺麗にロールする事で奏法として成立しています。また、楽器の側でもなるべく余韻が続くように鍵盤を加工したり、共鳴管の精度を上げる工夫をしながら楽器が進化しています。
音が伸びるなら伸びるで、今度はそれを意のままにコントロールする技術がヴィブラフォンでは発達しています。一つはマレットや手を使ったミュート奏法のマレット・ダンプニング。発想は単純でペダルを踏んだ状態で任意の音だけ残して後は消すというものです。ゆっくりの時はその仕組みが頭でも理解出来ますが速くなるとなかなかコントロールが反射神経と連動するまでに時間がかかります。
そして、もうひとつがペダルを使うテクニックなのですが、ペダル自体の仕組みは単純ながらどのようにペダルを踏むかはそれぞれバラバラです。
今日はその部分を解説してみます。
っえ?
たかがペダルに「正しい踏み方」なんてあるの(笑)
ハハハ、正しいというのは語弊がありますが、踏み方というのは実はあるんですよ。
っえ? ピアノに「正しいペダルの踏み方」なんてないよーって?
ピアノは椅子に座って弾く楽器なのでおのずとペダルを踏む位置は決まってきますよね。
もしもこれをピアノに当てはめるとしたら、たぶん、「正しいピアノの椅子の調整法」みたいなもんです。
つまり、ヴィブラフォンは立って演奏するのでペダルに対する姿勢というものを考えなければならないのですよ。
意外とみんな見落としがちですが・・・・
■ペダルの種類
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大別するとヴィブラフォンには二種類のペダルが用意されています。
一つは標準のシングルアームタイプ(単にペダル)
もう一つは横長のバータイプ(U-ペダル)
もっと横長のバータイプのペダルの場合はアームが両サイドから伸びるダブルアーム式の場合もあります。
メーカーによってそれぞれオプション設定のあるものと標準のシングルアームペダルのみ設定のメーカーがあります。
どちらが良いか、という事よりもバーペダル(U-ペダル)のユーザーがシングルアームペダルの楽器に替えた時に戸惑う部分に、ペダルの使い方、正しくは「ペダルの踏み方」の極意があるわけです。もちろんペダルの無いマリンバの人は言うに及ばず。
それぞれに利点と欠点はあります。
例えばバーペダルだと低音から高音までペダルが横に連なっているので同じ姿勢のまま操作が出来そうです。吹奏楽などに多くみられるタイプなので万人受けするのかもしれません。他の打楽器を並べて演奏するマルチパーカッションのエリアでも他の楽器と同時に演奏する時に利点があるかもしれません。欠点はペダルが重い(左右からの重圧に耐えられるよう頑丈なバネを使っている)事です。
シングルアームペダルの利点はペダルの角度を自在に調節出来るので自分の好みに合わせて固定出来る事です。構造がシンプルなのでダンパーに与える影響が少なく壊れにくい事。欠点は・・・・そう、その欠点とされるところに大きな誤解があるようなので今日のこのテーマとなりました。
■シングルアームペダルの仕組み
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楽器を見るとわかると思うのですが、鍵盤は低音側の幅が広く、高音側の幅が狭くなっています。
それと同時に立ち位置側から楽器を見ると・・・
低音側の鍵盤が長く、高音側の鍵盤が短くなっています。
この楽器の形がペダルの踏み方を決定させるのです。
長い低音側ほど手前に張り出し、短い高音側に向かって鍵盤の端が斜めに並びます。
これは楽器の中央部を一直線に横切るダンパーで消音させる為に、長さの異なる鍵盤の片方を揃えるからです。
楽器の形に沿ったペダルの踏み方が当然あるわけで、それをマスターしないとペダルが厄介者扱いされてしまうのです。
ペダルは真ん中の基音のA(A=440)の音の真下に踏みしろが揃うのがベストで、これ以上手前に飛び出すと身体が楽器から離れ過ぎ、これよりも奥に引っ込むと身体が楽器に近づき過ぎになります。
微調整が必要な場合はメーカーに相談してみるのも手です。
通常は真ん中の角度で固定して使いますが、好みによってペダルの角度は変えられます。
ほぼ真ん中の状態
やや右(楽器に向かって)に傾けた状態
■シングルアームペダルの使い方
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(1)セッティング
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ペダルは接地面とどのくらいの高さ(間隔)にセットするのが良いか? という質問をいただきましたが、これは好みがあると思います。ただ、後に説明するペタリング・テクニックと合わせて考えると極端に接地面へ近づけないほうが操作しやすいと言えます。
僕は場合は指二つ~三つが目安です。
また、高めのセッティングでは、ボディーとダンパーを繋ぐ両サイドのアームが踏むとボディーぶつかるようなセッティングは避けるべきです。
もう一つの重要な注意点。
シングルアームペダルの付け根のネジ(本体とペダルを繋ぐネジ)は自分の好みの位置を見つけて固定するためのもので、ペダルを左右ぶらぶらの状態で使うものではありません。
自分の好みの角度にペダルを調整して“しっかりと”ネジを〆て固定して使うのです。
この部分、メーカーによっては左右の角度を数段階に切換えて固定出来るタイプのものもありますが、決して緩々で使うものではありません。
演奏中に緩んでペダルがあらぬ方向に向いてしまったり、最悪の場合は本体から外れてしまうので危険です。
また、ツルツルの靴底の場合ペダルが滑ってしまう事もあります。
意外とこの部分の使い方を誤解している人が多いようなので注意しておきます。
※誤解が生じる理由は次の立ち位置の話しを読むとその誤解が解けるでしょう
(2)踏み位置
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先に述べた通りペダルは真上から見て、Aの音盤の端にペダルの先が揃うのが理想です。
ペダルの形状はメーカーや機種によって様々。
標準的なシングルアームペダルは幅も狭いので踏む位置は殆ど変わらない(Muser M55)
踏みしろの大きなワイドタイプのペダルは好みの位置でOK(Musser M55GJ)
標準は真ん中を踏む(Musser M55GJ)
ただし、真ん中でも奥深くまで足を載せてしまうのは微妙なコントロール(後述)が出来ないのでお薦めできません
×
あまりお薦めしない踏み方(微妙なコントロールが出来ない為)
(3)ダンパーコントロール
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ペダルの操作の中には次のようなコントロールが必要で、それらに支障をきたす踏み方は良くないと言えます。
(1)オープン・ペダリング
完全にペダルを踏んで接地させた状態。長い余韻が必要な時に使う。
(2)ハーフ・ぺダリング
オープンぺダリングからペダルを徐々に戻すと、少しだけ鍵盤にダンパーが触れて余韻をコントロール出来る位置がある。それがハーフぺダリングの位置で、通常レガートスタッカートなどこまかいニアンスと連動して次のクローズドぺダリングとの間を小刻みに行き来します。ヴィブラフォンを演奏する時にペダルから足が離せないのはこの為なのです。
また、カンピングの時にもブロックコードのニアンス付けとして多用します。
(3)クローズド・ぺダリング
文字通りダンパーを鍵盤に付けた状態ですが、演奏中はこの状態でもペダルから足を離しません。
これらの操作は繊細な動きを伴うので立奏中は常に身体の重心を片足で取らなければなりません。その為にも「立ち位置」と「踏み方」は重要で、このバランスが悪いと妙に疲れたり、足がつったりします。
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