WEB-CLINIC-1
ジャズ・ヴィブラフォン小史と奏法クリニック 初級編 /赤松敏弘
1997年ホームページ開設当時の小史に新しい情報も織り交ぜて最新版に更新しました。開設当時の解説は本文の後にあります。合わせて御覧下さい。
隔月刊『ジャズ批評 2022年5月号』特集ジャズ・ヴィブラフォン120人(海外100名 国内20名)という前代未聞の特集にならって、あれこれを書いてみます。
photo by R. Aratani
2022/5/6掲載
【楽器講座】今さら聞けないヴィブラフォン、マリンバの秘密/ここでも勝手にヴィブラフォン祭り 金曜:vibraphoneやmarimbaの為のジャズクリニック、金曜第六百四十七回より引用。
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■ヴィブラフォン小史 (2022年更新版)
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そもそもヴィブラフォンという楽器の成り立ちはあまり知られてないようなので、ヴィブラフォン祭りとしてその辺りの事をまとめてみます。
ヴィブラフォン。vibraphone はアメリカで生まれた楽器で、正確には ヴァイブラフォンと発音するのが一番良いのだけど、なぜか日本では ビブラフォン という呼び名が通り一般的でした。しかし、ネットの時代になって vi の発音を“ビ”と書くのに抵抗のあった僕らが「ヴィ」という書き方をテキストに使う事によって、ネットの世界では徐々にヴィブラフォンと書くのが主流となり、先の「ジャズ批評」誌でもその表記が採用されるまでになりました。
さて、このヴィブラフォンの誕生に関しては1929年にアメリカのディーガン社(J.C.Deagan Company of Chicago)が発明したのがヴィブラフォン界では定説です。一部で1921年と記されているものもありますが、それは誤り。
アメリカでマリンバが開発された後に、鍵盤に違う素材で楽器が作れないかと開発が始まり、スチールを素材とした金属鍵盤を開発するに至って スチール・マリンバ (Steel Marimba)もしくは スチールフォン(Steelphone)が1927年頃に出来上がりました。しかし余韻はそれほど長くなく、面白味の無い音色だったので、当時はやり始めたハモンドオルガンのロータリースピーカーにヒントを得て、共鳴管の上部に回転翼(ファン)を取り付けてみたところ、独特の響きがするのでこれが採用されました。マリンバよりは残響時間が長いので、これをして“トレモロ”効果としたかったのでしょう。音色は“WOWOW”と言う感じでお世辞にも綺麗なものではありませんでしたが、面白味はありました。
その後、アルミ合金(ジュラルミン)の加工が始まり、スチールよりも柔らかく、軽量で、音の延びが遥かに良いアルミ製の鍵盤が発明され、これをスチールフォンのボディーに載せたものがヴィブラフォンの原型で、鍵盤がアルミ合金に乗せ替えられたのが1928年。でも、これだけではまだ完成しませんでした。それまでのスチールフォンと余韻の点でかなり性格の異なる楽器となるからです。
主な改良点は二つ。
まず余韻が長い為に、消音装置が必要となりました。
ピアノのようにペダルとダンパーの設置が必要です。
その為にマリンバから派生したスチールフォンのボディーには基音側と派生音側に段差が生じていたのを、ダンパーを装着する為にフラット(両方の鍵盤が水平に並ぶように)なボディーへの改良です。
こうして1929年に出来上がったディーガンのアルミ・マリンバが今日のヴィブラフォンの原型。
つまりヴィブラフォンの為の発明はトレモロ装置ではなく、ダンパーとペダルだったのですね。
1929年の完成というのは僕の恩師でもあるゲイリー・バートン氏も明言しています。
さて、そのトレモロ装置。
時々、電源はONが普通なの ? OFFが普通なの ? という質疑応答を見かけます。
答えは、「どちらでもよい」です。
吹奏楽や現代音楽では,このトレモロ(ビブラート)装置の「ON」「OFF」が指示されているはずで、何もなければ「どちらでもよい」なんです。
作曲者やアレンジャーの意図が細かく反映される作品の場合トレモロのスピードまで指定される場合があります。
それ以外の場所では、このトレモロ装置の使用は演奏者の好みで判断するものです。
ある音楽大学でのセミナーの時、学生の演奏を聴いたデイビッド・フリードマン氏が言いました。
「あなたは、そのビブラートの掛かった音が好きなのですか? もしも好きでもないのなら止めるべきです」と。
正にその通り。
僕の楽器は最初からトレモロ装置を取り外しているのでONもOFFもありませんが・・・(笑)
一つだけ言える事は、自分の演奏に自信がついて来た頃から、ビブラートの有無を問われる事がなくなりました。機械で付けなくても自分の演奏で抑揚が表せるようになったのだ、と解釈しています。あくまでも効果ですから、それは自分で決めてかかることです。もちろんトレモロを付けたり付けなかったりもありですが、一つの楽器の表現を追求するならどちらかにすべきなのは言うまでもありません。
叩くマレットは綿巻きがいいか、毛糸巻きがいいか。
これもよくある質問ですが、これも「どちらでもよい」です。
日本の楽器メーカーでは、何故かマリンバは毛糸巻き、ヴィブラフォンは綿巻き、みたいに棲み分けがあるのですが根拠は不明です。
綿巻きのマレットは粒立ちや音色のソリッド感に優れますが、マレットダンプニングには向きません(鍵盤との接地ノイズが大きい為)。
毛糸巻きのマレットの欠点を思い付きません。僕も毛糸巻きを長年使っていますが、綿巻きの時代もありました。つまり「どちらでもよい」んです。お気に入りであれば。
また、マレットのハンドルの素材に関して、ラタンがいいか、バーチがいいかと言う質問もありますが、これは自分のグリップに合う素材を選べばいいんじゃないでしょうか。
一般的には、4本奏法の場合、クロスグリップはラタン、スティーブンスグリップはバーチとわかれます。これはクロスグリップに対して音圧の弱いスティーブンスグリップの弱点を補う為にハンドルがしならないバーチで音量を稼ぐためとされています。
ただ、マリンバと違い、ヴィブラフォンの4本奏法はクロスグリップ用に出来ているのでこの点で悩む人は少ないはず。
また、ヴィブラフォン奏者はほぼ決まったマレットで演奏全てをこなします。マリンバ奏者の様にアレコレ多種多様のマレットは持ち歩きません。「自分の音」というのを全ての軸に据えているからです。
大雑把に、ヴィブラフォンの概況を書いてみました。
お役に立てば本望です。
2022年6月22日追記
以下はホームページ開設時の小史になります。
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■ヴィブラフォンの歴史と代表的な演奏者
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この解説の一部は1984年から86年にかけてマリンバ・コミュニティーとしてマリンビストである安倍圭子さんが首監された「marimba debut」の機関誌「marimba debut」第2号、第3号、第4号に掲載された「Vibraphone Information/赤松敏弘」の原稿の一部を引用して作成しています。
この楽器の生い立ちについては様々ありますが、誕生は1930年代にアメリカでという説が有力です。1920年代にはマリンバの鍵盤を金属に変えたメタロ・マリンバ、叉はスチール・マリンバと呼ぶべきものが出来ていたようです。
その金属鍵盤の“マリンバ”に共鳴管の中にファンを仕込んで回転させヴィブラートを起こしたものがヴィブラフォンに近いものです。
しかし、その楽器にはまだペダルがなく、十分な余韻は得られませんでしたが、楽器メーカーのディーガン社が金属鍵盤を余韻の長いアルミ合金に乗せ変え、ペダルを装着したものを「ヴィブラハープ」という名称で発売したのが現在のヴィブラォンの歴史の始まりとされています。
誕生時はオーケストラの中での打楽器で使われましたが特に奏法的なものはマリンバや木琴と変わりなく、この楽器の技術的な発展は1930年代にライオネル・ハンプトンがレコーディングで用いた事からジャズによって開拓されました。その理由として考えられるのは、楽器としては比較的新しい部類に属するので人工工学的に響きやヴィブラートを発生できるように作られている事、素材に鉱物を加工した合金類を使っている為、工作が比較的簡単であり、製品として安定した品質レベルの供給が可能である事等、何百年もの歴史により発展してきた楽器と比べると正に現代っ子のごとくドライな気質を持っています。そのような特にクセを持たない性質の楽器であれば、使う為の技術はさほど必要とせず、使われ方(楽曲での使い方)で楽器の技術的な発展が行われます(今日のシンセなんかもこの技術が発展して開発されていたはずなんですけど・・・・)。すると演奏のスタイルに比重を置くジャズの特にインプロヴィゼーションと結びつくのは楽器の素質から考えると当然の事だったと言えます。
[主な演奏者について]
もっとも最初にこの楽器でポピュラリティーをおさめたプレーヤーとして「スターダスト」というスタンダード・ナンバーを演奏したライオネル・ハンプトンがいます。やや硬質の2本マレットによる名演は御存知の方も多いでしょう。同じように、楽曲でのポピュラリティーはありませんがスタイル的に3~4本のマレットを使ってハーモニー的な分野を開拓したレッド・ノーヴォがいます。現在ヴァイブを演奏する人には2本のマレットで演奏する人と、4本のマレットで演奏する人がいますが、原点を辿るとこの二人に行き着くわけです。ちなみに、マリンバでは現在6本のマレットを使う事もそうめずらしくはないのですが、ヴァイブの場合はその分野での開拓はみられません。これは楽器の音域によるものですが、ヴァイブで6本もマレットを使うと楽器の音域を飛び出すマレットがあって合理的ではないのです。また鍵盤の並び方も段差のあるマリンバと段差のないヴァイブではマレットの当たる位置も違い、半音側の鍵盤との距離もあってあまり効果を期待できません。もうひとつの理由としてジャズの場合、コードの演奏を行う時にChord ToneをTensionに置き換えて演奏しますから、4Way voicing(4声)で十分足りてしまうのです。そんな理由でこの6本のマレットによる技術的な発展や開拓は演奏者としてのメリットが見られないので殆ど手付かずの状態です。昔トライした事はあったのですが、そんな理由で僕も4本で十分だと思っています。
話が脱線しましたが、その後のヴァイブの発展を辿ると、2本マレットでは50年代のバップ(Be-Bop)と呼ばれたスタイルから出発し60年代のMJQというユニットで活躍したモダンジャズでの代表であるミルト・ジャクソン、4本マレットでは60年代にジョージ・シアリング(p)やスタン・ゲッツ(ts)といったグループで活躍後ジャズ&ロック(今日のフュージョンの源)といったシーンから現在を代表するゲイリー・バートンがいます。その他にも多くのプレーヤーがいますが大別するとこの二人のスタイルを受け継いでいます。
全てのプレーヤーを聴く事はできませんが、僕の聴いて来たプレーヤーを参考として以下にあげておきます。 CDショップによってはジャズのコーナーでも「その他の楽器」なんて場所にアルバムがあるかもしれません。
ロイ・エアーズ、ボビー・ハッチャーソン、カール・ジェイダー、デイヴ・パイク、マイク・マイニエリ、デヴィット・フリードマン、デヴィット・サミエルズ、レム・ウェインチェスター、ウォールト・ディッカーソン、こんなところです・・。けっこう少ないですね。よく考えてみたら他の楽器ばかり聴いてました(ハービー・ハンコック、キース・ジャレット、ビル・エバンス、ポール・ブレイ、チック・コリア、アントニオ・カルロス・ジョビン、ライル・メイズ、etc・・・。ピアニストだけでもとても1pageでは足りないようです)。それほど世界的にも演奏者が少ないのですね。
今日ではネット上でYouTubeなどを通じて歴史的なヴィブラフォン・プレーヤーの動画を見る事も出来るようになりました。
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■4本マレット講座/初級編
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[マレットの使い方]
この解説の一部は1984年から86年にかけてマリンバ・コミュニティーとしてマリンビストである安倍圭子さんが首監された「marimba debut」の機関誌「marimba debut」第2号、第3号、第4号に掲載された「Vibraphone Information/赤松敏弘」の原稿の一部を引用して作成しています。
[マレットについて]
演奏する時に使うスティックの事をマレット(mallet)と呼びます。通常ヘッド(叩く部分)は球体で所謂スティックの先にコレが付いています。形状的にはティンバニィーや大太鼓と同じ種のスティックです。 持つ部分は籐(rattan)が主流で、比較的しなやかな素材。グラスファイバーの物もありますが、極少数です。このマレットはヘッドの材質の硬度で楽器の音色を左右します。楽器との相性から言えばミディアム・タイプのものが無難でしょう。ヘッドの大きさは好みのあるところですが、4本持つのであればごくごく一般的な大きさが好ましく、重心がマレット全体の長さの4分の1から5分の1(ヘッド寄りの)あたりにあるもの、籐の反りが少ないものが良いでしょう。4本のマレットの組み合わせは、同じ硬度のものを揃えるのが基本です。2×2で演奏する事もありますが、4本バラバラというのは特殊な事情のない限りありません。
[グリッブについて]
特に推奨する持ち方はありませんが、基本的に腕を振り降ろした時にその反動を伝達する抵抗が多くない事を目安に自分で楽な方法を考えるのがベストでしょう。 但し、大きな音を出す為に力任せに振り降ろす事は厳禁。すぐ腱鞘炎になってしまいます。力を抜いた状態で大きな音が出せる、これはドラム等のスティック・コントロール等を参考に反動を利用する事を身に付けてからの方がよいと思います。 マレットを握る位置についてですが、さっき解説したマレットの重心と対になる位置を基本に考えて下さい。最も支点を利用し手に負担のかからない位置と言えます。4本の場合は片手2本となりますから、そのあたりでマレットを交差させると無駄な抵抗(4本を持つと最初はマレットが安定しないのです)がありません。
[マレットの使い方]
これは以前に書いた原稿を引用して解説しましょう。(Marimba debut 1984年第2号「Vibraphone Information/赤松敏弘 Vol.2」より引用)
ここでのポイントは4本のマレットそれぞれの役割を決める事てす。仮に楽器に向かって右から左へ!.2.3.4.と呼びます。 図1-aがそれを図解したもの。主に1と3のマレットを旋律用に使います。この二つのマレットが2本マレットの演奏と比較して遜色なく使える事が第一歩です。
では使わない(1と3で演奏している時に)2.4.のマレットはどうするか? まず、以上の事を前提にすると、鍵盤に当たらない位置に固定する事を考えますね。その為にはマレットの重ね方に一工夫必要です。右手の1.2.は1を上側に交差させます。左手の3.4.は4を上側に交差します。これで使わない2を思いっきり身体側に引き寄せる事が出来ます。親指を使って90度くらいの角度を保てば2のマレットが3のマレットと干渉する事を防げるはずです。左手の3.4.の場合は4が上に位置し鍵盤から遠いので問題ないでしょう(図1-b.図2.図3を参照)。又、右手の1を主旋律に使うのはジャズの場合、メロディーの下にvoicingする事が多いからだと思います。内側(2)を主旋律に使う事の多いマリンバとの違いはこの辺にあります。(当然ながら右手のグリップはスタンダード・グリップとは逆ですね)
[基礎的な4本マレット練習方法]
グリップが理解できたら、実際に自分で練習用のメソードを考えてみましょう。最初は鍵盤を使わなくても練習できます。これも以前書いた原稿を引用しながら解説します。(Marimba debut1985年第3号「vibraphone Information/赤松敏弘vol.3」より引用)
マレットは1と3を使って練習します。この練習は鍵盤を使わなくてもできます。 ドラムのパラリドルと同じ事ですが、これをマスターすると鍵盤に向かう時にかなり合理的な演奏ができます。基本的には左右のマレットを正確に交互運動させる事が第一です。しかし、4本と2本では動作がかなり違います、どうしてもシングルで演奏する時には使わない2,と4,のマレットが邪魔なのです。特に半音音階など弾こうものならバチバチ絡まってしまうなんて事もあります。 そこで、このパラリドルからヒントを得て手前の鍵盤(仮にナチュラル・バーと呼びます)と向こう側の鍵盤(仮にクロマチック・バーと呼びます)に使うマレットを固定する事を思いつきました。これによってかなりのロス(つまり内側のマレット2.3.の干渉)を防ぐ事が可能となり、2本マレットと比較しても遜色ない状態が生まれました。これでスケールや細かいパッセージも楽々。 もちろん交互に演奏できる部分はそれで良いのですが、コレを組み合わせた結果、2本マレットで演奏する時以上のスピードで演奏が可能となります。(B)の・.・.・.・.・.はその頃の練習用に作ったものです。ダブル、トリブルを使うと無駄なアクションをセーブしてかなり合理的なマレット・ワークが可能となります。皆さんもコレをヒントに自分で演奏法を開拓してみると良いと思います。最後に、このアイディアにつながるヒントを与えてくれた友人である元カシオペアのドラマー・佐々木隆氏と、かつての盟友であるドラマー上野好美氏(故人)に心より感謝の意を表します。
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■4本マレット講座-中級編
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●Muteについて
ヴァイブにはペダルを介してダンパーを操作し音の減衰をコントロールする機能が備わっています。マリンバを演奏する人に聞くと、ヴァイブを演奏する時に最もネックとなるのが、この残響の処理らしい。ペダルの操作は「ピアノと同じだよ」と言っても確かに立ってピアノを演奏する人は少ないし、シンセを演奏する人を見てもショルダー・キーボードを除いてあまり自然な格好には見えない。そう言った意味で純然たる立奏楽器であるヴァイブが同じ種のマリンバと比べて最も相違する残響処理ついてMuteの名目でまとめてみます。
奏法上ヴァイブで行うMuteにはいくつかの種類があって、いずれもペダルによるダンパーの操作と連係しています。同じ様なペダルによる操作で音の残響を処理出来る楽器にはピアノとシンセがありますが、ピアノやシンセの場合は鍵盤自体を押す(弾く)事によって残響が得られ、さらに複数の音や残響による効果を加える時に初めてペダルを踏みますが、ヴァイブの場合は鍵盤を叩く(弾く)時に何もしないと(つまりペダルを踏まない限り)鍵盤に密着したダンパーによって常に音はミュートされた状態にあって正確な意味ではピアノ等と若干仕組みが異なっています。ペダルを踏まない状態ではマリンバよりも音の減衰は急激に起こされるようなっており、演奏による表現全体から見るとペダルの操作と、連係するMuteはヴァイブの奏法ではかなり大きなウェイトを持っています。
●Dampeningについて (Pedaling Techniques)
ヴァイブ本体の足元にあるペダルを踏むと鍵盤に密着したダンパーをコントロールして音の長さ(減衰)を調節できます。踏み足に規則はありませんが、鍵盤が低音ほど長く手前に張り出している関係から、右足で踏む事が自然な姿勢となります。このダンパーを使って音をコントロールする事をDampeningと呼び、同じ鍵盤打楽器の中でマリンバと最も相違する点です。
ピアノのペダルと基本的には同じと解釈すれば、そのメカニズムは複雑なものではありません。しかしペダルを踏まないと音は常にダンパーによってMuteされている点に若干の相違点が存在します。ポイントとして、メロディーであれコードであれ、前後の音を重ねない工夫と一音一音の表情(アーテュキレーション)を微妙にダンパーの「あたり具合」で調整できればこの楽器の機能の内60%は克服できると言う事です。
片足でバランスを取りながらペダルを操作するにはちょっと時間が必要かもしれませんが、メロディーを演奏する時に管楽器のようなイメージを描くと何処でペダルを上げる(つまりダンパーを鍵盤に密着させてMuteする)べきかをニュアンスとして掴む事ができると思います。
ここでも過去の原稿から当時練習素材に作ったものを掲出してみます。イメージが伝わるとよいのですが。尚、この管楽器的なイメージを演出するには次に解説するマレットを使ったMuteや手を使ったMuteを、このDampeningに併用すると絶大な効果を発揮します。
[練習用サンプル素材](marimba debut誌「Vibraphone Information/赤松敏弘著」より)
●Mute/MalletによるMute (Dampening Techniques)
全てのMuteをペダル操作だけで行うことは不可能です。そこでマレットを使ったMuteが必要になります。基本的な考え方は次の状況をイメージするとニュアンスが理解できると思います。Dumpening Techniqueはペダルとマレットを同時に併用して意図する音のみを消す奏法なのです。
貴方が演奏中に不本意なミストーンを出したと仮定します。「これはマズイ!早く消さなきゃ・・・・」。最も早く処置を施すにはペダルを上げてダンパーで消音する事ですが、その場合必要な音や響きまで失う事になります。コードを演奏している場合であれば1つのミストーンの為にコード全てを消音する事になってしまいます。必要な音を残しつつ不必要な音を処理するにはダンパーは使えないわけです。少なくともそのパッセージやコードの中でのダンパーはそのまま保留すべきです。そこで自由度の高いマレットや手でミストーンを消す事を自然に思い付くはずです。言わばこの楽器の誕生から今日に至るミストーン処置の変遷が奏法を確立していると言うとちょっとヒンシュクものですが、僕はそう思っています。だって初心者が最初に行う行為ってこれなんですよね。ミスしたから消す。これが基本です。
さて、そのMalletを使ったMuteは何種類かあり、演奏する素材やイメージ、テンポによって使い分けています。
1.使わないマレットによるMute・・・・・・・・・・おもにスケール的な音列の一音一音をクリアーに演奏する場合に上向する場合は右手のマレットで演奏し左手のマレットで消音します。下向の場合はその逆で、どちらもペダルは踏んだままです。スラーやテヌートといったイメージが演出できます。
2.叩いたマレットで叩いた音をMuteする・・・・・・これは音の跳躍がある時に多用します。ただし次に連続する音がある場合のみ効果を発揮します。基本動作はダブル・ストロークと同じですがMuteする音にマレットを軽くあてて消音する為に少しばかりトレーニングが必要です。効果はスラーやテヌートで、もしもメロディーを演奏してみてフレーズ的な区切りと音の跳躍が一致しない部分(つまり音は跳躍するがテヌートで演奏したいと思う時)に使うと絶大な威力があります。もちろん該当する箇所のペダルは踏んだままです。これの応用で隣り合わせ(但しナチュラル・バーとクロマチック・バーの組み合わせは無い)の鍵盤をスライドさせてMuteする奏法で装飾音符に対応したDumpeningです。
その他にもありますが、まずはこの2つが演奏に取り入れられる事をマスターすべきです。
●その他のMuteと周辺の奏法
マレット以外またはそれらを応用したMuteは数多くあり、いずれも60年代にはジャズで使われていたテクニックです。音が延びる楽器の開拓としてこれらの奏法はすでに特別のものではなく、必要に応じて演奏者が使い分けています。CD等を注意深く聴くとはっきりとその使い分けが聞き取れますが、最も早いのはライブを見る事に尽きます。ヴァイブやマリンバはドラムに比べると音量的にも大衆的なイメージもどちらかと言えば大人しいイメージですが、ステージとなればそのパフォーマンス性とアピール度は逆転現象を起こします。現在人気のある楽器は演奏する奏法がオーディエンスに直接アピールする楽器ほど人気があります。ギターにしてもサックスにしてもそれは大変重要な事なのです。と、言ってもその部分は自分の中で留めるとして、これらアピール度の高い楽器は見る事によって、その奏法の秘密が暴かれる(?)ので、奏法の基本的な予備知識を持ってステージを見ると、ここでちょっと複雑に解説している事が単純に理解できると思います。
その他の奏法で実際に自分で過去に取り入れたものを挙げてみます。
1.ベンド(Bend)奏法・・・メイン以外のマレットの1つにフェルトで巻かれてない硬質のマレットを使います。鍵盤を擦って振動数を変えて音程を下げるものでパーカッションのボンゴやコンガのテクニックを応用したものです。この奏法を僕が最初に聴いたのはゲイリー・バートンの"Lofty Fake Anagram(邦題・サイケデリック・ワールド/ビクター)"でした。余談ですがこのアルバムが僕の買ったゲイリー・バートンの最初のアルバムでした。当時小学生でしたがこのベンド奏法には興味深々でした。それにしても邦題のサイケデリック・ワールドとは・・・・・?今もって不思議なタイトルだなぁ。自分の演奏ではアルバム"アンファン・/ポリドール"等で使っています。
2.ベンド#2・・・・・これは正式な名称を知りませんが、ジャズよりも現代音楽で開発された奏法のひとつです。弦楽器の弓を使って鍵盤を弾く(もちろんペダルは踏んだまま) とグラス・インストゥルメントの様なクリアートーンが出ます。初めて接したのは作陽時代のパーカッション・アンサンブルで演奏した現代曲の中の演奏指示でした。
3.Mute/Hand・・・・これはマレットによるミュート2の後半に書いたスライド・ミュートでは対応できないクロマチック・バーとナチュラル・バーの間を結ぶ装飾音符に使います。おもにナチュラル・バーが装飾音符の場合に有効で、同じマレットで連続演奏させた時にナチュラル・バーの音を手の甲で消音するものです。ペダルは踏んだままで、素早い消音に効果があります。ライブで御覧になると鍵盤に手をあてる時があるのがわかると思いますが、これがこのMuteをおこなっている瞬間なのです。この少し上のMallet/Muteに掲示してある写真もカメラマンが偶然捕えたその瞬間の写真です。けっして間違ってあわてて消しているわけではありません(たまにそのような事もありますが・・・・)。
4.Dampening/Half (Flutter Pedaling)・・・・解説図にもありますがダンパーを半分だけあてるテクニックがあります。これはピアニスト、ビル・エヴアンスが多用していたテクニックでニュアンスを付ける場合(特にコードによる伴奏時)に効果があります。また、早いパッセージなどで少し響きを求める場合に使います。
5.Dampening/After-pedaling・・・・ピアニスト、ビル・エヴァンスの演奏に代表されるようなコード奏法の一つで、コード(主にブロッキング・コード)の余韻をダンパーを操作する事で減衰時間をコントロールするテクニックです。完全に消音しない上記4.のハーフ・ペダリングを使ってニュアンスを出します。
6.Wow・・・・これはMuteとは言えませんが4本マレットの場合コードの響きをなるべく自然なものにするべく、ビブラートの使用を止めていますが、ある音だけにビブラートをかけたい場合に使います、が、あまり低い音には効果がありません。ビブラートをかけたい音をペダルで延ばし、その鍵盤の上に口を近づけます。さらに口をパクパクさせるとビブラートをかける事ができます。でも、これはあまり使いませんね。ちょっと妙ですから。知らない人にとってはね。
曲を演奏する時、単旋律のメロディーにDumpeningを使うだけでヴァイブラフォンの音色の表情と魅力が倍増します。一見複雑な操作に見えますが、自分の残したい音と残したくない音を適確に処理をする事で楽器の欠点である一括的なペダリングの不具合解消を目指しましょう。一度覚えると、今まで無頓着だった残響処理のまずさに気付くかもしれませんよ。それは、それは、大きな発見に繋がるはずです。是非お試しあれ。
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コード奏法基本編
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・コード奏法の基礎-1
・コード奏法の基礎-2
・コードネームの歴史雑学
・伴奏に於けるマレットの組み合せ-1
・伴奏に於けるマレットの組み合せ-2
・4本マレットのグリップ安定練習例
4本のマレットを持つと4本をどのように使うかが難題として立ちはだかるかもしれません。多くの初心者はここで面倒になって諦める場合もあります。でも、そんな短気にならないで、ここに書く事を読んでから判断してみてはどうですか?山はそんなに高くはないのです。
そもそも楽譜に全てを記譜する音楽であればChordの譜面は4声以上で書かれ、複雑怪奇な世界になってしまう。僕もそうであるなら決して4本マレットなど使わなかっただろう。ではなぜ今日まで4本でやって来られたのか???。それはコードネームという便利な暗号のおかげ。これが無かったら4本というものを簡単に思えなかった。4本を持つというのは、すなわちコードネームを読むという訓練から始まるわけだね。
コード奏法の基礎-1
コードネームは文字通り和音に対する名前です。御存じの方も随分増えた事と思いますが、簡単にオヤクソクをおさらいしておきましょう。
[sample-#1]
コードのルート(根音)を揃えて並べるとコード毎に変化する音がわかります。同じ小節に書いているので変化する音を臨時記号(フラット)で表しています。
■CMaj7の構成音はroot,3rd,5th,7thです(C,E,G,B)。
■C7の構成音はroot,3rd,5th,b7thです(C,E,G,Bb)。
■Cm7の構成音はroot,b3rd,5th,b7thです(C,Eb,G,Bb)。
■Cm7(b5)の構成音はroot,b3rd,b5th,b7thです(C,Eb,Gb,Bb)。
■Cdim7の構成音はroot,b3rd,b5th,bb7th<6th>です(C,Eb,Gb,A)。
これはルートにいかなる変化が起こってもルートからの各構成音との間隔(度数)は変化しません。
[sample-#2]
この例はKey of D minerの場合ですが、ルートを示す左側の音名が変化しても右側にあるコードのタイプは上の5種類と何ら相違しない間隔となっています。
コードネームに関してのこの基本的なシステムをまず理解してから次のステップへ進みましょう。
コード奏法の基礎-2
実際の楽器(Vibraphone)で伴奏を行う上で最も重要な事は音域の使い分けです。これはピアノのように音域の広い楽器でもヴァイブのように音域の狭い楽器でも同じ事が言えます。つまり他のパートに干渉しない事が原則。メロディーとして使われる音域、ベースが演奏で使う音域、これらを無視してコードを鳴らす時は、相手に貴女(貴方)がコードを用いたポピュラー系アンサンブルの経験者かそうでないかを露見させます。それほど熟練とセンスを要する事でもあります。
メロディーと同じ音域に和音を挿入すると邪魔になり、またベースが必ず演奏するrootを改めて伴奏で鳴らす事にあまり意味はありません。そこでTensionの挿入、またはアプローチによる回避といった項目を知る必要がありますが、それは専門的な教育や指導、その他で修得できる環境なので、ここでは奏法としての基本的なスタンスについて述べておきます。
伴奏として用いるに相応しい音域(Range)という事の何か定義を設定しなければなりませんね。そこでアレンジなどで度々登場するGuideToneを設定する場合にキーボードで使う音域を伴奏音域として活用する事にします。
[Sample-#2]
Sample-#2を見るとコード伴奏の音域が上下に分散されています。ルートとなる音から単純に上に重ねるとこうなってしまいますね。すると共演者にとってこれは伴奏として非常にうるさい状態(メロディーと伴奏が干渉している状態をうるさいと表現する事があります)となってしまいます。これを整形し、なるべく一定の音域内に伴奏を留める為にはコードの転回形を知らなければなりません。その考え方として次のポイントがあります。
●コードの構成音から3rdと7thをピックアップする。
●ピックアップした音を連結してGuideToneLineを作る。
コードの性質を最も反映した音である3rd(b3rdも含む)と7th(b7thも含む)をピックアップし、この2声どうしの連結でなるべく跳躍を避けるとGuideToneLineを作る事が出来ます(Tritoneを含むこれらの音でコードの性質/機能を表す事が出来ます)。後にテンションなどを含む場合も原則としてこれらの音は優先的に考慮されます。
では実際にSample-#2を使ってGuidToneLineを作ってみましょう。
最初に各コードの3rd(b3rdも含む)と7th(b7thも含む)を並べます。ここからは臨時記号によって記入していますから注意して下さい。
次にrootと5thを上に配置します。
これでコードの構成音全てが揃ったわけですが、音域を見るとこのままではメロディーと干渉する可能性が大です。テンションを配置する場合はこの上に配置したコードトーンを置き換えますが、ここでは初歩的にまず密集和音(Closed voicing)を転回する事によってベーシックな音域で伴奏を固める事にしましょう。
やり方は楽器(vibraphone)の最低音域から上にコードトーン(ChordTone/コードの構成音)を重ねて行きます。これによって各コードの転回形による最も低い位置(ポジション)のコード構成が判明します。(通常vibraphoneの最低音はFです)
これでメロディーとの干渉をかなり回避する事ができました。しかし、今度はベースの音域に近づく事によって、ベースラインとの干渉を処理しなければならなくなります。そこでベースの必ず演奏するrootの音をテンション・ノートに置き換える事にします。便宜上、9thを優先的に使用する事と仮定し、一部サポート・テンションを使用しますが、その理由等は専門的なテキストや指導によって用法を理解する必要があります。
[修正後]
再びSample-#2と比較すると音域やサウンドが改善された事が分かるでしょう。
4本によるコード奏法のまず第一歩は、これらコードネームに秘められたオヤクソクの把握から始ります。
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[コードネームの歴史雑学]
ここでこのコードネームの歴史について雑学を少し。この便利でしかし慣れないと難解なコードネームというのはいつ頃からあるの?という素朴な疑問がmayoriさんというリスナーからBBSに寄せられました(2004/09/04/スレッドNo.2736)。確かにそれについてあまり一般では知られていないですね。BBSにレスした内容を雑学としてまとめておきます。知ってると何かの時に、、、あまり自慢にはならないかも。。
質問>コードネームはいつ頃、誰が発明したのでしょうか?
赤松> お、基本中の基本。でも案外知られていないし確かに「私が作った」と商標登録されているわけでもないので雑学的に通説を書きます。(生まれてないし)
この件に関してバークリーのジャズ史の授業で頻繁に出てきたのがJelly Roll Morton(1885~1941)です。彼は黒人とフランス人のハーフでクレオールと呼ばれる社会に育ったそうです。ジャズを誕生させたのは黒人でも白人でもなく彼等クレオールだと言われています。Jelly Roll Mortonは当時(1900年前後)アメリカの中部(ミズーリ州)から流行ってきた「ラグタイム」(木琴やマリンバの世界でもスコット・ジョップリンが有名ですね)に影響されてニューオリンズ・ジャズを作ったとされています。ラグタイムは西洋音楽独特のシンコペーションを使った完全な書き譜音楽でしたがコード進行は簡素化され短い周期で完結するポピュラー音楽でした。後のブルース形式の元祖とも言えます。さて、Jelly Roll Mortonですが、彼はメロディーの譜面に西洋音楽の和音記号(ディグリーコード)に実音を加えた記号で和音の形を示す方法を作ったとされており、それがコードネームの始まりとも言われています。音符で書いても記号で書いても大差ないのなら略式という事です。やがて和音の進行をコーラスという短い形で何回も繰り替えされるポピュラー音楽ではそれが重宝されるようになり、さらにコード進行に新しいメロディーを即興的に付けるジャズの形式に繋がりました。それで本人も「私がジャズを作った」と公言しているのです(でもかなり批難されたようですが、、)。彼の言葉を信じれば1920年代にはニューオリンズ・ジャズとして彼が作った曲にはコードネームが使われていたという事になります。
質問>その音楽を聞く事が出来たら何かスッキリするかもと思っただけです。
赤松> Jelly Roll Mortonを意外なところで見た事があります(と、言っても本人ではありませんが) 3~4年前に「海の上のピアニスト」という映画がありましたが御覧になりましたか? ただタイトルだけで観に行った映画だったのですが、これにJelly Roll Mortonという人物が本名のまま出てきてびっくりして新宿の映画館の床にフライドポテトを巻き散らしそうになりました(笑)。まぁ、映画のストーリーは架空の主人公ピアニストの話しとしても、実際にその時代の人物としてJelly Roll Mortonが描かれているとは。。。。主人公とピアニスト対決みたいなシーンでしたが、まぁ、それはそれ、主人公の引き立て役としてそのバトルはかなり笑えました。この映画のビデオはレンタルで入手しやすいでしょう。まぁ、もう少し歴史上の人物としてJelly Roll Mortonという人に敬意を払ってもいいと思うような脚本でしたが、、(笑)純粋に音楽だけでしたらいろいろあるようです。ざっと検索してみたら以下のサイトなど参考になります。
「Listen Japan」
http://www.listen.co.jp/artdetail.xtp?artpg=track&artistid=15663
[2004年9月7日追加]
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[伴奏に於けるマレットの組み合わせ-1]
投稿メールで最も多い質問がこの伴奏時に於けるマレットの組み合わせ方です。特にマリンバを演奏している人は、まず頭の中で上の項目(コードネームのオヤクソク)を理解してから、さらに次のポイントをヒントに奏法を開拓・整理して下さい。
1.)マリンバは3度の響きを重視してマレットを組み合わせますが、ヴァイブには制約がありません。それはダンパーによって音を自在にサスティーンできる為、片手2本ずつによるトレモロを使った2声和音の響きの成形という概念が無いためです。(同時に音を発生し等しく延長できる楽器と減衰する楽器の違い)
2.)ペダルによってある程度身体の動きに制約があるので、無理な姿勢やフォームでは演奏できません。これは足元が自由なマリンバとは対照的です。
では、コードを演奏する場合の基本的な考え方を述べましょう。ただし、これは初歩的なものだけですから、詳細や追求は個人のアイディア叉は専門のレッスン等の指導を受けて下さい。
[伴奏に於けるマレットの組み合せ-2/コード演奏でよく見られる不自然なマレット組み合わせの改善]
AbMaj7のコードです。この例の場合、左の組み合せでは手首を捻ってしまいます。また右の組み合せでは不必要に腕をひらかざるを得ません。ペダルに足を固定するヴァイブでは、なるべく腕を捻らない事を考慮したフォームで演奏しなければ身体を支えるバランスを崩してしまいます。
そこでなるべく不必要な動作を排除したフォームを考えると次のようになります。
この形でフォームを考えると次のようなコ-ド進行の時でも姿勢を崩さずスムーズに連続演奏が可能です。
Cm9
G7(b9)・・・HMP5
Fm7
この例から分かるように、マレットは必ずしもコード構成音の高低と各マレットのVoicing(例えば常に左側のマレットから上に向って順に構成音を叩くとか)は一致しません。マリンバであればトレモロの響き方を考えると、ここで不可とするフォームを用いる事が多いと思いますが、ダンパーによって全部の音を均一に延ばす機能を持つヴァイブでは、なるべくスムーズで合理的な組み合わせを優先します。
これはペダルを踏む足が半ば固定されているヴァイブの特徴でもあり、コードネームで演奏をする場合には、素早くアイディアを演奏に反映させなければならない事情にもよります(音だけでなくソリストに応えるリズムもその場で作らなければならない為です)。最初にコ-ドネームを読み、どの音域の音を選ぶかはソリスト次第で変化します。その時にフォームが不自然に大きかったり(特に腕を捻ると反応が鈍くなります)、すぐに次のコードへの移行が複雑になったりすると、演奏に与える影響はかなり大きなものとなってしまいます。
これらを読んで、基本的な事が理解できたら、貴方(貴女)流のやり方を開発する事を勧めます。
さらにテンションを有効に使う事によって、実はマレットの組み合せもシンプルに整理され、一つのVoicingで複数のコードを演奏する事が可能となります。
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ここに掲出した例はEbMaj7の伴奏例で、AbMaj7とも共通します。従って数限り無くあるコードのポジションを全て覚える必要は無く、一つのポジションで共有するコードを集めると思ったよりも簡単に(合理的に)マレットの組み合せを開拓できるでしょう。
この考え方に至ったのはクリニック中級編で述べたスケール練習のパラリドル応用を考え始めた頃でした。ひと粒で2度3度美味しいポジションを見つけるのは貴女(貴方)の冷静な洞察力とコードネームに秘められた暗号の解析を置いて他はないのであります。
Websiteで公開できる内容には限界があります。ここにあげた例はあくまでも入り口の一部分にしかすぎません。しかしここまでは個人でも充分予測可能な範囲と言え、独習によって辿り着ける場所でもあります。しかし演奏技術の開拓はこの先に広がる音楽表現方法へと繋がります。従って単に楽器の練習をするだけでなく、必要な音楽セオリー、アレンジ能力、構成、さらにインプロヴィゼーションや作曲といった音楽表現全てを取り入れたヴァイブという楽器の魅力を開拓して下さい。その為には貴方(貴女)をリードしてくれる良き指導者や共演者を探しに出る勇気が必要かもしれません(ホントCDを聴くだけでは何にも分からないのです)。常に一人で考えていても音楽表現の吸収にはならないので、なるべく多くの事を目撃する環境を設けて下さい。きっと新しい何かを発見するでしょう。
1998年10月22日記
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●4本マレットのグリップ安定練習例
投稿で多くいただくのがスタンダードグリップ(トラディショナルグリップ)からバートングリップに変更した場合の技術的な問題に関しての問い合わせです。クロスノイズ等、その多くは個人的な課題と思われますが、グリップの安定に関して何かヒントを、という方が多くいますので一つの練習例を追加する事にしました。
従来のグリップ(スタンダード、トラディショナル)では大半の人が4本の(左右)内側の2本を使ってメロディーを演奏していましたが、バートングリップは各々右側のマレットを使用しますから慣れるまでに少し練習が必要でしょう。
バートングリップがコードミュージックで威力を発揮する事は理解できていると思うので、ここでは単旋律を演奏するシングル・ストロークの練習例を掲げます。
悩みとして最も多いのがミストーンの問題です。音階のように均一な並びを順次演奏する時は問題ありませんが、基音と派生音がミックスされマレットを鍵盤上でクロスする場合や跳躍直後のように微妙なグリップのコントロールを要求されるシーンでマレットの軌道を安定させる練習方法の一例です。
示した例を演奏する時、右利きの人は上行、左利きの人は下行が苦手かもしれませんね。ここで掲げるメソードはダブル、トリプルといった複合ストロークを使わずにシングル(左右交互に)ストロークを強化する目的のものですが後にはダブルストロークの練習としても応用できます。またミュートやマレットダイプニングの練習としても活用出来る事を付け加えておきます。
メソードは必ず2つの方法でマスターして下さい。
(1)L-R-L-Rで始めるパターン
(2)R-L-R-Lで始めるパターン
最初の内はこのどちらか(利き手ではない方から始まるパターン)がやり辛いでしょうが、グリップが安定して無駄な力が抜けてくると左右どちらからでも同じように演奏できるようになります。また、このメソードを練習する事で、使わないマレットの固定(安定)も自然にマスタ-出来ます。気長に正確にゆっくりからマスターして下さい。但し無茶な練習に至らない様に。
[Ex-21]
鍵盤と身体(姿勢)の位置を記憶する練習です。楽器に対する条件反射を整えます。
練習方法は自分で克服したい課題を分析し工夫すれば自分のオリジナルメソードが出来ます。ひとつの練習方法も見方を変えると他の課題を同時に克服している時があります。そのように練習方法を開拓して行く事は楽しい事かもしれませんよ。
2004年6月27日追記
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